『バクラウ 地図から消された村』 宇宙と西部劇とJCと

外国映画

監督は『アクエリアス』などのクレーベル・メンドーサ・フィーリョと、ジュリアーノ・ドルネリス

カンヌ国際映画祭コンペティション部門で審査員賞を受賞した作品。

あやしげな導入部

ブラジルの辺鄙な田舎道をトラックが走っている。なぜかその道にはあちこち棺桶が落ちていて、トラックはそれを踏みつぶしながら走っていく。トラックからバクラウ村に降りたったテレサ(バーバラ・コーレン)は村に入る時に、何かクスリを飲まされる。それがどんな理由に基づくのかも示されず何やらあやしげな雰囲気が続き、よくわからぬままに話は展開していく。

テレサが村に帰ってきたのは、長老の女性が亡くなったからなのだが、それ以来、村では不可思議な現象が続発する。UFO型のドローンが上空を飛び回り、ネット上の地図から村の情報が消えてしまう。普段は知らない人が訪れることもない村に、派手なバイカーがやってきて様子を探ってみたり、さらには村外れでは人が殺されたりもする。バクラウ村では何が起こっているのだろうか?

(C)2019 CINEMASCOPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA

敵の正体は?

次第にわかってくるのは村が誰かに狙われているということだ。それが一体どんな理由なのかもわからないのだが、敵側のボス・マイケル(ウド・キア)を中心とした白人のアメリカ人たちが村を監視し、住民たちを皆殺しにしようとしているのだ。

彼らの目的は人間狩りだ。最近公開された『ザ・ハント』と同じだ。この白人たちは遊び半分で人間狩りを楽しむ頭のおかしな連中なのだ。その中のひとりは街に銃を持って出てみんなを殺してしまいたいという欲望に駆られ、いつもそれを抑えてきたという。そんな自分の欲望を叶えてくれるのが今回の村人を皆殺しにする作戦で、狂った人間狩り集団と村人たちの対決がそのクライマックスとなる。

※ 以下、ネタバレあり!

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一種の西部劇?

不可解な出来事の数々に関してネタバレしてしまうと、水の利権に関する争いで村の嫌われ者となっていた市長が元凶だ。市長は彼の政策に反対する村の存在が邪魔になり、村ごとすべて消し去ってしまおうと考え、マイケルたちを雇ったらしい。とはいえ本作はそのオチ自体が重要ではないようで、様々なジャンルの映画を横断するかのように観客を煙に巻くところがキモなのかもしれない。

終わってから振り返ってみると、本作は一種の西部劇の形を採っている。市長がやって来ると、ふいに姿を消してしまい静まり返る村の様子や、そこを襲撃してくる敵を迎え撃つ村人たちという構図がそうだろう。そして、村人が助っ人を頼むあたりは『七人の侍』あたりの展開にも似ている。後から振り返るとそんなふうには思うのだが、観ている間はどこへ向かっているのかよくわからない。余計なものが多くて、ゴチャゴチャしているからだろうか。

というのも、冒頭はなぜか宇宙から始まる。宇宙が関係してくる西部劇なんて『カウボーイエイリアン』くらいなんじゃないだろうか。その宇宙が何かにつながるのかもわからずに、UFO型のドローンが村人たちを監視しているのだが、その監視される村人たちがかなりの奇人変人揃いなのだ。なぜか全裸で生活している老夫婦がいて、その無防備な姿の村人が家の中にはショットガンを隠し持っていて、敵を返り討ちにして頭を吹き飛ばすという展開にも驚かされた。

(C)2019 CINEMASCOPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA

そして、隠し玉のように加えられているのがジョン・カーペンターなのだ。実は本作の最初にかかる曲はカーペンターの曲だったのだとか。カーペンターは2010年のザ・ウォード監禁病棟』を監督して以来ご無沙汰だが、2015年にミュージシャンとしてデビューしている。

カーペンターは自作の音楽も担当してきたから意外なことではないのかもしれないが、『Lost Themes』というアルバムを発表していて、本作に使用されているのはその中の「Night」という曲なのだ。その曲がかかった時、どこかで聴いたような感じがしたのは、たまたまカーペンターの『アンソロジー-ムービー・シームズ 1974-1998』というCDを聴いていたからだろうか。カーペンターの曲はどれもとてもシンプルだけれど、耳に残りどこかか不安を煽ってくる。

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最後に村人たちが籠城して闘う構図はカーペンターがハワード・ホークスの『リオ・ブラボー』を意識して製作したジョン・カーペンターの要塞警察』とよく似ている。恐らく宇宙から始まるのは、カーペンター作品へのオマージュということなのだろう(『遊星からの物体X』が意識されているのだろうか)。実は村の学校の名前が「ジョン・カーペンター記念学校」となっていたりもしているらしく、こっそりと「カーペンター愛」が隠されているのだ。私はそんな細部にはまったく気がつかなかったのだが、わかる人にはわかるというネタが隠されているのだ。

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社会派作品という評価

本作に関しては、ブラジル社会を暗に批判している社会派作品という評価があるようだ。西部劇なのに社会派作品という部分がいまひとつ飲み込めなかったのだが、クレーベル・メンドーサ・フィーリョ監督の前作の『アクエリアス』(Netflixにて配信中)を観てみると、なるほどと思わせる。

『アクエリアス』は資本主義社会において憂き目に遭う女性が描かれる。題材となっているのは建設会社からの立ち退き要求なのだが、主人公(本作でも重要な役柄を演じたソニア・ブラガが演じる)の頑固なおばあさんはそれに従わずに独り闘うことになる。しかし、そんなテーマが浮かび上がってくるまでには時間がかかる。145分の作品は、主人公が追い出しに遭うマンションの一室が、主人公にとってどれだけ大切な場所であるかをゆっくりと描いていく。そもそもその場所は主人公の母親が父親との愛を交わし云々というところから始まり、そんな大切な場所が建設会社の資本主義の論理によって無残にも壊されようとしていることが示されるのだ。

『バクラウ 地図から消された村』では、村が市長というひとりの政治家の力によって消されようとしていたわけだが、これは復讐を描く西部劇のパロディのようでいて、ブラジル社会において実際に起きていることが重ねられているのだ。ブラジル社会に関して知っている人が観れば、単なる娯楽作以上のものが込められていることがわかるのかもしれない。

それにしても好戦的な村人たちは一体何者なのだろうか。意味ありげに語られていたバクラウの資料館には首狩りの写真が誇らしげに飾られていたところを見ると、首狩り族の末裔ということだったのだろうか。とにかくちょっと風変わりだが、マニアックな部分に気づいた人は楽しめるのかもしれない。

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