『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』 国王の資格とは?

外国映画

2018年の『ブラックパンサー』の続編。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の第30作。

監督は『ブラックパンサー』、『クリード チャンプを継ぐ男』などのライアン・クーグラー

主役を喪った続編

前作『ブラックパンサー』は黒人監督による黒人が主演を務める作品でありながら大ヒットを記録し、ヒーロー映画としては初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされる成功を収めた。当然ながら続編が作られることが決まったわけだけれど、それは途中で計画の変更を余儀なくされる。

主人公のティ・チャラを演じたチャドウィック・ボーズマンが病で亡くなってしまったからだ。代役を立てて計画していた物語を続けることもできたはずだが、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』はそれをしなかった。ティ・チャラ=チャドウィック・ボーズマンであり、ほかの人を代役に立てるのは難しかったということらしい。それほどチャドウィック・ボーズマンの存在が大きかったということだろう。

そうなるとティ・チャラのキャラクターも亡くなったという設定にするほかなくなるわけで、計画していた物語はあきらめざるを得なかったということになる。そんな経緯をたどり出来上がった本作はボーズマン追悼の作品でもあり、同時にティ・チャラという国王を喪った周囲の人間たちがそれをどのように受け入れるかという話にもなっていて、物語世界と現実がシンクロしたような内容になっている。

(C)Marvel Studios 2022

大いなる力には……

そもそもワカンダという国はヴィブラニウムという鉱石の力で発展してきた。これは地球上で一番硬い鉱石という設定で、キャプテン・アメリカの盾の素材にもなっているし、様々な武器にも使えることになっている。さらにはヴィブラニウムのある土地の植物はその影響を受けることになり、そこに生えた特殊なハーブを飲むことでワカンダの国王はブラックパンサーの力を得られることになった。

しかしこのオールマイティーな力は使い方によっては危険なことになるのは言うまでもない。『スパイダーマン』の有名な台詞で言えば、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」というやつだろう。ワカンダはヴィブラニウムの力によって密かに発展してきたのだが、前作の最後で鎖国状態だったワカンダは国際社会に門戸を開くことになり、秘密にされてきたヴィブラニウムに関しても情報公開されたようだ。

そうなるとほかの国はヴィブラニウムが喉から手が出るほどほしいのか、武力でそれを奪おうとする国も現れることになる。ラモンダ女王(アンジェラ・バセット)が国際社会に対して苦言を呈したように、そんな魂胆を持つ国がヴィブラニウムの力を持つことになったとしたらロクなことにならないのは目に見えているだろう。

ブラックパンサーの力もこれと同様だろう。ハーブを飲めば誰でもブラックパンサーの力を得られるのだとしても、それだからといってワカンダの国王の資格があるのかと言えばそんなことはないのだ。前作では、ティ・チャラとキルモンガーという二人のブラックパンサーの闘いになるわけだが、これも国王の資格を争ったようなものだったからだ。

キルモンガーという魅力的なヴィランは、ティ・チャラに対しワカンダ以外の場所で苦しんでいる黒人同胞たちを見捨てるのかという疑問を投げかける。しかし、キルモンガーのやり方は世界の同胞に対して武器を届け戦争を仕掛けるという大きな問題をも孕んでいた。ティ・チャラは王としてキルモンガーの一部を否定し、一部を取り入れた形になったと言える。

(C)Marvel Studios 2022

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国王の資格とは何か?

本作も前作と同じように主人公が敵対する相手と闘うことで、王であることの意味を考え直すような経緯をたどる。主人公シュリ(レティーシャ・ライト)と敵対するのはネイモア(テノッチ・ウエルタ・メヒア)だ。

ネイモアは海の中にあるタロカン王国の国王だ。ネイモアの別名はククルカンとされ、これはマヤ文明やアステカ文明における神であり、「羽を持つ蛇」という意味とのこと。劇中のネイモアには足首に小さな羽がついていて、それで自由に空も飛び回れるし、海の中も泳ぎ回るスーパーパワーの持ち主なのだ。

タロカンはかつては地上の王国だったのだが、侵略者によって占領され海に逃げ延びた国という設定だ(タロカンもヴィブラニウムを保有しているから、その力が働いたということだろうか)。なぜか一部の民が青い肌をしているから続編が公開される『アバター』を思わせてしまうのが難点だが……。

そんなシュリとネイモアの二人は、ワカンダとタロカンの王という点で共通しているし、それぞれが個人的な恨みで動いている点でも同じだ。シュリは兄を失くし、そのことが「世界を燃やしたい」とまで考えさせることになっているし、ネイモアもかつて地上から海の中へと追いやられたことへの恨みを抱えている。しかしながら、やはり国王たるにはそれではダメなのだろう。

シュリがハーブを飲んだ時の幻想の中に現れたのはキルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)だった。そして、キルモンガーは自分とティ・チャラの違いに触れ、ティ・チャラには“気高さ”があったと語る。多分、この言葉は抽象的ではあるけれど国王たる資格を一番的確に表した言葉なのだろう。気高さがなければ国王になる資格はないということだ。

シュリとネイモアは闘いの中でそうしたことに気づく。そして、自分たちの国の民のことを考えれば和平を選択することが一番だというところに至るのだ。これは当たり前といえば当たり前だ。民は誰も戦争なんかを望んでいないからだ。そんな意味で、本作は前作と同じことをもう一度繰り返したような形になっているとも言える。

(C)Marvel Studios 2022

穴があったら……

ティ・チャラは王座にくべくしていたという風格があった。長男としてそんなふうに育てられたからなのかもしれない。しかし、本作のシュリはちょっと違うだろう。伝統を嫌い、科学を好む今風な人間なのだ。

前作におけるシュリの役割としては、お茶目な妹役として、あるいはブラックパンサーのサポート役として、あくまでも脇にいた存在だ。『スパイダーマン』で言えば、いわゆる“椅子の男”というやつで、脇に回って主役をアシストするような役回りだ。そんなシュリが予想外のティ・チャラの死によって王座に就くことになってしまう。

スパイダーマンがピーターではなく、“椅子の男”のネッドに代わるというのはあり得ないわけで、これはなかなか大変な選択だったのかもしれない。もちろん血統としては問題ない。シュリはティ・チャラの妹なわけで、実際にほかに選択肢はないとも言えるのだが、それでもこれまでの脇の存在から中心に据えられるシュリのプレッシャーは計り知れないものがあるだろう。

(C)Marvel Studios 2022

シュリは科学の力でキルモンガーによって焼かれてしまった特殊なハーブの力を蘇らせ、ブラックパンサーの力を手に入れることになる。しかしながら、ブラックパンサーのスーツを着た時の体格の違いは明白で、シュリの姿はあまりにもスレンダーすぎて、強さはあまり感じられない。

そんな意味でもやはりティ・チャラの穴は大きかったとも言えるわけだが、本作ではその穴をほかのキャラクターたちが埋めることになる。前作でティ・チャラがひとりで大部分を担っていたところを、シュリを中心にしたワカンダの面々が共同で担うことになるのだ。

オコエ(ダナイ・グリラ)は一度はラモンダによって国王親衛隊“ドーラ・ミラージュ”をクビになるものの、やはり王座に対する忠誠心でシュリに協力していくことになるし、ティ・チャラの元恋人ナキア(ルピタ・ニョンゴ)も遠くからワカンダに戻ってくる。前作ではティ・チャラの王座に挑戦したエムバク(ウィンストン・デューク)は、好戦的な戦士に見えたけれど、「“神”であるネイモアを殺せばワカンダとタロカンは永遠の戦争状態に陥る」と至極真っ当な助言をシュリに与えることになる。ブラックパンサーとなったシュリだけではなく、ワカンダのひとりひとりの力がティ・チャラの穴を埋めるべく行動した姿はやはり泣かせるものがあった。

本作が161分という長尺になったのは、そんなふうに準主役があちこちにいたからかもしれない。ワカンダとタロカンが敵対するきっかけとなるリリ・ウィリアムズ(ドミニク・ソーン)は後にアイアンハートという、トニー・スタークの後継者になる人とのことで、そんなちょっと余計な(?)エピソードも混じっているからでもある。

ディズニーからすれば映画でちょっと顔見せをしておいて、配信サービスのドラマシリーズに結びつけようという魂胆というわけだ。まあ、それはわかるのだけれど、あまりに矢継ぎ早のドラマシリーズの連打でちょっと追い付けなさそうだけれど……。

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