『三体』 もうひとつの『三体』

テレビドラマ

原作はヒューゴー賞を受賞した劉慈欣の同名小説。

製作陣はデヴィッド・ベニオフD・B・ワイスなどの『ゲーム・オブ・スローンズ』を手掛けたチーム。

各エピソードの監督には『少年の君』デレク・ツァンや、『ファインディング・ニモ』アンドリュー・スタントンなどの名前が挙がっている。

原題は「3 Body Problem」。

物語

1960年代の中国、ある若い女性が下した重大な決断が、時空を越えて現代に影響を及ぼす。自然の法則では説明のつかない、不可解な現象を目の当たりにした有能な科学者たちは、この事態に果敢に立ち向かう捜査官と手を組み、人類史上最大の脅威に挑む。

『シネマトゥデイ』より抜粋)

もうひとつの『三体』

このドラマはすでに配信されている『三体』の別バージョンということになる。中国の配信プラットフォーム「テンセントビデオ」で配信された『三体』(日本ではWOWOWU-NEXTにて配信中)と同じ原作をもとにしているわけだが、Netflixが制作し配信しているまったくの別物ということになる。

私自身は原作を読んでいないのだが、恐らく中国テンセント版の『三体』は、原作の第一部を忠実に映像化した形になっているものと思われる。その分、分量も長大になり、全30話という構成になっていた。

一方のNetflix版の『三体』は全8話しかない。中国テンセント版が全30話をかけて丁寧に描いたところをNetflix版では第5話までで駆け抜ける形になる。当然ながら、先に中国テンセント版を見ている側としては物足りない気もするし、ダイジェスト感も半端ない。

正直、Netflix版でよかった点を挙げるとすれば、ゲーム「三体」のコントローラーのデザインがちょっとシャレていたところくらい。最初はそんな感想も抱いていたのだが、第5話の終わりあたりから中国テンセント版の『三体』とは別の展開をしていくことになり、そこから一気に盛り上がることになる。

Netflix版としては、中国テンセント版と同じことをやっても仕方がないからということなのか、原作の第二部と第三部のエピソードも混ぜ合わせる形にしているということらしい。それによって長大な原作をうまくまとめようとしているのだ。

『三体』 Netflixにて配信中

オックスフォード5

それに伴ってキャラクターの構成もかなり変わっている。中国を舞台にした三体人との初めての交信の場面はかなりあっさりと処理され、舞台はイギリスへと移ることになる。Netflix版の主役は「オックスフォードの5人」と呼ばれる科学者たちなのだ。

ナノテクノロジーの権威であるオギー(エイザ・ゴンザレス)と、理論物理学の上級研究員であるジン(ジェス・ホン)。亡くなった葉先生の娘のもとで働いていたソール(ジョヴァン・アデポ)に、教師として物理を教えているウィル(アレックス・シャープ)と、お菓子の会社を経営している大金持ちジャック(ジョン・ブラッドリー)。5人は元オックスフォードの同級生で優秀な科学者だったということらしい。この5人が中心となって物語は展開され、中国でのエピソードはほとんどきっかけに過ぎない感じになっている。

この人物の配置は「ポリコレ」に配慮した感が強い。オギーはヒスパニック系で、ジンはアジア系ということになる。ソールは黒人で、ウィルとジャックは白人となっている。このあたりは全世界で視聴されることを目指しているNetflixだけにそんな形になるということだろう。

『三体』 Netflixにて配信中

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「神の沈黙」と「怪力乱神を語らず」

中国テンセント版では、最後の最後まで本当に三体人がいるのかどうかということは曖昧にされていた。たとえば「宇宙が瞬く」というシーンでも、中国テンセント版ではコンピューターのデータでしか観測されなかった。それに対してNetflix版では誰もがそれを目撃してしまうことになる。中国テンセント版は三体人の存在は「嘘か? まことか?」という形で進んでいくのに対し、Netflix版ではそこは最初から確定的になっているのだ。

エヴァンズというキャラは中国テンセント版でも登場したけれど、三体人との交信を本当にしているのかどうかという点は曖昧になっていた。エヴァンズが嘘をついて宇宙人と交信しているとして何かを企んでいる可能性だって残っていたはずだ。しかしNetflix版では三体人との交信もはっきりと描かれている。

おもしろいのはエヴァンズは三体人に見限られてしまうところだ。どうやら三体人は嘘がつけないらしい。ところが人間たちは嘘をつく。物語というのは所詮は虚構であり、人間はそうしたものを楽しむのだが、三体人はそれが理解できないらしい。

Netflix版のエヴァンズは三体人に見限られ、返事をくれなくなった相手に対して「主よ、返事をしてください」などとこいねがうことになる。「主よ」と呼びかけられているのは三体人のはずだが、この描写は一神教における「神の沈黙」というものが重ねられているのだろう。一方で中国では「怪力乱神を語らず」などと言ったりもするわけで、そのあたりの違いが表れているようにも感じられた。

『三体』 Netflixにて配信中

見たこともない“逆さ富士”

第5話の最後には「お前らは虫けらだ」という三体人からのメッセージが届くことになる。これは中国テンセント版でもあったシーンだけれど、Netflix版にはさらにダメ押しのシーンがある。単なるテキストメッセージでは何らかの間違いによってそんな表示がされてしまう可能性だってあるはずだが、このダメ押しのシーンは全世界の人がそれを同時に目撃することになるわけで、三体人の存在を地球人に知らしめることになるわけだ。

このシーンでは地球を“智子ソフォン”が覆うことになる。見上げると空が鏡のようになっていて、地上のものが空に映し出され、そこに“天空の眼”が現れることになる。このシーンでは世界の色々な都市が描かれる。その一部には日本も登場し、通常言われる“逆さ富士”とは違った、見たこともない“逆さ富士”が空に出現することになるのだ。これは現実世界ではあり得ないシーンとなっていて、三体人の力をまざまざと感じさせることになる印象的なシーンとなっていたと思う。

三体人が地球に到着するのは400年後だとされる。それでも地球人としてはそれまで座して死を待つわけにもいかないわけで、いくつかの作戦をもって三体人に対抗していくことになる。その作戦のひとつが「面壁者」というものだ。この作戦は三体人は地球人のすべてを監視しているけれど、頭の中身までは知ることができないという盲点をついたものだ。

面壁者は頭の中でだけで三体人に対抗する手段を練ることになる。その面壁者のひとりにソールが選ばれたところでこの「シーズン1」は終わることになるわけだけれど、この後一体どんな展開になるんだろうか?

原作を読んでない者としてはまったく予想もつかない。面壁者が練った作戦があったとしても、400年後にそれを伝えるためにテキストデータなどにしてしまったら元も子もないわけで、一体どうするつもりなんだろうか? 何はともあれ、続きがとても気になるドラマシリーズになっていることは間違いない。

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