『三体』 嘘っぽくないフィクション

テレビドラマ

原作は中国のSF作家・劉慈欣の同名小説。この小説は、SF界で最も権威のある文学賞のヒューゴー賞をアジア圏で初受賞したという人気作品。

監督は『レジェンド・オブ・パール ナーガの真珠』などの楊磊

このドラマは中国の動画配信サービスで配信されたもので、日本ではWOWOWオンデマンドにて配信中(追記:その後にU-NEXTでも配信されることになったようだ)。

物語

2007年、北京オリンピック開催間近の中国。
ナノ素材マテリアルの研究者・汪淼ワン・ミャオは、突然訪ねてきた警官・史強シー・チアンによって正体不明の秘密会議に招集される。
そこで世界各地で相次ぐ科学者の自殺、そして知り合いの女性物理学者の死を知らされた汪淼。
一連の自殺の陰に潜む学術組織「科学境界フロンティア」への潜入を依頼された彼は、科学境界の“主”を探るべく、史強とともに異星が舞台のVRゲーム「三体」の世界に入るが、そこにはある秘密が…。

(公式サイトより抜粋)

壮大な話が展開する全30話

原作『三体』はとても評判のSF小説らしい。ヒューゴー賞をアジア圏で初受賞したということでも、その評価の高さがわかるというものだろう。そして、その人気の高さは、同じ原作を元にした別バージョンのドラマが来年の3月からNetflixで配信されることも決まっているというあたりにも窺える。

私が観たWOWOWオンデマンドで配信されているほうは中国製作版で、原作通りに登場人物の多くが中国人ということになるわけだが、Netflix版では多分半分くらいは西洋人が顔を出す形になっているようだ。

Netflix版の製作陣は『ゲーム・オブ・スローンズ』のチームということで、アメリカが製作しているということらしい。視聴者もアメリカが中心になるということで、英語が使われることになるのだろう。それにしても別バージョンのドラマが同時期に配信されるということはあまり聞いたことがないので、それだけこの原作が人気の作品ということなのだろう。

私自身は原作の噂だけはどこかで聞いたけれど、まったく中身は知ることもなくドラマ版から入ることになった。原作を知らない者からすると、中盤あたりはちょっとダレるところがある気がする。1話あたり40分から50分で全30話というのはかなりのボリュームだからだろう。これも原作をなるべく忠実に映像化しようという、中国製作陣の意気込みとも言える。

とはいえ、中盤以降で少しずつ謎が明らかにされるようになり、にわかに盛り上がりを見せることになる。特にあの人物が○○だったということが判明してからラストまでは、ほとんど一気に観てしまったくらいで、後半はかなり壮大な話が展開していくことになるのだ。

物理学は存在しない?

発端は科学者たちが自殺する事件が連発するという不思議な現象が起きたことだ。それに関して調べている警官・史強(于和偉ユー・ホーウェイ)が、ナノ素材の研究者・汪淼(張魯一チャン・ルーイー)のところへとやってくる。汪淼は連れていかれた会議で、知り合いの物理学者・楊冬ヤン・ドンの死を知らされる。

楊冬は遺書を残していて、そこには「物理学は存在しない」などと書かれていたらしい。これは一体どういう意味なのか? 汪淼は史強とコンビを組んで、そうした謎を探っていくことになる。

どうやらその自殺騒動の裏には「科学境界フロンティア」という組織があるのだという。自殺した科学者たちはみんな科学境界との接触があったのだ。汪淼も科学境界と接触を持つようになり、楊冬の死について探っていくうちに、妙なことが起こることになる。汪淼の網膜に何かしらのカウントダウンが始まるのだ。それがゼロになった時に一体何か起きるのか?

科学境界で議論されているのは「射撃手と農場主」という2つの話だ。この例え話が言わんとしているのは、どちらも人類とは別次元にいる“主”の存在ということになる。『エターナルズ』における、エターナルズ(あるいはセレスティアルズ)と人類の関係みたいなものだろう。

農場主は七面鳥を飼っている。いつも決まった時間にエサを与え、七面鳥を大事に育てているのだが、それはクリスマスのためということになる。その日が来れば、七面鳥は皆殺しにされ、ディナーには七面鳥の丸焼きが供されることになる。

ここで七面鳥とされているのが人類であり、農場主は“主”というわけだ。科学境界という組織は、そんな“主”の存在を信じている人たちなのだ。それではそんな組織と関係を持った科学者たちが次々と自殺しているのは一体どういうわけなのか?

そんないくつもの謎を孕んだまま物語は進んでいく。

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「三体問題」とは?

このドラマでは「三体」というVRゲームが重要な役割を果たすことになる。このゲームを紹介したのが科学境界で、汪淼はそれに参加することになるわけだが、そうするとドラマはゲームらしくCG映像になる。

ゲーム内の「三体」の世界では、恒紀と乱紀というものがある。恒紀は穏やかな天候が続き、文明は発展していくことになるのだが、一方の乱紀は厳しい寒さや灼熱地獄のような状態になり、そんな環境ではその世界の人たちは生きていくことすらままならない。

ただ、乱紀でも何とか耐えられる方法があって、それは脱水という方法だ。これは人間を脱水してジャーキーみたいなものにし、長期保存を可能とする技術らしい。その状態ならば、いつまでも生命を保つことができ、再水化すれば元の身体に戻れるのだ。だから、長い恒紀を狙って再水化すれば、豊かな生活を送れることになる。そのため三体世界では、恒紀と乱紀を予測することが至上命題となっていて、ゲームの目的はそこにあるということになる。

ところがその予測が難しい。ちなみにゲーム内には様々な登場人物が出てくる。秦の始皇帝や、孔子や墨子などの中国の歴史上の人物もいるし、科学者のニュートンやコンピューターを発明したジョン・フォン・ノイマンなども出てくる。そうした傑物たちが恒紀と乱紀を予測するミッションに挑むことになるのだが、ことごとく失敗する。そうするとゲーム内の文明は終わりを告げゲームオーバーとなり、新しくやり直しをすることになるのだ。

このゲームがなぜ「三体」と呼ばれているかと言えば、この世界には太陽が3つあるからだ。太陽系の場合は、もちろん太陽はひとつであり、その動きは人間にも把握できている。地球から見れば、太陽は東から上って西に沈むことになるし、1年の単位で見れば、初夏秋冬という四季を生み出すことになる。ところが太陽が3つとなると、その動きを予測することができないというわけだ。

実はこの「三体問題」というのは、古典力学でも議論されてきたことなのだとか。物理学とかに詳しい人は知っているのだろう(文系の人間としては初耳だったけれど)。ドラマ内でも明らかにされるように、この「三体問題」は解決不能であり、そのことを証明してしまうことになる。そうすると三体世界は永遠に予測不能な状況に苦しむしかないということになる。

これはもちろんゲームの話なわけだが、もしそんな世界に住んでいる地球外生命体がいるとするならばどうすればいいのか? 「三体問題」は解決不能であるならば、その星を捨てて別の星に移住するほかない。そういう結論に達するわけだ。

※ 以下、ネタバレもあり!

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嘘っぽくないフィクション

このドラマは古典的な侵略者インベーダーもののSFということになるのだろう。こういう類いのSFの場合、地球外生命体の姿をどう描くのかというところが大きな問題だ。

たとえば『サイン』みたいな造形の宇宙人だったりしたら拍子抜けしてしまうだろう。『メッセージ』でもタコ型エイリアンが登場するけれど、それをあまりハッキリと映すことはなかった。一部だけは見せるけれど、全体像を示せば途端に嘘っぽくなるからだろう。『コンタクト』では、最後に宇宙人が登場するけれど、それは人間が理解しやすいような形状になるという処理の仕方をしていた。映像作品の中で地球外生命体の姿を描くのは難しいということなのだろう。

『三体』の場合は、「三体人」と呼ばれることになる地球外生命体の姿は一切登場しない。そこがうまいところだろう。科学境界が“主”と呼んでいる「三体人」は、実在しているのか。そして、地球に何らかの干渉してきているのか。そのことは目には見えないけれど、ある種の計器の数値によって示されることになる。ただ、計器の間違いかもしれないし、それをどこまで信用していいのかはわからない。ギリギリまで「すべてが嘘でした」という可能性を残したまま進んでいくことになるのだ。

ドラマ内で“主”とのコンタクトが描かれるのは1回だけとも言える。その後は、“主”とのコンタクトがあったとしても、“主”の存在を利用したい科学境界の嘘という可能性も残っているように描かれている。だからこそ余計にリアルというか、嘘っぽくないフィクションになっていたんじゃないだろうか。尤も、地球外生命体がいないと決まったわけではないのかもしれないけれど……。

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実は……

そんなわけで壮大な話を存分に楽しんだのだが、実はこのドラマは三部作の第一部でしかないのだそうだ。もちろん第一部だけでも完結していると言えなくもないのだが、さらに続きがあるということになる。そうなると「嘘っぽくないフィクション」と評価した部分が続編では覆されることになるのかもしれないけれど、どうなのだろうか? とりあえずは原作のほうを一度は読んでみたくなった。

このドラマで一番ハラハラさせるのは29話だろうか。ここでは汪淼の研究してきたナノ素材を材料にした武器が大活躍することになる。ここが一番派手な見せ場となっている。多分、CGで描いているのだと思うけれど、VRゲームのCGとは違い、とてもリアルに描かれていて見事だった。

最終話に出てくる“智子ソフォン”の部分の説明は難しくてよくわからなかった。これは“原子”とか“陽子”みたいなもので、「ともこ」と読むわけではないらしい。

それから中盤以降に盛り上がると感じたのは、謎が次第に明らかにされてくるからでもあるけれど、重要な登場人物である葉文潔イエ・ウェンジエ陳瑾チェン・ジン)の若い頃を演じた王子文ワン・ズーウェンがとても美しかったからかもしれない。葉文潔の若い頃の話が明らかになってくるのが中盤以降なのだ。後半は単純に王子文を見ることが眼福だったのだ。葉文潔の過去の話はなかなか辛い部分もあるのだけれど……。

主人公の汪淼は応用物理学者ということでインテリだ。囁くような落ち着いたしゃべりが印象的で生命力に欠ける感じなのだが、好対照なのが史強だろう。科学者たちが絶望して死んでいく中で、史強だけは生きることに貪欲だ。史強は庶民的な店で酒と一緒にあまり見たこともない料理を平らげている。何度も登場する鹵煮ルージュ―というのは、北京の伝統的な臓物の煮込み料理らしい。うまそうに見えたので調べてみると、結構マズいという評価もあるらしく、癖があるのかもしれない。史強の有能な助手である“十人力”は一口も食べてなかったし……。

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