『ヤング・ポープ 美しき異端児』 人間という矛盾した存在

テレビドラマ

HBOが製作したテレビドラマ。

監督・脚本は『グランドフィナーレ』『LORO 欲望のイタリア』などのパオロ・ソレンティーノ

日本では『ピウス13世 美しき異端児』というタイトルで、WOWOWプライムで2017年に放送されたもの(全10話)。すでに続編が製作されていて、まもなく放送予定だとか。

物語

バチカンで新しい教皇が選出される。新教皇はピウス13世(ジュード・ロウ)を名乗る若い教皇だった。

国務長官ヴォイエッロ(シルヴィオ・オルランド)を中心とする枢機卿たちは、保守的だと思われていたピウス13世を裏で操れると考えていた。しかし、教皇となってその真の姿を見せ始めたピウス13世は、ヴォイエッロなどには手に負えない存在となっていく。

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ピウス13世とは何者?

「お前は何者なのだ」と、ピウス13世ことレニー・ベラルドは何度も問われることになるのだが、そのくらい彼は謎めいた存在だ。もちろん突如として教皇になったわけではない。このドラマはレニーが教皇に選ばれたところからスタートしている。

教皇選挙コンクラーヴェでは、枢機卿たちの投票によって教皇が選ばれることになるわけだが、そこには様々な思惑が渦巻く。バチカンの影の支配者として自他ともに認める存在であった国務長官ヴォイエッロは、自分が扱いやすい教皇を求めていた。

教皇に最も近いとされていたスペンサー(ジェームズ・クロムウェル)は、ヴォイエッロにとっては厄介な人物とも映り、スペンサーの弟子として保守的だと見なされていたレニーのほうが扱いやすいだろうという、言わば妥協の産物としてピウス13世は誕生することになる。

しかし実際に権力の座についたその男は、ヴォイエッロが考えていたような男ではなかったのだ。レニーは特別補佐官として推薦された人物を一蹴し、自分の育ての親とも言えるシスター・メアリー(ダイアン・キートン)をそこに据え、ヴォイエッロを無視して自分の計画を推し進めていくことになる。

策士であり聖人

レニーは教皇としてどんな計画を抱いているのか。

就任時の演説で語られることは、信者にとっては耳に痛いものだったかもしれない。レニーは信者に対して、「あなたたちは神のことを忘れている」と語りかける。さらに「隣人に近づくよりも神に近づけ」と説教するのだ。

レニーが推し進めようと考えているのは中絶の禁止や、同性愛者の聖職者を辞めさせるなど、かなり保守的な色合いのものだ。これらはカトリックの教えに反するものではないが、時代の変化もあって、すべて一律に禁止するというわけにもいかないというのが現状だろう。しかし、レニーは妥協を嫌い、計画を強引に推し進めようとする。伝統に則った保守的な政策も、時代に逆行するような極端なやり方は過激なものと映るのだ。

中絶に関しては劇中の議論にもあるように、胎児が魂を持つとされる3カ月を超えなければ許されるとされているようだ。また、同性愛に関しては、『2人の教皇』でアンソニー・ホプキンスが演じていた「教理の番犬」とされたベネディクト16世が、枢機卿時代に発表した「同性愛者への司牧的配慮に関するカトリック教会司教への書簡」(1986年)にはこんなことが書かれている(『キリスト教は同性愛を受け入れられるか』所収)。

同性愛者の傾向性それ自体は罪ではないが、それが道徳上、内在的悪へと向かう強い傾向性である以上、この傾向性自体は一種の客観的な障害であると理解せざるを得ない。

したがって、同性愛指向をもつ人が性行為を実践することは道徳的に是認される、と信じさせてしまうことがないように、こうした傾向性をもつ人々にはとりわけ司牧的配慮が向けられねばならない。同性愛指向の実践は、道徳的に是認されることではない。

カトリックとしては、そういう性的指向の人が一定数いることは認めたとしても、生殖につながる異性愛とは違う同性愛的行為を認めているわけではないようだ。だからレニーの計画は伝統的な考えに依拠しているのかもしれないが、ゲイの聖職者をことごとく辞めさせるとなるとかなり極端なやり方であり、ヴォイエッロは教会が崩壊するとまで恐れることになる。

それを阻止するため、ヴォイエッロはレニーの弱味を探り、彼を教皇の座から引きずりおろすことを検討するのだが、レニーには性的不品行や人に知られてマズいことは一切見つからない。レニーが気にかけているエスター(リュディヴィーヌ・サニエ)いう女性を使ってハニートラップを仕掛けるものの、それによって明らかになったことは、レニーが常に聖人のように振る舞うということだった。

しかも同時にレニーは策士でもあり、ヴォイエッロ以上にバチカン内の情報に精通していて、彼を貶めようとする相手がどんな手を打ってくるかをすべて把握しているのだった。

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神を信じない教皇?

レニーはヤング・ポープ 美しき異端児』のなかで何度か奇跡を起こす。不妊症だったエスターに子供を授からせ、友人ビリーの母親を瀕死の状態から快復させたこともある。そして、アフリカで私利私欲で教会を支配していたシスターのことは、祈りによってこの世から抹殺したりもする。これは神の奇跡というよりは、悪魔の所業にも見えなくもない。

しかし不思議なのはそんな力がありつつも、レニー自身は「神の沈黙」を感じていることだ。レニーは自分が神からの祝福を受けていないと感じているのだ。それが時にレニーが神を信じていないようにも映る。

これはなぜか? そこにはレニーが孤児として育ったという来歴が関わっている。レニーはどこかで生きている両親のことをいつも探していて、両親と再会することを何度も祈ってもいる。しかし、教皇となり世界で一番名前が知られる存在となった今でも、両親が現れることはない。レニーが本当に起こしたい奇跡は起こることがないのだ。レニーが心から神の存在を信じることができるとするならば、両親と再び出会うことによってなのかもしれない。

『The Young Pope』から『The New Pope』へ

ラストの第10話では、それまで隠れた存在として信者にその姿を見せなかったレニーは、初めて信者たちの前に姿を見せ、それまでと打って変わったような感動的な説教をする。それは両親が居るかもしれないヴェネチアでだった。

ところが、その聴衆のなかに両親の姿を認めたかと思った時、レニーは身体の不調で倒れてしまう。レニーの生死は不明のままこのドラマはエンディングを迎えてしまうのだが、これには続きがあるのだとか。

新シリーズは『The New Pope』というタイトルで、倒れたレニーの代わりとなる新教皇を演じるのはジョン・マルコビッチらしい。未だレニーの計画の全貌がはっきりしたとは言えないようにも感じられるわけで、続編でそのあたりもはっきりしてくるのかもしれない。

人間という矛盾した存在

ピウス13世は尊大で怖いくらい自信に満ちた教皇だ。聖人でありつつ策士という矛盾した存在でもある。外見が秀でていることを自認し、女性からの視線を意識しつつも、人を愛すのは苦しくてつらいから、神を愛すのだと語る時には弱い部分も感じさせる。

とにかく謎めいてはいても魅力的な教皇像だったと思うし、それを演じるジュード・ロウは白い祭服に身を包むのを楽しんでいるように見えた。それから枢機卿たちは最初は冴えないおじさんたちにしか見えないのだが、次第にそれぞれの背景や抱えているものが浮かび出してくるというキャラの描きわけも良かった。

監督・脚本のソレンティーノは重くなりそうな題材をポップに描いていて、タイトルバックで使われている「Watchtower (Instrumental)」などサントラも充実している。このドラマはアメリカで作られたテレビドラマだが、監督のソレンティーノはイタリア人だ。レニーは架空の存在であり、アメリカ出身の初めての教皇という設定。そのレニーはなぜか教皇冠に関してこだわりを見せ、かつての教皇がアメリカに差し出してしまったそれを取り戻すことを就任時の優先事項に挙げている。ソレンティーノとしてはイタリア人として胸に秘めるものがあるんだろうか。

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