昨年7月から放送していた1話完結のオムニバステレビドラマ。今年7月になってソフト化された。
監督は橋口亮輔、三浦大輔、大九明子、谷口恒平の4人。
原作はノッツの同名漫画。
物語
恋人たちが初めて結ばれるまでの直前1時間。
近づきたいけど近づけない、近づかないはずだったのに近づいた。
心も体も裸になってつながるまでの、めくるめく恋の駆け引き。
(公式サイトより抜粋)
全12話の豪華な出演陣
監督 | 出演 | |
第1話 | 橋口亮輔 | 工藤阿須加、臼田あさ美 |
第2話 | 三浦大輔 | 萩原利久、木竜麻生 |
第3話 | 大九明子 | 松雪泰子、大森南朋 |
第4話 | 谷口恒平 | 望月歩、青山美郷、中田青渚 |
第5話 | 谷口恒平 | 岡本玲、ニシダ(ラランド) |
第6話 | 三浦大輔 | 中尾明慶、さとうほなみ |
第7話 | 大九明子 | 趣里、渡辺大知 |
第8話 | 橋口亮輔 | 細田佳央太、大友花恋 |
第9話 | 三浦大輔 | 音尾琢真、小川紗良 |
第10話 | 大九明子 | 三浦透子、戸塚純貴 |
第11話 | 谷口恒平 | 中村守里、田村健太郎 |
第12話 | 橋口亮輔 | 篠原篤、成嶋瞳子 |
オムニバスドラマ
1話完結オムニバスのテレビドラマ。毎日放送などで放送されていたらしい。このドラマ『初情事まであと1時間』に興味を持ったのは『恋人たち』などの橋口亮輔が監督をしていたため。
シリーズとしては、全12話で監督は4人。それぞれ3話ずつ担当している。ソフト化されたDVDには各4話ずつ収録され、全部で3本分出ている。
オムニバスであり毎回登場人物が異なるため、出演陣も毎回異なる。とてもバラエティーに富んだ俳優が集まっている感じだ。たとえば『わたし達はおとな』の木竜麻生、『愛なのに』のさとうほなみ、『生きてるだけで、愛』の趣里、『ドライブ・マイ・カー』の三浦透子、『アルプススタンドのはしの方』の中村守里などなど。
個人的には『街の上で』の時と同じく関西弁がかわいらしかった中田青渚が登場する第4話(谷口恒平監督)がお気に入り。この役柄は姉(青山美郷)の彼氏(望月歩)を誘惑する妹。姉が風呂に入っている間に彼氏をそそのかしてという話。風呂上りのすっぴんショートパンツ姿で登場した中田青渚が、姉の彼氏を耳舐め攻撃をしほとんどノックダウンしてしまう……。
「初情事」というのは、セックスするふたりにとっての「初情事」ということであって、それぞれの「初体験」ということではない。もちろん第2話の萩原利久と木竜麻生のふたりみたいに若々しいふたりの「初体験」もある(ベッドの傍でふたりで話をしているのだけれど、そこからベッドの上に行くまでが童貞と処女だけに一苦労ということになる)。
一方で、第3話(大九明子監督)の松雪泰子と大森南朋みたいに、40代後半という大人のふたりの「初情事」もある(これまでの想い出を語っているうちにいい感じになってしまう)。ベッドインするまでの様々な駆け引きがおもしろいし、役者陣の組み合わせも毎回変わっていくおもしろさもある。30分番組ということもあって、気軽に見られるドラマになっている。
人に入れない
漫画が原作ということで原作に沿った話もあるようだが、一部にはそれぞれの監督がオリジナル脚本を書いているエピソードもあるようだ。もちろん最初の設定の「初情事まであと1時間」という部分は変わらないけれど、それ以外は自由にやっている回もあるのかもしれない。
『愛の渦』などの三浦大輔監督の第9話「『演出家』と『女優』」は、独自の演技論が展開されていて、これは演劇ユニット「ポツドール」を主宰している三浦大輔のオリジナル脚本なのかもしれない。演出家のことが気になっている女優・鈴木(『ビューティフルドリーマー』の小川紗良)と、女優のことが気になっている演出家(音尾琢真)が結ばれるまでの話。
このエピソードは、白石和彌作品の常連でラブシーンなんかは今ままで見たことがない強面の音尾琢真がキスシーンを演じるのが見どころかもしれない。女優・鈴木曰く「人間ってこんなものだろうと容赦なく見せつけるところ」がその演出家の魅力であるとのことで、このエピソードも普段なら隠しておきたい本音をまる出しにしてしまうところがおもしろい。
それから、第12話の「ずっくん」は、橋口亮輔監督のオリジナルの作品なんだろうと思う(同性愛的なものを仄めかしている第8話は橋口監督の脚色が入っているのかも)。出演しているのは『恋人たち』で主役だった篠原篤と成嶋瞳子。
篠原篤が演じるのが“ずっくん”という男なのだが、この男はデブで臭くてヒゲ面のクマみたいな男(『北の国から』の黒板五郎を思わせなくもない)。そのずっくんにどうやらSNSか何かで知り合ったらしき桜子(成嶋瞳子)という女性が訪ねてきてという話。
このずっくんが働いているカラオケ屋はふきだまりのような場所だ。みんなその場所以外ではやっていけないだろうというような人たちが集まっている。「それでも」というべきか、「だからこそ」というべきなのか、その場所にいる人たちはみんな癖はあってもとてもやさしい。ずっくんみたいな人がやっていけるのも、周囲が色々と気にかけてくれるからなのだろうし、ずっくんも意外と気遣いができる人でもあるようだ。
このエピソードは、サブエピソードとして大津尋葵(『恋人たち』にも脇役で顔を出していた)と刈屋佑梨が演じるふたりの関係も描かれる。傷つくことを恐れている女に対し、男は「絆創膏ぐらいにはなれる」と語る。その姿は全然決まってないのだが、やさしさだけは伝わってくる。『恋人たち』にも通じるようなギリギリの場所にいる人々を描きつつも、周囲の人たちの暖かさにちょっと癒される。「人に入れない」という言い回しがとてもいい。
コメント