『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』 不可能を可能に

外国映画

トム・クルーズのライフワークとも言える『ミッション:インポッシブル』シリーズの第7弾。

監督・脚本は『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』などのクリストファー・マッカリー

物語

IMFエージェント、イーサン・ハントに課せられた究極のミッション—全人類を脅かす新兵器が悪の手に渡る前に見つけ出すこと。しかし、IMF所属前のイーサンの“逃れられない過去”を知る“ある男”が迫るなか、世界各地でイーサンたちは命を懸けた攻防を繰り広げる。やがて、今回のミッションはどんな犠牲を払っても絶対に達成させなければならないことを知る。その時、守るのは、ミッションか、それとも仲間か。イーサンに、史上最大の決断が迫る—

(公式サイトより抜粋)

トム・クルーズのプロ意識

『ミッション:インポッシブル』シリーズも、次の第8弾が最後だろうと噂されている。主演のトム・クルーズは見た目は未だに若々しいけれど、還暦を超えたということでこれは致し方ないことなのだろう。かといって第7弾の『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』がこれまでの作品と比べて劣るのかと言えばそんなことはなく、もしかするとそれ以上かもしれない見事なアクションを見せてくれる。

これもトム・クルーズの映画ファンを楽しませようというプロ意識のなせるわざなのだろう。新作が公開される度に律儀に日本にプロモーションにやってくるトムが今回来日できなかったのは、ハリウッドのストライキが関わっているようだ。それでも上映前には、映画館に足を運んだ人だけが見ることができる短いコメント映像を入れたりしているのも、これまた律儀なファンサービスということなのだろう。

『トップガン マーヴェリック』でも感じたけれど、トム・クルーズの「ファンが観たいものを」というプロ意識と、そのファンサービスには本当に頭が下がる思いがする。事前に映像が公開されている崖からのダイビングシーンはもちろん凄いのだけれど、それだけでは全然終わらないのがさらに凄いところ。とにかくファンを楽しませようというアクションがてんこ盛りで、164分の長尺でも飽きさせない見事なエンターテインメント作品になっていたと思う。

(C)2023 PARAMOUNT PICTURES.

敵はAIと過去の亡霊?

今回の敵となるのはAIだ。最近はチャットGPTというAIのサービスが話題になったりしているし、大手企業もAIの活用に血眼になっているという話も聞く。その一方でAIの怖さに警鐘を鳴らす人もいる。素人としてはどちらが正しいのかはわからないけれど、本作はAIが「自我を持つ」ことになったらどうなるのかという話になっている。

冒頭は原子力潜水艦同士の闘いが描かれる。潜水艦同士の闘いは、海の中で行われるわけで、相手を視覚で捉えることは難しい。外界の様子はすべては電子化されたデータによって測られることになる。潜水艦の中の人間はモニターに映し出される情報を頼るほかなくなるわけだ。しかし、そのデータをAIが改竄してしまったらどうなるのか。AIを敵に回すことの恐ろしさを的確に表していた秀逸な“つかみ”になっていたんじゃないだろうか。

しかし、敵がAIだけでは目に見えない幽霊のようなものになってしまうわけで、本作では主人公イーサン・ハント(トム・クルーズ)にとっての過去の亡霊のような男ガブリエル(イーサイ・モラレス)が現れる。彼はイーサンがIMFに入ることを決めることになった事件の首謀者ということらしい。

イーサンに関わる女性はみんな危険な目に遭う。かつてイーサンはガブリエルに恋人を殺され、IMFで生きることを選択することになった。それから長い年月が流れ、本作では第5作第6作でイーサンといい関係になっていたイルサ(レベッカ・ファーガソン)が犠牲になってしまう(イルサが二度も死ぬシーンがあるのは最後の餞別みたいなものだろうか)。

そして、その代わりに新たにIMFに入ることになるのがグレース(ヘイリー・アトウェル)だ。グレースは空港の場面でイーサンから大切な鍵を盗んだ盗人で、イーサンはグレースに何度も翻弄されることになる。それでも最終的にはグレースは仲間になることになり、イーサンは彼女の命を優先することを誓うことになるのだが……。

(C)2023 PARAMOUNT PICTURES.

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アクションシーンの味わい

本作の敵となるのはAIで、それを制御するためには二本の鍵が必要となる。それが欲しくてアメリカを含めた様々な国や悪者が争奪戦を繰り広げる。イーサンたちIMFは巨大な力を持つことになるその鍵を誰にも渡さないために、その争奪戦に参加することになる。

そこから先はアクションの連続だ。カーアクションなどは様々なもう散々やり尽くしている感はあるけれど、本作ではちょっと工夫することで楽しませてくれる。

『ボーン・アイデンティティー』はパリをミニ・クーパーで走り抜けたけれど、本作ではわざわざ黄色いフィアットに乗り換えてベニスの街を爆走することになる。多分、ビジュアル的に映えるという判断なのだろう。

また、このカーアクションでは、イーサンはグレースを逃がさないために手錠でつないでいる。たまたま運転席に座るには都合の悪い手をつないでしまったものだから、運転することはなかなか難しくなるわけで、それによってよくあるカーアクションでも難易度みたいなものが変わって見えるようになる。そんな微妙な違いによって、味わいも変わってくるといった感じだろうか。

アクション・スターの先達ジャッキー・チェン『プロジェクトA2』で手錠につながれた二人の逃走劇をやっていた。そんなジャッキーもファンサービスに徹しているという点では似ているわけで、トムがジャッキーを意識しているようにも感じられなくもなかった。

それからグレースの運転がヘタなのもおもしろい。ついでに言えば、イーサンとグレースを追ってくる女殺し屋パリス(ポム・クレメンティエフ)の運転もかなり荒っぽいもので、どちらも周囲の車なんかをなぎ倒して走っていくところが恐ろしい。女性二人のカーチェイスが一番危なっかしいアクションシーンになっていたかもしれない。

(C)2023 PARAMOUNT PICTURES.

計画という名の無茶振り

正直に言えば本作はあまりにもやり過ぎで、絵空事に感じられる部分もある。予告編でも使われている崖の上からのダイビングだが、あれは列車の飛び乗るための手段だったというのはツッコミどころだろう。

追い詰められて崖から飛び降りて追手をかわすシーンなのだと勝手に推測していたのだが、実際には違う。バイクから列車に飛び移るはずが失敗し、行き当たりばったりでベンジー(サイモン・ペッグ)が立てた計画が、崖から飛び降りた上にパラシュート降下して列車に飛び移るという計画とも言えないような無茶振りだったということになる。

イーサンが「もっとマシな計画を立てろ」と文句を言うのに対して、ベンジーが「こっちだって必死なんだ」みたいにキレているのが笑える。というのも、このやり取りはイーサンとベンジーのやり取りだけれど、その背後の関係を思わせなくもないからだ。トム・クルーズが脚本を書いたクリストファー・マッカリーに対して文句を言っているのに対して、クリストファー・マッカリーがベンジーの口を借りて反論しているようにも思えなくもないのだ。

そんな意味では本作はかなりの無茶苦茶な話だ。そして、先の台詞から推測するに、トムもクリストファー・マッカリーもそれを自覚している。それでも、そもそもイーサンたちIMFは「ミッション・インポッシブル・フォース」の略称であり、不可能な任務を実行してしまう部隊という意味であり、無茶は初めから折り込み済だったとも言える。

ちなみに本作のタイトルは「デッド・レコニング」というもので、インタビューでの監督の言葉を借りれば「移動経路や距離などから位置を割り出すことで航行する“推測航法”という意味。転じて、情報のない中で推測や結果を出すことを指す言葉」などだそうだ。いつも行き当たりばったりで、それでも何とか不可能を可能にしてきたイーサンたちのことを示しているということだろうか。

(C)2023 PARAMOUNT PICTURES.

本作はかなり絵空事だと記した。それでも絵空事の部分を笑いに変えているところがうまい。パラシュートで列車に飛び移るなんてアクションはあり得ない話だけれど、それをカッコよく決めるわけではなく、たまたま飛び込んだところが運がよく敵を排除する展開につながり、何となくグレースを助けてしまう。そんなアクションを大真面目にキメてしまったら受け入れられなくても、笑いになっていれば観客も許せるという感じじゃないだろうか。

そして、その飛び込んだ列車の中での一連のアクションはまさに手に汗握る場面の連続で、最後の最後までハラハラドキドキさせてくれる本作はまさに劇場で観るべき作品になっている。新しいヒロインとなったヘイリー・アトウェルのキャラは、これまでのレベッカ・ファーガソンのヒロインとはまた違っていて、こちらも魅力的だった。次の第8弾はシリーズの締め括りということで、これまた難しいミッションということになるわけだけれど、トム・クルーズなら見事にやり遂げてくれるような気もする。

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