『罪と女王』 男女の間の非対称性

外国映画

サンダンス映画祭で観客賞を受賞したデンマーク映画。デンマーク・アカデミー賞(ロバート賞)では、作品賞を含む主要部門を受賞した。

監督はメイ・エル・トーキーという女性で、本作が長編2作目とのこと。

主演は『未来を生きる君たちへ』や『愛さえあれば』などのトリーヌ・ディルホム

物語

アンネ(トリーヌ・ディルホム)は児童保護の案件を専門とする弁護士として働いている。医者である旦那のペーター(マグヌス・クレッペル)は二度目の結婚で、元妻との間にグスタフという子供がいる。そのグスタフ(グスタフ・リンド)が問題を起こして退学になったことにより、アンネとペーターが暮らす家にグスタフを引き取ることになる。

自分の居場所を失くしたグスタフは、アンネの家に来てからもトラブルを起こすことになるのだが、ある事件をきっかけにふたりは親密になっていき……。

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女王が支配する家庭

そもそものデンマーク語のタイトルは「Dronningen」というもので、これは英語すれば「Queen」になるらしい。本作での「女王」とはアンネのことになる。

アンネは弁護士として児童保護のために闘っている女性で、男性に対しても一歩たりとも退くことを知らない。旦那のペーターからも、職場の共同経営者からも、一度くらいは譲歩してもいいんじゃないかと冗談交じりに言われているほどだ。そんなわけでアンネの家においては、主導権があるのはアンネであり、ペーターは女王であるアンネに支配されている。

アンネにはペーターとの間にふたりの娘がおり、共働きということもあり裕福な生活を享受している。だからこそペーターの元妻との間の子供であるグスタフを引き取ることも可能なわけだが、この闖入者がアンネの家に変化をもたらすことになる。

ペーターはアンネが仕事の関係で一時的に保護することになった女性について、他人が自分の家をうろつくのを嫌がったりしていたわけだが、アンネにとってグスタフは他人である。だからアンネにとってはグスタフは余計な存在にほかならないのだが、旦那のペーターにとっては息子だし、ふたりの娘もグスタフに懐いているから邪険にもできない。

そんな状況のなかグスタフが窃盗事件を起こし、アンネは半ば脅すような形で、グスタフをその家に溶け込ませることになる。そして、そのふたりだけの共犯関係が、アンネとグスタフを少しずつ親密にさせていくことになる。

(C)2019 Nordisk Film Production A/S. All rights reserved.

ミドルエイジ・クライシス?

グスタフが次第にアンネの家に馴染むようになり、5人での暮らしも安定していたかに見えたのだが、次に問題となったのはアンネが抱えている「ミドルエイジ・クライシス」とでも呼ぶべきものだろうか。中年となり若さが失われつつあるのを実感しつつある時期、アンネはこのまま仕事に追われるだけで終わってしまうのだろうかなどと立ち止まって考えたのかもしれない。

アンネもペーターも仕事が忙しく、夫婦生活は疎かになりがちらしく、アンネは欲求不満を抱えている。そんな時にグスタフは彼女を連れ込んで情事に耽るわけで、今までの環境とは違うことがアンネに何かしらの変化をもらたす。そして、アンネはグスタフの寝室へと闖入することになる。

グスタフにとってこの出来事はあまりに突然のことだったように見える。それもそのはずで、まだ17歳のグスタフにとって、二児の母であるアンネはその性的対象としてはあまりに歳が離れすぎている。アンネはグスタフを誘惑するのだが、これは「誘惑」というよりも「襲った」と表現すべきなのかもしれない。グスタフもその誘いに応えることになるのだが……。

 ※ 以下、ネタバレあり! ラストにも触れているので要注意!!

(C)2019 Nordisk Film Production A/S. All rights reserved.

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男女の間の非対称性

アンネとグスタフのセックス描写はあからさまで生々しい(日本ではボカシ入りなのだが)。ここまでの展開ならば、TSUTAYAなどで「エロティック」という棚に分類されてひっそり消費される作品によくありそうなものなのだが、本作はその後がちょっと怖い。グスタフにとっての若い時の火遊びとして、懐かしい想い出になるような展開にはならないからだ。

アンネとグスタフの関係は、ある人物にバレてしまうことで終焉を迎えるわけだが、グスタフはアンネの家を追い出されると寄宿学校へ入れられるからか、すんなりと関係を終わらせようとはせずに、それを父親であるペーターに打ち明けてしまう。そうなると未成年と関係を持ったアンネの立場が危ういものとなるわけだが、アンネは自分の家族を守るためにグスタフを切り捨てることになる。

アンネの寝室襲撃は、グスタフがそれを受け入れたこともあって、それほどおぞましいものには見えない。これは襲撃者が女性であるからだろう。これが中年男性が高校生の女の子を襲撃していたとなれば、明らかにレイプとされる事象なわけだが、監督のメイ・エル・トーキー自身が語るように、『罪と女王』のようなケースだとそこがグレーに見えてしまうのだ。同じ行為をしたとしても、それが男性の場合と女性の場合とでは、受け取られ方が異なるというわけだ。

アンネは児童保護専門の弁護士ということもあって、法律には精通している。自分のしていることが法律違反であることが明白なのも理解しているわけだが、たとえグスタフから訴えられたとしても、証拠がなければ訴えそのものを信じてもらえないことになる可能性が高いこともまた理解している。アンネはそのあたりを計算した上で、すべてはグスタフの嘘ということで事態を乗り切ろうとするのだ。

女王の非情さとその後

アンネは家の支配者として君臨している。その家に突如現れたグスタフを、自分の欲求不満解消の道具として利用するわけだが、一方で夫であるペーターに対しては自分をそんなみじめな立場にした恨みもあるらしい。ペーターとアンネとの情事の場面では、アンネはペーターの頬を行為中に引っぱたいているのだ。あんたが私を放っておかなければ、グスタフなんかと火遊びをしなくて済んだのに。そんな気持ちがビンタとなって表現されているということだろう。

本作で女王たるアンネは何度も窮地に陥る。グスタフがその関係をピーターにバラしてしまった時もそうだし、警察を介入させると脅された時もそうだろう。アンネが弱い女性だったなら、すぐに「万時休す」とあきらめて、その罪に対して許しを乞うことになったのだろう。しかしアンネは自分が退くということを知らない強情さを持つ。そのことが本作の悲劇を生むことになってしまう。グスタフは自分の証言を嘘とされ、追い詰められた末に、自殺めいた死に方をすることになるのだ。

(C)2019 Nordisk Film Production A/S. All rights reserved.

アンネにとって守るべきものはふたりの娘がいる自分の家族だったわけで、そのためにアンネにとっては他人となるグスタフを切り捨てるという残酷な決断をしたことになる。しかし、グスタフの父親であるペーターも、アンネのほうが嘘をついているということに気づいてもいたようだ。ただ、ペーターとしても、元妻の息子であるグスタフよりも、現在の家族であるアンネたちを選んだということでもあったのだろう。だから女王の暴走を止めきれなかったペーターにも罪はあるのだろうと思えた。

とはいえ、その代償は大きかったわけで、女王たるアンネの非情さが明らかになったこの先、どうやってアンネとペーターは家庭を維持していくんだろうとかとちょっと心配になった。

本作は久しぶりに映画館で観た作品ということになった。新型コロナ対策ということもあり、劇場では座席の間隔を空けての販売となっているし、そもそもまだ第二波の懸念もあるということからか、場内はスカスカだった。映画業界にとってもコロナ禍のなかでの営業は、かなり厳しい状況なんじゃないだろうか。こうした状況が続けば、新作映画もネットでの配信ということになったりするのかもしれないが、映画館の暗闇に身を潜めることが好きな者としては、それでは物足りないような気もして複雑な心境……。

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