『トップガン マーヴェリック』 「友情」と「努力」と「勝利」

外国映画

1986年の『トップガン』の36年ぶりの続編。

監督は『オブリビオン』などのジョセフ・コシンスキー

主演は前作『トップガン』で一躍スターとなり、それ以降ハリウッドのトップを走り続けているトム・クルーズ

物語

アメリカのエリート・パイロットチーム“トップガン”。
かつてない世界の危機を回避する、絶対不可能な【極秘ミッション】に直面していた。
ミッション達成のため、チームに加わったのは、トップガン史上最高のパイロットでありながら、
常識破りな性格で組織から追いやられた“マーヴェリック”(トム・クルーズ)だった。
なぜ彼は、新世代トップガンとともにこのミッションに命を懸けるのか?
タイムリミットは、すぐそこに迫っていた——。

(公式サイトより抜粋)

『トップガン』のイメージ

トム・クルーズの人気を決定づけた前作『トップガン』。ハリウッドの超大作として大ヒットを記録し、亡くなったトニー・スコットにとっても出世作ということになった(続編はトニー・スコットに捧げられている)。

戦闘機によるドッグファイトはハラハラさせられたし、サントラは当時は本当によく聴いていた気がする。しかしながら大絶賛だったかと言えばそんなこともなく、「荒唐無稽なタカ派映画」といったイメージも大きかったような気もする。1986年という冷戦時代にも関わらず、アメリカとソ連が戦うという話に見えたからだ。

ところが最近になって続編に備えて1作目を見直してみると、実際には敵国がソ連だとは言及していない。敵国がミグというソ連製の戦闘機を使用していただけで、ソ連からミグを購入した別の国という設定だったのだろう(続編にも敵国側にアメリカの戦闘機F14が保管されている)。しかし当時は相手国をソ連だと思っていた人も多かったんじゃないだろうか? 私自身はずっとそんなふうに思っていた。

もしかすると、シルヴェスター・スタローンの『ロッキー4/炎の友情』を観ていたからかもしれない。これはアメリカとソ連がボクシングで代理戦争をするという話だった。同じ頃には『若き勇者たち』という作品もあった(その後のスターが勢揃いしている作品でもある)。こちらはアメリカの小さな町にソ連軍が突如として侵攻してくるというちょっとあり得ない話だった。

調べてみると、『若き勇者たち』は1984年の8月でちょっと早いけれど、『ロッキー4』の日本公開は1986年6月で、『トップガン』は1986年12月だった。『ロッキー4』と『トップガン』は約半年の違いということになる。私自身はすべて劇場ではなくてビデオで観たのだけれど、どちらも同じ頃に観た気もする。そんなわけで勝手にアメリカとソ連の戦いだと勘違いしていたようだ。

続編である『トップガン マーヴェリック』でも、架空の国とアメリカが戦うことになるわけだけれど、監督のジョセフ・コシンスキーがインタビューで答えているように、「戦争映画というよりは、スポーツ映画」であり、敵国がどこかといったことはあまり関係ないのだろう。『マーヴェリック』は少年ジャンプ的なテーマ、つまり「友情」と「努力」と「勝利」の話なのだ。

(C)2021 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

期待を裏切らない作品

冒頭は、ケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」をバックにして、戦闘機が空母の甲板から飛び立つシーンだ。これはまるで1作目と同じだ。『トップガン マーヴェリック』は、ファンが期待しているものを見せてくれる作品なのだ。

リアリティに関しては各段に精度が上がっている。製作にも首をツッコんでいるトム・クルーズは、本物の戦闘機を飛ばし、役者陣をそれに乗せることを譲らなかったようだ。戦闘機の「G」でコックピットにいるパイロットの顔が歪むあたりは、まさにリアリティがあるシーンになっている。そして、エンジンの轟音が身体に響いてくる感じも、劇場で体験するのがふさわしい作品になっていたと思う。

内容としてはかなりベタだと言える。それでもベタとは言え、あれだけのエンターテインメントを見せてくれたということになると脱帽するしかない。そんな作品なのだ。

前作にあって『マーヴェリック』になかったのは、前作の時にはラブシーンでかかることになっていたベルリンの「愛は吐息のように」がなかったということくらいだろうか。今回の相手役はジェニファー・コネリーで、彼女は『トップガン』と同じ1986年に『ラビリンス/魔王の迷宮』に主演していて、トム・クルーズと同世代のスターと言える。

今まで共演してこなかったのが不思議な気もするけれど、今回が初共演とのこと。ジェニファー・コネリーも良い年の重ね方をしていると思うけれど、今回は子供がいる役ということもあって、さすがに若い頃のようなお熱いシーンはやめておいたということなのかもしれない。

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But not today.

続編の製作権利を持っていたトム・クルーズが今までこれを温めていたのはなぜなのか? 様々な要因があるのだろう。トム自身は「十全なストーリーができるまで続編を作るつもりはなかった」と語っているらしい。それが今だったということなのだろうし、脚本に『ミッション:インポッシブル』の第5作と第6作でタッグを組んだクリストファー・マッカリー、監督には『オブリビオン』でタッグを組んだジョセフ・コシンスキーという、トムが信頼している面々の態勢が整ったということもあるのだろう。

『マーヴェリック』では戦闘機乗りはもう時代遅れともされる。『ドローン・オブ・ウォー』のように、パイロットは遠く離れた安全地帯にいて、ゲームのように画面だけを見て遠隔操作で爆弾を落とすだけ。攻撃され撃墜されても被害はたかが知れている。戦闘機に乗って敵陣に攻め込むなんてことは、当然ながらかなりのリスクを背負うことになるわけで、どう考えても推奨されるわけもない。

実際に前作ではマーヴェリックの相方だったグースは訓練中の事故によって帰らぬ人となっている。『マーヴェリック』はグースの息子であるルースターとマーヴェリックの確執が物語の核となっているのだ。

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時代遅れで消えていくべきパイロットという存在。こうした題材を描いた映画は過去にもあって、それが『ライトスタッフ』だった。『ライトスタッフ』では、音速の壁に挑戦し続ける飛行機乗りが主人公だが、彼らはその後に登場した宇宙飛行士たちによって消えゆくような位置にあった。

『マーヴェリック』では、マーヴェリックをトップガンに教官として連れ戻す役割をエド・ハリスに担わせているのは、エド・ハリスが『ライトスタッフ』で宇宙飛行士のほうを演じていたからだろう。

エド・ハリスによって、戦闘機乗りは消えゆく存在だと指摘されると、それに対してマーヴェリックは、パイロットが消えゆくのは確かなのかもしれないけれど、「But not today.(字幕では「でも、それは今じゃない」だったと思う)」と返すことになる。

この台詞は恐らくトム・クルーズ自身のことを示しているのだろう。トムは36年ぶりの本作でも未だに若々しい姿を見せているけれど、実際にはまもなく還暦を迎えるとのこと。信じ難いけれどそういう現実もある。

さすがにトムもあと何年今までと同じようなアクションができるのかわからないという意識もあるのかもしれない。トムのライフワークとも言える『ミッション:インポッシブル』シリーズでは、最初から信じ難いアクションを自分でこなしてきたトム。50歳を越えてからの『ローグ・ネイション』『フォールアウト』でも、それまでを越えるようなアクションを披露して驚かせてくれた。

そして、そのシリーズの第7弾と第8弾が二部作として次に控えている(『マーヴェリック』の予告編には第7弾の『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が入っていた)。初めての二部作として盛大にライフワークの締めくくるつもりなのかもしれず、とにかくトム自身もまだ消えるわけにはいかないという意識が、「今じゃない」というマーヴェリックの台詞となっているのだ。

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友情と努力と勝利

前作でライバルだったアイスマン(ヴァル・キルマー)。そして、亡くなってしまったグースの息子ルースター(マイルズ・テラー)。そんなふたりを巡って展開する物語。

アイスマンとの「友情」は続いているようで、海軍のトップになったアイスマンは、マーヴェリックの後ろ盾になる。そして、ルースターとの確執は最後には信頼へと変わり、アメリカに「勝利」をもたらすことになる。

また、『マーヴェリック』はゲーム感覚にも溢れている。前作のミグとの遭遇は場当たり的で、作品としての盛り上がりには欠けたような気もする。『マーヴェリック』は、よりわかりやすく観客の興味を引く形になっている。

ミッションとしては敵国の地下核施設を破壊すること。それにはふたつの奇跡が必要だとされる。まずは向こう側のレーダーをかいくぐり、約3分で目的地まで到達しなければならない。そして、第一に地下核施設に穴を開け、第二にそこに爆弾を落として破壊する。ごく単純だ。こうした設定は『スターウォーズ』のエピソード4のラストと同じだろう。誰もがわかりやすいゲーム性があるのだ。だからこそ盛り上がるということだろう。

しかしながら、そのミッションには正確性が求められる。そのためドローンのような遠隔操作で対応できるようなものではないわけで、パイロットの腕が求められる。マーヴェリックはそんな無理難題を自分でやって見せる。「考えるな。行動しろ。(Don’t think, just do it.)」ということを身をもって示し、それを手本に生徒たちは「努力」を重ねて奇跡を成し遂げることになる。

その後に爆撃されたマーヴェリックが敵地にあったF14に乗って帰還するというのは荒唐無稽かもしれないけれど、やはりワクワクさせてくれたし、存分に楽しませてくれた作品だったと思う。

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