『私がやりました』 その犯罪は誰のもの?

外国映画

監督・脚本は『スイミング・プール』などのフランソワ・オゾン

原題は「Mon crime」で、「私の犯罪」ということ。

物語

有名映画プロデューサーが自宅で殺された。容疑をかけられたのは、貧乏な若手女優マドレーヌ。法廷に立たされた彼女は、ルームメイトの新人弁護士ポーリーヌが書いた、「自分の身を守るために撃った」という正当防衛を主張する完璧なセリフを読み上げ、見事無罪を獲得。それどころか、悲劇のヒロインとして時代の寵児となり、アッという間にスターの座へと駆け上がる。豪邸に引っ越し、優雅な生活を始めるマドレーヌとポーリーヌ。
しかしそんなある日、とある女が彼女たちを訪ねてくる。彼女の名前はオデット。一度は一世を風靡するも、今や目にすることも少なくなった、かつての大女優だ。そしてオデットの主張に、マドレーヌたちは凍り付く。プロデューサー殺しの真犯人は自分で、マドレーヌたちが手にした富も名声も、自分のものだというのだ。いったい真相は如何に? こうして、女優たちによる「犯人の座」を賭けた駆け引きが始まる――!

(公式サイトより抜粋)

今年3本目のオゾン作品

今年のフランソワ・オゾン作品としては3本目ということになるらしい。ビクトル・エリセみたいに極端に寡作な監督もいるけれど、毎年のように新作が公開される監督もいる。オゾンの場合は後者ということなのだろう。日本では、今年たまたま3作品がまとまって公開されるのは、新型コロナの影響だろうか。

2月に公開された『すべてうまくいきますように』では、安楽死という厄介な問題を扱っていた。6月公開の『苦い涙』は、オゾンが大いに影響を受けていると推測されるファスビンダー作品のリメイクだった。そして、今回は純然たるコメディといった感じで、そのジャンルもバラエティに富んでいる。

『私がやりました』は、フランスでは100万人の観客を動員する大ヒットとなったらしい。主演の二人にネームバリューがあるようには思えないけれど、1930年代というクラシカルな雰囲気はシャレているし、とても気軽に観られる作品だからだろうか。

殺人事件も起きるけれど、それは自業自得みたいなもので、誰も傷つかずにみんながハッピーになるという楽しい作品なのだ。オゾン監督としても、安楽死みたいな小難しいテーマを扱うわけでもないし、心酔する先達監督のリメイクという気負いもないわけで、監督自身が楽しんで作っている感じが伝わってくる作品になっていたと思う。

(C)2023 MANDARIN & COMPAGNIE – FOZ – GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA – SCOPE PICTURES – PLAYTIME PRODUCTION

その犯罪は誰のもの?

主人公は売れない女優のマドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)と、そのルームメイトで友人の弁護士ポーリーヌ(レベッカ・マルデール)だ。マドレーヌはある日、有名プロデューサーを殺したという無実の罪を着せられそうになる。マドレーヌはポーリーヌの助けもあり、そのピンチをチャンスに変えることになる。

マドレーヌは嘘の自供をして、その犯罪を“自分のもの”とするのだ。それによってマドレーヌは逮捕されることになるけれど、裁判では悲劇の主人公を演じるきることになる。権力者のプロデューサーに性的接触を迫られた売れない女優が、正当防衛として間違って殺してしまったと主張するのだ。陪審員はすべて男性であり、悲劇の主人公の物語に同情した陪審員は、マドレーヌに味方することになり、彼女は裁判で無実を勝ち取ることになる。

そんなふうにしてマドレーヌは女優としての知名度を一気に上げ、スターへの階段を駆け上がり、同時に彼女を無罪にした弁護士ポーリーヌも名声を獲得することになる。

これだけでは二人の成功物語ということになるのだが、そこから先はすんなりとはいかない。というのも、そこにその犯罪は私のものと主張する真犯人が現れてしまうからだ。

そんな真犯人を演じるのがイザベル・ユペールで、落ちぶれたかつての大女優オデットという役柄を嬉々として演じている。主演の若い二人はとても魅力的なのだけれど、成功を勝ち取り二人で裕福な生活をし始めると、物語には停滞した感も生じてくる。そんなところにイザベル・ユペールが登場すると画的にも引き締まる感じもするし、「一体、何をやらかしてくれるのか」という期待が膨らむことになるのだ。

  ※ 以下、ネタバレもあり!

(C)2023 MANDARIN & COMPAGNIE – FOZ – GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA – SCOPE PICTURES – PLAYTIME PRODUCTION

 

現代にも通じるテーマ

本作の冒頭はプール付きの豪邸からマドレーヌが飛び出してくるシーンとなっている。このシーンはどこかで似たようなシーンを観たような気もしたのだが、『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』の冒頭もこんなシーンだったんじゃなかっただろうか。『SHE SAID』はハリウッドの有名プロデューサー・ワインスタインの性的暴行を告発するという話だったわけで、本作は1930年のフランスを舞台としているけれど現代にも通じるテーマを扱っているのだ。

劇中でも触れられているように、1930年代のフランスにはまだ女性に参政権はなかった(すでにドイツは女性の参政権が認められていたらしい)。女性たちは男性と平等とは言えない状況にあったということだ。

売れない女優だったマドレーヌが役を欲しいがために「プロデューサーもうで」みたいなことをさせられるのも、弁護士資格を持っているポーリーヌにほとんど仕事が来ないのも、男性中心の社会となっているからということだろう。

そういう状況下で、立場的に弱い女優が権力者であるプロデューサーに性的な接触を求められ、自分の身とプライドを守るために正当防衛として殺人を犯してしまう。この物語は陪審員の男性たちから同情を買うことになるけれど、それと同時に傍聴席の女性たちも喝采を送ることになったわけで、多くの人が「さもありなん」と思うような説得力のある物語だったということになる。

これは何の権力もない女性が自分の主張を通すためには犯罪に訴えるほかなかったということでもある。立場の弱い女性たちは、権力を手中にしているウザい男たちを殺してもいいということだと言えなくもない。これはかなり極端で危なっかしいメッセージとも言えるわけだけれど、そのくらいしか手段がなかったということなのかもしれない。

(C)2023 MANDARIN & COMPAGNIE – FOZ – GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA – SCOPE PICTURES – PLAYTIME PRODUCTION

大団円も許せる?

とはいえ本作はコメディであり、すべては丸く収まる形になる。本作に登場する男たちはちょっと間が抜けている。マドレーヌの事件を担当する判事(ファブリス・ルキーニ)はお笑い担当みたいな役割で、判事とその助手とのやり取りが笑わせてくれる。

それからマドレーヌの彼氏は大手企業のドラ息子で、金はないくせに働くつもりはないという体たらくだ。その彼氏が二人が幸せに暮らしていくために考えた方法というのが、自分が大富豪の令嬢と結婚し、マドレーヌを愛人として囲おうとすることだったりする。何ともガッカリな男ということになるわけで、マドレーヌとしては自分で道を切り開くしかなかったというわけだ。そんなマドレーヌが自らの身体を武器にして迫ろうとしたパルマドーレ(ダニー・ブーン)の反応だけは意外なものだったけれど……。

主演のひとりナディア・テレスキウィッツは、『悪なき殺人』という作品で同性愛者を演じていた人。本作のマドレーヌとポーリーヌの関係もちょっとだけ微妙な部分を感じさせるものになっていたかもしれない。

それから脇役とは言え、美味しいキャラだったのがイザベル・ユペールが演じたオデットというキャラだ。かつてはアベル・ガンスなんかの無声映画に出ていた大スターという設定だ。それでもトーキーには対応できなくて不遇を味わっていたということらしい。

オデットはプロデューサーが持っていると噂された金を狙っていたというのだから、完全に犯罪者ということになるわけだけれど、そんなオデットもどさくさに紛れて復活してハッピーエンドを迎えることになる。かなり強引に自分の意志を通す図太いキャラだけれど、どこか憎めない感じもして、そんな大団円も許せる気持ちがしてくるから不思議だった。

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