『かそけきサンカヨウ』 回り道の末に

外国映画

原作は『ふがいない僕は空を見た』などの窪美澄が書いた同名短編(『水やりはいつも深夜だけど』所収)。

監督は『愛がなんだ』などの今泉力哉

タイトルは漢字で書くと「幽けき山荷葉」となるらしい。

物語

幼い頃に母が家を出て、ひとりで暮らしを整えられるようになっていった陽は、帰宅してすぐに台所に立ち、父とふたり分の夕飯の支度にとりかかるのが日課だ。

ある夜、父が思いがけないことを陽に告げる。「恋人ができた。その人と結婚しようと思う」

ふたり暮らしは終わりを告げ、父の再婚相手である美子とその連れ子の4歳のひなたと、4人家族の新たな暮らしが始まる。新しい暮らしへの戸惑いを同じ高校の美術部に所属する幼なじみの陸に打ち明ける陽。実の母・佐千代への想いを募らせていた陽は、それが母であることは伏せたまま、画家である佐千代の個展に陸と一緒に行く約束をするが・・・。

(公式サイトより引用)

「片想い至上主義」姉妹編

本作は原作ものなのだが、今泉力哉監督のオリジナル作品である『mellow メロウ』の姉妹編を観ているように感じた。それは主役の陽を演じている志田彩良が『mellow メロウ』にも登場していたからでもあるのだが、それだけではない。

『mellow メロウ』は監督曰く「片想い祭り」であり、登場人物が両想いになることは最後まで避けられることになった。『かそけきサンカヨウ』もそれと同様で、両想いになることが先延ばしにされる映画だったからだ。

ちなみに『かそけきサンカヨウ』は、窪美澄が書いた連作短編集からふたつの短編を合わせて構成されているとのこと。その一つの「かそけきサンカヨウ」で、もう一つが「ノーチェ・ブエナのポインセチア」だ。

本作にはふたりの主人公がいる。前半に展開する国木田陽(志田彩良)が新しい家族を迎える話が「かそけきサンカヨウ」の部分で、後半は視点が変わる。清原陸(鈴鹿央士)が手術をして人生が一変する話が「ノーチェ・ブエナのポインセチア」の部分なのだろう(原作を読んでないので推測だが)。

ふたりの関係は最初から仲間たちも認めるようなものだったはずだが、その関係はすぐには成就しない。本作のプロローグ部分で語られるように、「友情のようでもあるし、恋愛のようでもある」関係だったからかもしれないし、それぞれが自分のことで精一杯になっていて、互いのことを見る余裕がなかったからでもある。ふたりの関係はそれぞれが抱えた問題が解決するまで宙吊りにされることになるのだ。

陽の抱えた問題

冒頭から中学生の5人組の様子が映し出される。彼(女)らは喫茶店「赤い風船」にてジュースを飲みながらおしゃべりをしている。5人組の中から一人だけ先に帰ることになるのが陽だ。母親がいない陽は、家に帰って夕飯の用意をしなければいけないからだ。そして、その時間をさりげなく知らせるのが陸だ。

ここですでにふたりの関係性は示されているし、その後に高校に進学してからも、陸が陽と同じ美術部に入っているのは、どう見ても陸が陽のことを好きだからだろうし、陽も陸の気持ちに気づいているようにも見える。だとすれば事は早いわけで、ふたりが両想いになってハッピーエンドとなってもよさそうだがそうはならない。ふたりはそれぞれ障害を抱えることになるからだ。

陽にとってのそれは、新しい家族の問題だ。父親(井浦新)の再婚相手の美子(菊池亜希子)と小さな怪獣のようなひなたが、父と陽だけの静かな家庭に仲間入りするからだ。さらに陽には長らく会っていない本当の母親(石田ひかり)との問題も持ち上がる。そんなこともあって、陽は陸からデートに初めて誘われたのに、自分の問題で頭が一杯で陸のことを突き放してしまう。

(C)2020 映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会

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陸のコンプレックス

一方で陸には陸の問題が生じる。陸は心臓に異変が見つかり手術をすることになる。手術は成功したものの、かつてのように大好きだったバスケをするようなことは無理になってしまう。そうなるとこれまでの人生を否定されたような気持ちになり、陸は自分に自信が持てなくなってしまうのだ。

そんな時に陸は陽から告白されることになる。陽の方はひなたとのトラブルもあったものの、「雨降って地固まる」で新しい家族とも、本当の母親ともうまく行くようになったのだ。そんなわけで余裕ができたのか、陽は一度は放り出した陸のところへと戻ってくる。ところがそうなると今度は陸の問題が浮かび上がってくるのだ。

陸は陽の告白に対して曖昧な返事しかできない。美術部で自分の目標に向って絵を描いている陽に対し、陸はバスケを奪われ何をすればいいのかもわからない状態にあるからだ。だから陸は陽に引け目みたいなものを感じ、陽の告白を素直に受け取ることができないのだ。

(C)2020 映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会

回り道の末に

さらに回り道は続く。陽からの告白を受けた陸が沙樹(中井友望)の方へと近づくのは、陸の心変わりなのかとも思っていたのだが、それは私の勘違いだったようだ。

沙樹は陸からの親切を同情と受け取り嫌がっている。沙樹は喫茶店でバイトに励む苦労人の側面があり、陸から同情されていると感じているのだ。これは陸が陽に感じているものと似ている。沙樹が陸から同情を買うのを嫌がるのも、陸が陽に対して自分を卑下するのも、自分を相手の下に置いているからだ。多分、陸は沙樹に「同情なんかしてない」ということを伝えるために沙樹に近づいていったんじゃないだろうか。陸にとっても陽に対するコンプレックスが問題となっていたからだ。

ただ、ここには別の問題もある。陸は鈍感で気づいていないけれど、沙樹は密かに陸のことが好きなのだ。それでも沙樹は陸と陽のことを知っているから何も言えないわけで、沙樹の密かな想いは届くことはない(沙樹のシュートしたボールが届かないように)。

大きく回り道をし、ラストで陸は陽の誕生会で再会する。それでもまだ陸のコンプレックスが解消したわけではなく、両想いとなるのは未来に先延ばしになるのだ。多分、陸が抱えたコンプレックスが解消することになれば問題はなくなるわけだし、陽も一度は自分も自らの問題でほかに頭が回らなかったことも理解しているから、陽が陸のことを待つことになるのだろう。

こんなふうにふたりが片想いのままで終わるのは、『mellow メロウ』の時にも書いたように、今泉力哉の映画では片想いこそが一番素晴らしいことであるからだろう。だからこのラストは最高のハッピーエンドということになるのだ。

コロナ禍が落ち着いてきた影響なのか、最近の劇場では大作が目立つ。山の中にひっそりと咲くサンカヨウのように本作は目立たない小品かもしれないけれど、とてもかわいらしい作品になっていると思う。登場人物がみんないい人ばかりだから、穏やかでやさしい気持ちで見られる。

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