監督は『世界にひとつのプレイブック』『アメリカン・ハッスル』などのデヴィッド・O・ラッセル。
原題は「Accidental Love」。
本作はカリコレ2019で限定的に劇場公開され、12月4日にソフトがリリースされたもの。
物語
プロポーズの最中の事故で頭にクギが入ってしまったアリス(ジェシカ・ビール)。手術でクギを取り出そうとするのだが、彼女は保険に入っていなかったため病院側に断られてしまう。
婚約に関してもうやむやになってしまったアリスは、弱者を救う活動をしている政治家ハワード(ジェイク・ギレンホール)に助けを求めるのだが……。
トラブルだらけの製作事情
本作は2008年に製作がスタートされたらしいのだが、完成した作品が公開されたのは2015年。どうしてこんなに時間がかかったのかと言うと、資金繰りのトラブルがあった模様。給料が払われないなどで撮影が何度も中断されたりして、映画は完成しないままになっていたらしいのだが、版権を買い取った会社がラブコメに仕上げて何とか公開にごぎつけたらしい。
監督はデヴィッド・O・ラッセルで、本作の邦題も『世界にひとつのプレイブック』に寄せて決められているわけだが、デヴィッド・O・ラッセル自身はこの作品に関わったことを後悔しているようで、監督としての名義はStephen Greeneとなっている。
本作はアメリカの医療保険制度の問題点を扱っていて、2008年当時なら話題性があったのかもしれないのだが、2014年に「オバマケア」が開始された後に公開となったために、時機を逸した形になってしまったようだ。
アメリカの医療問題
日本は国民皆保険となっているために、誰もが安心して病院に行くことができるわけだが、アメリカでは2014年以前はそうなっていなかったらしい。2007年の『シッコ』では、マイケル・ムーアがアメリカの医療問題に関して取り上げていた。
当時アメリカでは医療保険未加入者が約5,000万人に達していたとか。『シッコ』のなかのエピソードでは、仕事中に指二本を切断した人は、保険未加入だったために指一本を諦めなければならなかったという(ほかの先進国でこんなことはないらしいのだが)。
悪い冗談みたいな話だが、こうしたことはアメリカの医療現場では実際に起きていたことなのだとか。「自分のことは自分で守る」と銃武装の権利も手放さないアメリカとしては、自分で民間の保険に入っていないような人は医療が受けられなくても自己責任ということになるらしい。
本作『世界にひとつのロマンティック』の主人公アリスも、頭に刺さったクギを手術で取り除こうとするのだが、手術費は15万ドルという高値。自分も家族たちも払うことができなく、婚約の件もお流れになってしまう。
ただ、本作は悲劇ではなくてあくまで喜劇である。しかもかなりブラックなテイストだ。アリスはクギが刺さったまま生きていくことになるのだが、脳の損傷からか性格は狂暴化し、かなり面倒くさい女になってしまう。
医療を受けられない同類として登場するのが、あやしい勃起不全薬のために勃起したままの牧師と、脱肛でいつも尻を押さえている男という下ネタだ。後半に登場してくる政治家たちの手腕もえげつなく、悪ノリが酷くてかえって笑えない気もしてくるところが難点だろうか。
コントロール不能?
デヴィッド・O・ラッセルの作品はちょっとクレイジーな人が登場する。評判がよかった『世界にひとつのプレイブック』の主人公たちふたりも心の病を抱えているという設定で、抑制が効かないふたりはあちこちで騒ぎを巻き起こしたりしていた。
クレイジーな主人公という意味では本作『世界にひとつのロマンティック』も同様で、脳に損傷を負ったアリスがこれまでと違うことをしてしまう部分は笑えなくもない。アリスは性的に奔放になり、自分でも知らぬうちに政治家ハワードを自分の味方にしてしまうのだ。
ただ後半の医療制度改革の法案を通すあたりの展開はかなり強引だったのは否めないし、アリスを助ける立場にあるハワードが突然逃走して「自分探し」をしているという逸脱は意味不明だった。
デヴィッド・O・ラッセルの過去作『ハッカビーズ』では、主人公たちが実存に関する悩みを抱えているという設定で、登場人物の誰もが狂っていた。そこを捉えればデヴィッド・O・ラッセルらしいのかもしれないのだが、あまりに唐突すぎる展開だった。やはり自分の名前を出したくないと思っているくらいだから、どこかの時点で監督自身もコントロールできないような事態になっていたということなんだろうか?
この「自分探し」はカルト教団風なあやしげなイニシエーションなのだが、ハワードを演じるジェイク・ギレンホールがあまりに筋骨隆々過ぎて、「自分探し」に悩んでいる青年には見えないのも妙だった。別の作品のために鍛えていたのか、元々そうなのかはわからないが……。
それからアリス役のジェシカ・ビールも贅肉のないスリムな体型をしている。本作では冒頭の見せ場とも言えるローラースケートの場面以外ではほとんどアクションなどないのだが、2012年の『トータル・リコール』では主人公を追い詰める激しいアクションを披露していた人とのこと。本作ではコメディエンヌ風の表情を見せているのだが、本来はアクションもできる女優さんとのこと。だからあんなに引き締まった身体をしているらしい。
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