『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』 古くて新しいドラキュラ

外国映画

原作はブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』

監督は『トロール・ハンター』などのアンドレ・ウーヴレダル

物語

ルーマニアのカルパチア地方からイギリスのロンドンまで、謎めいた50個の無記名の木箱を運ぶためチャーターされた帆船デメテル号は、その航海の途上で毎夜、不可解な出来事に遭遇する。デメテル号船長の航海日誌に記されたおよそ1カ月におよぶ無慈悲な存在との対峙の記録をもとに、大海原をわたるデメテル号に何が起こったのか、そして謎に包まれた50個の木箱の中身をめぐる恐怖の物語が展開する。

『映画.com』より抜粋)

古くて新しいドラキュラ

ユニバーサル・スタジオと言えば、今では遊園地の名前として知られているような気もするけれど、アメリカ最古の映画スタジオだ。ハリウッドでは5大スタジオというものがあり、それらはそれぞれに特色のある作品を生み出してきた。

ユニバーサル・スタジオの呼び物はモンスター・ホラー映画ということになり、それは“ユニバーサル・モンスターズ”などと呼ばれるらしい。最近の作品としては、『透明人間』がこの枠組みの中の1作ということになる。

そして、そんな人気のモンスターのひとり(ひとつ?)がドラキュラということになる。ごく一般的なドラキュラのイメージは、たとえば狼男とかフランケンシュタインみたいな多くのモンスターとはちょっと異なるものだろう。ドラキュラ伯爵などとも呼ばれるように、高貴なナリをしていて優雅な感じすらするからだ。

ところが『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』にそれを期待すると裏切られることになるかもしれない。エンドロール後に観客の誰かが「ドラキュラじゃないよね」と連れ合いに語りかけていたけれど、確かにごく一般的なドラキュラのイメージとはまったく違う出来栄えになっているのだ。

こうしたドラキュラのイメージがどんなふうにして出来上がったのかはわからないけれど、たとえば『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』みたいにイケメンのヴァンパイアが女性の首元にその牙を突き立てると、血を吸われる女性の側も甘美なものを感じているような演出も多い。そんな意味では、ドラキュラのイメージはほかのモンスターのように単に恐れられているのとは違うのだろう。

しかし、本作はそんなドラキュラのイメージをぶち壊していく。劇中で“獣”とも呼ばれているけれど、本作のドラキュラは尖った爪で首筋を切り裂き、その傷口にかぶりついて血を吸うことになる。その姿はまさに野獣のようだったのだ。

(C)2023 Universal Studios and Amblin Entertainment. All Rights Reserved.

多大な影響を与えた原作

とはいえ本作はブラム・ストーカーが書いた原作に沿ったものになっている。原作である『吸血鬼ドラキュラ』は、その文庫本(創元推理文庫)の解説によれば「吸血鬼文学の集大成的傑作」ということになるようだ。ヴァンパイアの存在自体はもっとずっと古くから民間伝承としては伝わっていたようだが、原作者はそれらを集大成的にまとめあげてドラキュラ伯爵というキャラクターを生み出したようだ。

実際にこの本を読んでみると、傑作なのかはよくわからないけれど(長くて退屈な部分もある)、いわゆるヴァンパイアものの様々な設定がすべて網羅されているように感じられる。

たとえばヴァンパイアに血を吸われた者が同じようにヴァンパイアになったり、その姿が鏡に写らないとか、日の光を浴びると塵になってしまうといった基本的なことから始まって、コウモリや犬に変身したりとか、自分が血を吸った相手を操ることが出来たりもする。それから他人の家には招かれなければ入ることができないなど、様々なヴァンパイア映画で使われている設定がもれなく盛り込まれているのだ。

こういうヴァンパイアの設定は、今では少しずつ形を変えてゾンビものの映画になったりもしている(原作の最初のタイトルは「アンデッド」だったらしい)。それから日本の人気のアニメ『鬼滅の刃』の設定の多くも、この『吸血鬼ドラキュラ』から借りたものであるということも推測される。とにかくそれだけ後世に多大な影響を与え続けている作品であるということになる。

原作をごく簡単にまとめれば、ドラキュラ伯爵がイギリスのある屋敷を手に入れるという前段があり、その後にデメテル号のエピソードが出てくる。とはいえ、このエピソードは座礁したデメテル号から発見された船長の航海日誌によって、“何か”がデメテル号の中にいたということがわかるだけになっている。その後、原作ではヴァンパイア・ハンターであるヴァン・ヘルシング教授がドラキュラ伯爵と闘うことになっていく。本作は原作のわずかな部分(第7章)だけを取り出し、その時デメテル号の中で何が起こっていたのかを明らかにするものになっているのだ。

(C)2023 Universal Studios and Amblin Entertainment. All Rights Reserved.

スポンサーリンク

 

一体、何が起こっていた?

本作はそれを船版の『エイリアン』のように描いていくことになる。『エイリアン』では、宇宙船の外は宇宙だから逃げ出すことはできないわけで、ひとりずつクルーが犠牲になっていく。デメテル号もそれは同様だ。船の外には見渡す限りの海が広がっており、乗員たちはどこにも逃げ場もないまま、得体の知れない“何か”との長旅を強いられることになるのだ。

主人公のクレメンス医師(コーリー・ホーキンズ)は原作には登場しないキャラだ。原作ではデメテル号の乗員は全滅することになった(船長が舵輪に自らを縛り付けたまま死んでいる姿は、過去の様々なドラキュラ映画でも描かれている)。それではあまりに絶望的な作品になってしまうからか、あるいは続編のためなのかはわからないけれど本作では唯一生き残るキャラとしてクレメンスが登場するのだ。

本作ではほかにも船長の孫であるトビー少年(ウディ・ノーマン)や、もうひとりアナ(アシュリン・フランチオージ)という少女が登場するが、これも原作にはないキャラクターだ。わざわざ原作にはないキャラを登場させたわけだが、この二人はどちらもドラキュラ(ハビエル・ボテット)の犠牲になってしまうことになる。特にトビーの殺され方は残酷なもので、最近の映画では子どもが殺される場面はあまり見ないだけに、攻めた部分だったと言えるのかもしれない。

また、アナはドラキュラが支配していた村で人身御供としてドラキュラに差し出されたことになっている。アナがデメテル号に乗っていたのは、ドラキュラが船倉に隠れている間の食糧ということになる。つまりは“お弁当代わり”というわけで、ドラキュラはアナの血を少しずつ吸っては生きていたということらしい。なかなか残酷な話なのだ。

(C)2023 Universal Studios and Amblin Entertainment. All Rights Reserved.

続編はあるの?

全体的にはまさに船版『エイリアン』で、その意味では驚きは少ないかもしれない(ドラキュラの造形はおぞましくて驚くけれど)。それでもデメテル号の作り込み方はとても丁寧だったし、座礁する場面なども迫力があった。

ドラキュラはイギリスにいくつも自分の寝床あるいは拠点を確保するために、木箱を運んでいる。トランシルヴァニアの汚れた土の入った木箱(というか棺桶)で休息する必要があるからだ。50個の木箱を運ぶ船だけにそれなりの大きさが必要になってくるわけで、本作のデメテル号はとても重厚感があって良かったと思う。

監督のアンドレ・ウーヴレダルは、『トロール・ハンター』というちょっといかがわしいモキュメンタリーを撮った人で、そのデビュー作とはまったく違う印象で、本作はクラシカルな雰囲気を持つ作品になっていたように思う。実はそれほど期待していなかったのだが、その分、意外と楽しめた。

ラストはイギリス内に潜り込んだドラキュラの姿が描かれるわけで、もしかしたら続編もあるのかもしれない。それでも本作のモンスター・ドラキュラの姿を見ていると、世間の人たちに紛れて人間として生きていくドラキュラ伯爵の姿はちょっと想像しにくいのだけれど、一体どうするつもりなのだろうか?

ちなみに“ユニバーサル・モンスターズ”のシリーズとしては、ドラキュラに操られる手下であるレンフィールドを描いた作品『レンフィールド』の公開も予定されている。こちらでドラキュラ伯爵を演じるのはニコラス・ケイジのようだし、ジャンルとしてはホラー・コメディということのようで本作とのつながりはないんじゃないかとは思うけれど、ユニバーサル映画としては人気モンスターのドラキュラを新しい切り口で蘇らせようということなのだろう。

さらに本作とは離れてしまうけれど、そもそもドラキュラ映画である本作が気になったのは、本作と同じ原作を元にした『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922年)のリメイクの話を耳にしたからだ。これは“ユニバーサル・モンスターズ”とは関係ないようだが、こちらも楽しみな作品だ。

そう言えば、ごく一般的なドラキュラのイメージとは異なる、初期のドラキュラ映画であるノスフェラトゥの姿は丸坊主に尖った耳という姿で、本作のドラキュラの造形もノスフェラトゥの影響があるということなのかもしれない。

created by Rinker
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン

コメント

タイトルとURLをコピーしました