原作は『ありがとう』などの山本直樹の同名漫画。
監督・脚本は『アルプススタンドのはしの方』や『愛なのに』などの城定秀夫。
物語
とある孤島で生活をする二人の男と一人の女。ニコニコ人生センターという宗教的な団体に所属している3人は、オペレーター、副議長、議長と互いに呼び合い、無人島での共同生活を送っていた。瞑想、昨晩見た夢の報告、テレパシーの実験、といったメールで送られてくる不可解な指令“孤島プログラム”を実行し、時折届けられる僅かな食料でキリギリの生活を保つ日々。これらは俗世の汚れを浄化し“安住の地”へ出発するための修行なのだ。だが、そんな日々のほんの僅かなほころびから、3人は徐々に互いの本能と欲望を暴き出してゆき……。
(公式サイトより抜粋)
二人の男と一人の女
ニコニコ人生センターには“先生”と呼ばれる教祖様がいるらしい。その“先生”の命を受けた本部が“孤島プログラム”を運営している。“先生”の言うことは絶対で、“孤島プログラム”にも先生の意図があるということになる。それがどんな意図かはわからないけれど、若い女性がひとりに、壮健な男がふたりという状況はその後の予想がつきそうなものだ。
それでも3人は生真面目に修行に励んでいる。汚れた俗世から逃れ、その島で心身共に浄化しようという決意なのだ。
人間には三つの欲求があると言われる。食欲と睡眠欲と性欲だ。その孤島では食料は“先生”によって浄化されたものだけを食べることになっていて管理されているし、何もない場所だけに夜になれば眠るほかないわけで睡眠欲も満たされる。そうなると3人が島で闘っているものは結局は性欲なのかもしれない。
3人が盛んに話題にしているのは夢の話であり、それも性的な夢を見ていないかどうかということが問題になっている。そんなふうに性的なものを排除しながらも、それにこだわっているのはやはりそれから逃れられないからであり、3人は次第にそれに飲み込まれるようになっていく。
※ 以下、ネタバレもあり!
きっかけは濡れたTシャツ
3人は真摯に汚れた俗世から逃れたいと思っているのだろう。議長(宇野祥平)は元いじめられっ子で、未だに悲惨ないじめの経験を夢に見るらしい。副議長(北村優衣)はDV夫から逃げて教団に入ったらしく、オペレーター(磯村勇斗)は母親が教団にのめり込んだことがきっかけとなり自分がハマったらしい。それぞれの理由で汚れた俗世を嫌い、心身共に浄化され、“先生”が言う安住の地を目指している。
それでも若い健全な男女である3人が狭い島で暮らしていれば、「惚れた腫れた」ということは当然ながら生じてくることになる。唯一の女性である副議長は無自覚な誘惑者として、オペレーターの理性を破壊することになる。
食料が尽きたという非常事態の中で、海辺で貝を採取していた時の副議長の濡れたTシャツ姿は、それまでオペレーターが抑えていた欲望を一気に解放させる。その欲望は大津波となって押し寄せ、欲望を押しとどめていた堤防は決壊し、波は岩にぶつかって砕け散ることになる(東映映画のアレみたいに)。そうなるともう欲望は抑えようがなくなってくる。
そうしてオペレーターと副議長が急接近することになると、議長だけがあぶれてしまう。ただ、議長には教団内での序列の優位というものがある。島の中での序列は議長がトップで、それは絶対的なものとなっている。そして、狭い島で逃げる場所もないということになれば、議長が暴走していくことになる当然のことだったのかもしれない。
連合赤軍事件がモデル?
本作にはオウム真理教や連合赤軍の事件の影響が見てとれるだろう。原作者の山本直樹には連合赤軍事件を忠実に再現した『レッド』という作品もあるらしく、本作の3人の関係性も連合赤軍のそれを思わせるようなものとなっている。
連合赤軍事件では、共産主義革命を目指す者たちが山岳キャンプにおいて訓練をしていたわけだが、その中でリンチ殺人が起きることになった。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(若松孝二監督)などを観ると、リンチ殺人のきっかけの一つには、女性メンバー同士の嫉妬が関わっているものとして描かれていた。
そして、それを許してしまうことになるのはグループ内の序列が絶対的なものになっていたからだろう。連合赤軍のリンチ殺人では、「共産主義化の観点からすれば」などという言葉ですべてが説明される。これはマジック・ワードでその中身は誰も知らない。誰も知らないからこそリーダーだけはその言葉に好き勝手な意味を当てはめることができ、それに反したとリーダーが判断したメンバーは粛清されることになる。
『ビリーバーズ』の“孤島プログラム”で起きたこともそうしたことだ。ただ、本作は連合赤軍事件の凄惨さとは異なり、教団自体も何かのパロディとしか見えないし、ノリもあくまでもコメディタッチである。それでもやっていることはえげつないものがある。
ニコニコ人生センターという教団のやっていることはよくわからない。「みんなのために頑張りましょう」というのがモットーらしいのだが、実際に何をどう頑張るのかはわからない。しかし、それだからこそ議長の意味不明な屁理屈がまかり通り、その権力によって序列下位の副議長を好きに扱うことも可能になる。そして、議長が副議長に要求するのは、浅ましいまでに自分の性的欲望を満たすためのオーラルセックスだったということになる。3人しかいない世界で、序列が絶対的なものだとそんなことも起きるということなのだろう。
安住の地へは?
本作の最後はかなり唐突な印象を受けた。連合赤軍もオウムもそうだったように、結局は国家権力が介入してくることになるわけだけれど、取って付けたような結末とも思えたのだ。それでもそのことが本作の重大な欠点とも思えなかったのは、その前段部分で欲望の解放は達成してしまっていたからだろうか。それがすべての欲望を解放したかのような海辺でのセックスの場面だろう。
副議長とオペレーターはまだ島に議長がいた頃は、互いにオーラルセックスをし合う関係ではあったけれど、本番行為だけは避けていた。その頃はまだ何かしらの縛りがあったからだろう。しかし、議長という邪魔者を排除して、島でふたりきりになった副議長とオペレーターは、海辺で丸裸になり、誰もいない海ときらめく太陽をバックにして思う存分セックスを堪能することになる。
これはふたりが目指していたはずの浄化された姿ではないかもしれない。それでもそこには汚れたものなどは感じられないし、逆に美しく自然なものに思えてくる。そこは安住の地とは言えないかもしれないけれど、欲望に正直になるのも悪くはないとも思わせることで、宗教に対する批判になっているのかもしれず、それと同時に観客にとっては眼福だったんじゃないだろうか。
オペレーターに欲望を駆り立てることになる副議長の濡れたTシャツ姿はインパクトあり。オペレーターでなくともチラ見せずにはいられないだろう。副議長を演じた北村優衣は初めて知ったけれど、まさに体当たりといった感じで、その裸体は日の光の下にいるのが自然に感じられるほど健康的であり、同時に淫靡なものを感じさせた。
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