『シン・仮面ライダー』 エヴァのあとに残ったもの

日本映画

1971年放送開始の特撮テレビドラマ『仮面ライダー』のリブート作品。

脚本・監督は『シン・ゴジラ』などの庵野秀明

物語

どこかから逃げ出してきた本郷猛(池松壮亮)はトラックに追われている。バイクの後部座席にはルリ子(浜辺美波)という女性を乗せ、本郷たちは必死で逃げているのだ。そして、トラックの猛追を受けた本郷は、バイクから落ちた拍子に“何か”に変身する。

本郷は自分でもわけがわからぬままに追っ手たちを素手で打ち倒していく。その力は人間離れしている。ルリ子の父・緑川博士(塚本晋也)によれば、本郷は秘密結社SHOCKERによりバッタの力を持つ改造人間にされていたのだ。本郷はSHOCKERに完全に支配される前に逃げ出し、その桁違いの力を人間たちのために使うことになるのだが……。

仮面ライダー素人の感想

『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン劇場版:|| 』『シン・ウルトラマン』と来て、今度は『シン・仮面ライダー』ということになる。もちろん仮面ライダーというキャラクターのことは誰でも知っているだろう。しかし、私自身はテレビ番組の『仮面ライダー』を見ていたのかというと記憶にはない。ウルトラマンは何となく覚えていたけれど、仮面ライダーのほうは記憶にないのだ。

それでも親に言わせると、仮面ライダーも夢中になって見ていたらしい(もちろん昭和の時代のやつだ)。どうやら子供の頃はライダーキックとか、あの変身ポーズを真似したりしていたらしい。ところが今ではそんなことはまったく忘れてしまったようで、だから今回の作品はとても新鮮だった。以下も仮面ライダーに関してまったくの素人の感想ということになる。

冒頭がかなり飛ばしている。いきなりバイクでの逃走シーンから始まり、仮面ライダーに変身したかと思うと、SHOCKERの雑魚キャラたちをなぎ倒していく。しかもその倒し方が容赦ない。バッタの力を持つという仮面ライダーの力は凄まじく、相手は一撃でトマトでも潰すかのように血の海に沈むことになる。

なかなか衝撃的で驚かされる冒頭だ。本作のレーティングが「PG12」になっているのは大人向けの作品を意識してのことなのだろう。かつてのテレビ版は子供向けになっていたはずで血は流れなかっただろうから、このあたりには庵野秀明流のアレンジがあるのだろう。

(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

エヴァに似てる?

主人公のキャラもかつてのテレビ版で主人公を演じたのが藤岡弘、だったことからすると、かなりのイメージチェンジだろう。本作の池松壮亮は(いつものように?)ボソボソとしゃべるコミュ障の男ということになっているし、ためらいもなく人を殺せるほどの力を持ったことに悩むことになる。こうしたキャラはどこかで『新世紀エヴァンゲリオン』の主人公シンジにも似通ってくる。

それからラスボスとも言える緑川イチロー(森山未來)が狙っているのは、プラーナといういわゆる魂のようなものを“ハビタット世界”というところへ送り込むことだ。そこでは人間は身体を失い、魂だけになって混ざり合うことになるらしい。これはもちろん『エヴァ』の人類補完計画とよく似ている。そんなわけでもともとの仮面ライダーをだいぶ庵野秀明の領域に持ち込んで料理しているようにも感じられる。

そのほかの設定も色々と考えられている。たとえばSHOCKERの組織名は「Sustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling(持続可能な幸福を目指す愛の秘密結社)」とされる。かつては悪の秘密組織だったはずだが、ちょっと毛色が違った組織になっているのだ。

そして、SHOCKERは最大多数の最大幸福ではなくて、最も絶望している人を救済することを目的とするのだという。何やら壮大だし、とても麗しい話にも思えてくるのだが、台詞では説明されるけれど具体的に何が行われているのかは本作を見ただけではよくわからない。

本作にはスピンオフでイチローの前日譚を描いた漫画『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』があったりするらしい。もしかするとかつてのオリジナルのテレビ番組や石ノ森章太郎の漫画などと合わせてそんな副読本まで網羅すれば、本作を理解しやすいのかもしれないけれど、単純にこの映画1本だけの素人ではちょっと置いてけぼりになる可能性があるのだ。

(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

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コンテンツ再生?

本作は庵野秀明が手掛ける「シン」の名前が付くシリーズの1本だ。これらは「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」などとも呼ばれるらしい。次々とこのシリーズが企画されていくことになったのは、庵野秀明がそれだけ大物だということだろう。この一連の流れを見ていると、映画会社のほうが庵野秀明にすり寄っていったようにも感じられた。

ゴジラの東宝も、ウルトラマンの円谷プロも、そして今回の仮面ライダーの東映も、庵野秀明の才能とネームバリューを借り、これまで長い間続いてきた伝統的なコンテンツに新たな息吹きを与えようという動きのようにも見えていたのだ。

それは間違いではないのかもしれないけれど、その一方で「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」は庵野秀明自身がやりたいことでもあったのだろう。庵野秀明はアニメや特撮のファンでもあり、かつて自主製作でウルトラマンや仮面ライダーのパロディ作品を撮っていたらしい。

かつては好きでやっていたことが今では仕事になってしまうというのだから、庵野秀明にとっては願ってもない機会ということになる。実際のところはどちらが歩み寄ったのかは知らないけれど、どちらにとっても好都合だったということだろうか。本作がかなり金をかけた自主製作のように見えたとしても、監督本人は存分に楽しんでいるのだろうし、コンテンツとしても大いに宣伝にはなっているということなのだろう。

(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

オタク的な感性で楽しもう

先ほどは本作はちょっと『エヴァ』を思わせる部分があると書いたけれど、結局それは見せかけだけだったように思える。『エヴァ』というアニメは、ロボットアニメというオタク的な部分と、心の寂しさを埋めたいという普遍的で誰にでも通じる部分、そんな二つの側面がうまく混ぜ合わされていたような気がする。

アニメが特段好きというわけでもない自分が『エヴァ』にはまったのは、この後者の部分があったからだと思うし、だからこそアニメファンだけでない幅広いファンを獲得したんじゃないだろうか。そして、その後者の部分というのは、監督である庵野秀明の実存とも関わってくることだったのだろう。

しかしながらその問題に関しては、すでに『シン・エヴァンゲリオン劇場版:|| 』でやり尽くした感もある。庵野秀明自身は今さら別の作品で同じことを繰り返すつもりはなかったのだろう。だから本作においては、“ハビタット世界”がどうやらこうやらと語られたりもするけれど、それが具体的なものにはならないのだろう。単に敵たちと仮面ライダーが闘う理由が必要とされただけで、そのために用意されたお題目に過ぎなかったということではないだろうか。

結局、そのあとに残るものは仮面ライダーと様々な怪物たちとの闘いであり、これは仮面ライダーというコンテンツに対する愛情みたいなものだろう。本作ではクモオーグから始まり、コウモリオーグ、ハチオーグ、そしてチョウオーグことイチローなど、テレビ版のダイジェスト的な展開になっているのだろう。テレビ版をきちんと見てはいないけれど、you tubeで第1話だけは見た。そして、それは本作の冒頭のクモオーグのエピソードとして忠実に再現されている。

そんなわけで『エヴァ』の時にはオタク的な側面と、普遍的な悩みに通じるような側面があったとしても、『シン・仮面ライダー』はオタク的なほうだけが残ったことになっているわけで、仮面ライダーというキャラクターに思い入れがある人は楽しめる作品になっているのかもしれないけれど、そうでない人にとってはいまひとつピンと来ない作品になってしまっているのかもしれない。

もっとも庵野秀明は『キューティーハニー』みたいにオタク的な感性で単純に楽しいという作品も撮っているわけで、『エヴァ』のほうが特殊だったのかもしれないけれど……。そんな意味では『シン・仮面ライダー』のライダーキックの場面とかは単純にカッコよかったし、暗闇での変身ポーズも決まっていた。多分、子供の頃に仮面ライダーを見た時に夢中になったとしたら、小難しい物語の部分ではなくて、単純にカッコいいとかそういうものであったはずで、その意味では刺さる人には刺さるのかもしれない。

整った顔立ちの浜辺美波はクールで澄ましたキャラクターだったのに、物語上の要請からか後半になるとキャラ崩壊したかのように変化するのがおもしろい。

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