『コンペティション』 シュールなダンスは?

外国映画

監督・脚本は『ル・コルビュジエの家』などのガストン・ドゥプラットマリアノ・コーン

ペネロペ・クルスアントニオ・バンデラスが共演したヴェネチア国際映画祭コンペティション部門出品作。ふたりの本格的な共演というのは、意外にも本作が初めてということになるらしい。

原題は「Official Competition」。

物語

大富豪の起業家は自身のイメージアップのため、一流の映画監督と俳優を起用した伝説に残る映画を作ろうと思い立つ。変わり者だがあらゆる映画賞を総ナメする天才女性監督ローラ(ペネロペ・クルス)、人気と実力を兼ね備えた世界的大スターのフェリックス(アントニオ・バンデラス)、そして老練な一流舞台俳優の3人が集結し、ベストセラー小説の映画化に挑む。しかしエゴが強すぎる3人はまったく気が合わず、リハーサルは予想外の展開を迎えることに――。果たして映画祭のコンペティションを勝ち抜けるような傑作は完成するのか!?

(公式サイトより抜粋)

映画は夢か?

そもそものきっかけは製薬会社のトップの老人(ホセ・ルイス・ゴメス)の突然の思いつきから始まる。彼は叩き上げからのし上がり今の地位を築いたらしい。しかし彼は大富豪にはなったものの、誰からも尊敬されていない。人からどう見られるか。そんなことが気になりだした大富豪は、イメージアップの一つとして映画を作ろうと考えるのだ。

ハリウッドは夢の工場などと言われることがあるけれど、実際に映画界を牛耳ったりしている人は金で名声を買おうとしているだけというわけだ。実際にそんな人も少なくはないということなのだろう。

この大富豪は映画の中身についてはほとんど興味がない。天才と評判の監督とノーベル賞を受賞した原作本、そうしたものを金で集めるだけ。あとは自分の名前がプロデューサーとして残ればいいだけで、その映画に夢があろうがなかろうがそんなことはまったく関心がないのだ。

「金は出すけど、口は出さない」というのは、監督にとっては理想的なプロデューサーとも思えなくもないけれど、要は中身には関心がないだけなのかもしれないのだ。そんな意味で本作は映画界を大いに皮肉った作品ということになる。

(C)2021 Mediaproduccion S.L.U, Prom TV S.A.U.

三つ巴の闘い

原題の「Official Competition」というのは、映画祭の「コンペティション部門」のことらしい。本作もヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に出品されているわけだが、映画祭では世界各国の映画がお披露目され、その出来不出来を競わされることになる。本作において競い合うことになるのは、ひとりの映画監督とその次回作の主演俳優2人ということになる。

ローラ(ペネロペ・クルス)は変わり者ではあるけれど天才的な映画監督だ。彼女が新作の出演者として希望したのが、イバンとフェリックスという対照的な二人だ。イバン(オスカル・マルティネス)は演技派として知られた舞台俳優であり、一方のフェリックス(アントニオ・バンデラス)は世界的なスター俳優だ。

二人は水と油のようなもので、最初からあまり気が合いそうにない。「誰もいないところで自分の名前を呼ぶことで客観性を獲得できる」などと小難しい演技論を振りかざすイバンに対し、フェリックスは涙が出るならメンソレータムでも何でも使えばいいと考える。対照的で相容れない二人なのだ。

ローラがそんな二人を選んだのは、次回作が兄と弟の確執を描くものであり、そのためには演じる役者たちの間にも緊張関係があったほうがいいと考えたからということになる。だから二人の関係がうまくいかないこともローラの演出プランのひとつということになる。

“バックステージもの”というジャンルの映画はよくあるけれど、本作がちょっと変わっているのは撮影現場ではなく、その前段階のリハーサル風景を描いたものだということだろう。すでに撮影前から互いに対する探り合いは始まっているし、ローラの演出も始まっているということらしい。

ローラはいくつもの演出プランを用意している。巨大な岩の下で本読みをさせたり、イバンとフェリックスが今まで獲得してきたトロフィーを目の前で粉々に粉砕してみたりする。これらはほとんど監督という権力の名の下に行われるパワハラみたいなものだが、多分、映画界ではそんなことは珍しくはないのだろうし、かえってエキセントリックなエピソードとして喧伝されたりすることもあるのだろう。本作はそんな3人のバカげた三つ巴の闘いを描くことになるわけだが、本作はどこかで斜に構えた感じで3人の滑稽な姿を笑ってみせることになるのだ。

(C)2021 Mediaproduccion S.L.U, Prom TV S.A.U.

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最高の役者になるために

監督ローラの演出プランにはそれなりの理由があるのだろう。ラップでイバンとフェリックスをぐるぐる巻きにしてしまうのは、どうしても“個”というものに囚われてしまうわれわれを戒めるものと言える。イバンとフェリックスは、対立することになる兄と弟を演じることになる。彼らは二つの存在ではあるけれど、一つでもある(もともと同じものから誕生したものだ)。だからラップで二人をひとつにすることで、“個”というものから離れることができる。

たとえばそんなふうに説明をすることができるし、ローラは実際にそんなふうにも考えているのだろう。しかしやられたほうとしてはたまらない。端的にアホみたいにしか見えないし、しかも動けない状況の中でこれまでの栄光の証であるトロフィーをバラバラに砕かれてしまうことになる。そうなると役者たちとしても監督ローラに対抗する必要が生じてくる。

(C)2021 Mediaproduccion S.L.U, Prom TV S.A.U.

役者というのは別の人間を演じるわけで、そうやって見ている人を騙していることになる。最高の役者になるためには、最高の嘘がつけなければならない。そんなふうに考えたか、あるいは単に演出プランの名の下に無理難題を押し付けられていることに嫌気が差したのか、フェリックスは唐突な嘘でローラとイバンを騙すことになる。そこからは3人の騙し合いのゲームにもなっていくのだ。

しかし、フェリックスのやり方はかなりの顰蹙もので、彼は自分が余命あとわずかという設定にし、それによってローラの涙を誘うことになる。劇中ではそれらしい感動的な音楽も響き渡り、本当にちょっとほろりとさせるシーンにもなっているのだが、あとでそれは真っ赤な嘘だとわかる。

もっともイバンはフェリックスの病気について調べているようでいて、実はホワイトニングのほうが気になっていたようでもあるからそれほど気にしてはいなかったのだろう。高尚な感じで澄ましているイバンは、実は結構俗物なのだ。

とにかく三人は三人とも真剣なのかもしれないけれど、その騙し合いはどこか子供みたいなやりとりにも見えてくるのだ。

(C)2021 Mediaproduccion S.L.U, Prom TV S.A.U.

シュールなダンスは?

ガストン・ドゥプラットマリアノ・コーン監督が建築について造詣が深いのかどうかは知らないけれど、『ル・コルビュジエの家』でも有名建築家が設計した家が舞台となっていたし、『コンペティション』でもどこかの美術館のような小奇麗な建築物が舞台となっている。それが横長のシネスコのスクリーンにとても映える。そしてラストでは、そのスクリーンにいっぱいにペネロペ・クルスの爆発したような髪の毛が広がることになる。

そんなふうにシネスコの使い方もおもしろかったし、音響効果でも色々と試したりもしている(収音マイクを前にしたキスシーンなど)。劇中のローラや役者の二人も映画を道具として遊んでいるようにも見えるけれど(あるいは遊ばれているのかも)、ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン監督も本作自体を道具として遊んでいるようにも見えて、そんなところが楽しい作品だった。

それからちょっとシュールなところもある。『ル・コルビュジエの家』でも唐突なダンスシーンが意味不明で印象深いのだが、本作でもダンスシーンがある。ペネロペ・クルスが唐突に踊り出すのだが、これが妙におかしな動きだったのだが、よく考えてみたら志村けんのそれとほとんど同じなのだ。まさかペネロペや日本の裏側にあるというアルゼンチン出身の監督が志村けんのことを知っていたとは思えないけれど……。日本の伝説的なコメディアンだけにそんなこともあり得るのだろうか。

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