『月影の下で』 ターゲットは思想そのもの?

外国映画

9/27よりNetflixにて配信中。

監督は『肉』などのジム・ミックル

原題は「In the Shadow of the Moon」。

物語

1988年のある夜、フィラデルフィアで3人が鼻や目から血を流して死ぬ。主人公の警官トーマス(ボイド・ホルブルック)がその遺体を調べると、被害者は脳が溶けて流れ出しているような状態だった。トーマスは犯人の青いパーカーの女性(クレオパトラ・コールマン)を追い詰めるのだが、闘いの最中の事故によって彼女を殺してしまうことになる。

しかし、その9年後、9年前と同じような遺体が発見されると、防犯カメラに映されていたのは青いパーカーを着た女性だった。9年前に死んだはずの彼女がなぜまた現れたのか?

派手な導入部分

舞台上のピアニストと、ダイナーの料理人、バスの運転手という無関係の3人が、顔中の穴から血を流して死ぬという派手な導入で一気に引き込まれる。しかもその殺人事件はその後、9年ごとに繰り返されていくこととなる。

一度は死んだはずの青いパーカーの女性はなぜ生きているのか。その女性はトーマスと初めて会ったときに彼のことをなぜか知っており、さらにその日に生まれてくるトーマスの子供のことまで知っていた。彼女は一体何者なのか?

※ 以下、ネタバレもあり!

『月影の下で』 9/27よりNetflixにて配信中。

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タイムトラベルもの

冒頭では2024年の荒廃したフィラデルフィアが描かれているから何となく想像はできるのだが、青いパーカーの女性は実は未来からやってきた人間で、未来を変えるために9年ごとにやってきていることが判明する。『ターミネーター』と同じような設定だが、ターミネーターのターゲットは一人だけ。未来の人類の指導者であるジョン・コナーを生むことになる、サラ・コナーだけを殺せばよかった。

しかし、『月影の下で』のターゲットはもっとたくさんいる。というのも未来を荒廃させる原因となっている過激派組織は、ある特定の人を殺して済むものではないからだ。そうした過激な行動を生むことになる思想そのものを断つべく犯人は殺しを続けているということになる。

この過激派というのが白人至上主義者で軍隊を組織しているようなグループ。しかし、それに賛同する人も多く、リーダー一人を殺せば済むものではない。この辺はアメリカのヘイト・クライムの状況が反映されているようだ。1988年に犯人がトーマスに追われて死んだとき、犯人が黒人だったために、人種差別撤廃を訴える運動が巻き起こったりもする。

劇中では過激派の「真のアメリカ運動」などというスローガンが登場するのだが、「アメリカを再び偉大にする」と語る人やその支持者たちのことが念頭にあるのかもしれない。そうした思想を野放しにすると、果ては国そのものすらを荒廃させることになるという批判があるのだろう。

時系列?

タイトルがロマンチック・ラブストーリーみたいなものになっているのは、本作では月が重要な役割を担っているから。というのも、9年ごとに月の引力が働き未来から橋が架かるという設定だからだ。9年に一度のタイミングでしかやってこれないので、犯人は過去に遡るようにして殺しを続けている。

1988年にトーマスと犯人は初めて会い、犯人は死ぬ。1997年に犯人は再び現れるものの逃げられてしまう。2006年にはタイムマシンの位置を特定するところまで追いつめる。そして、2015年にはトーマスは待ち伏せして犯人を問い詰めることになる。

混乱するのが上記の見方はトーマス側からのもので、犯人は時間を遡っているために2015年、2006年、1997年、1988年と渡ってきてそこで死ぬということになる。犯人自身は歳を取っていないことからすると、犯人は遠い未来のどこかの時点から、時間を遡って一気に殺人を繰り返していることになるのだ。

未来を見てきた人は狂人に見える

現在の行動が未来にどんな影響を与えるのかは誰も正確に知ることはできない。しかし、タイムトラベルで未来からやってきた者は別だ。すでに未来を見てきているわけだから。

トーマスは犯人が未来から来ていることは理解しているのだが、彼女が行っている殺人が未来を救うことになるとは考えていない。未来が見えている人の行動が狂人のようにしか見えないというのは『デッドゾーン』で描かれていたのと同様だ。トーマスが犯人のことを信じられるのかどうかというのが分岐点になるわけだが、そこはある秘密が明かされることでうまくオチをつけたんじゃないかと思う。

タイム・パラドックスはありそうだし、タイトルが中身とうまくマッチしない感じもするのだが、タイム・トラベルものが好きなら楽しめる作品になっている。毒薬を打っておいて未来からの遠隔操作で殺害するというのはアイディアとしてはおもしろいのだが、タイミングを見計らって殺人ショーの効果を最大限にするということだったんだろうか。その割には誰にも知られずにひっそり死んでいたりするターゲットがいたのだが……。

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