『宮本から君へ』 宮本みたいに生きてみたらどうだ

日本映画

原作は『ザ・ワールド・イズ・マイン』『愛しのアイリーン』などの新井英樹の同名漫画。

監督は『ディストラクション・ベイビーズ』真利子哲也

原作の前半部分はすでに2018年にテレビドラマ化されている。

物語

文房具メーカー・マルキタの営業マンである宮本浩(池松壮亮)は、恋人の中野靖子(蒼井優)の家にお邪魔した時、靖子の元恋人の裕二(井浦新)と出くわしてしまう。

すったもんだの挙句、その場で「この女は俺が守る」と宣言した宮本。その後しばらくはふたりの幸せな日々が続くのだが、ある事件が起き、宮本は負けられないケンカを挑むことになる。

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宮本浩というキャラ

私は原作漫画は読んでいないのだが、雑誌のアンケートで宮本浩というキャラが一番嫌いな男性に選ばれていたのは覚えている。感情的で暑苦しく、空気を読むことのない宮本は、愚直さのあまりいつも失敗を引き起こす。巻き込まれる周囲は穏当な結末に収めたいわけで、常に軋轢を生むことになる。宮本が嫌われるのもわからなくはないのだ。

原作の前半をもとにしたテレビドラマ版では、通勤電車で知り合った甲田美沙子(華村あすか)との恋愛や、営業マンとしての仕事を描いている。それなりにほのぼのしたシーンもあったドラマ版と比べると、映画版『宮本から君へ』の本気度は段違いとなっている。

ドラマ版では会社が舞台ということもあり、熱くなって舞い上がる宮本を諫める上司や同僚がいたわけだが、映画版の本作では舞台となるのは宮本の人生そのものであり、負けるわけにはいかない闘いだからだ。そんなわけでそのエネルギーたるやとんでもないものとなっていて、観客を圧倒し疲弊させるほどの映画体験となっていることは間違いない。

絶対に負けられない闘い

宮本と靖子の平穏な日々が脅かされることになったのは、飛び込み営業で知り合った会社の面々との飲み会に参加した時のこと。関係のない靖子までが顔を出していたのは、草ラグビーのチームをつくっている体育会系コミュニティの無理強いということだろう。そして、それに参加していた真淵拓馬(一ノ瀬ワタル)という男が、宮本が泥酔して眠り込んだ夜中に靖子を強姦するという暴挙に出る。

宮本は自分が守るべき靖子がすぐ近くで犯されているにも関わらず眠りこけていて、すべてが終わった次の日になって事件を知る。怒りを露わにする宮本に、靖子は「怒る権利なんかない」と突き放す。

それでも怒りが収まらない宮本は拓馬に真っ向勝負を挑むのだが、相手は「怪物」とも呼ばれるラガーマンで、宮本は一発で前歯を折られてノックアウトされてしまう。

拓馬は宮本にとってまったく勝ち目がない相手だ。しかし、宮本としてはこのケンカだけは絶対に負けることはできない。この闘いに負けることは、人生そのものの敗北になるからだ。

 ※ 以下、ネタバレもあり!

(C)2019「宮本から君へ」製作委員会

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乗り越えなければならない試練

本作のクライマックスは拓馬とのケンカということになるのだが、本作ではその後のふたりの姿も描かれている。「ケンカ後のふたりの関係」と、「そこに至るまでの出来事」が同時に描かれていくのだ。この時系列をシャッフルした構成がとても効果的だったと思う。

映画が始まると宮本はすでに前歯を折られていて、その後、結婚が決まったらしい中野靖子と、それぞれの親元にあいさつに向かう。ドラマ版では靖子は一度登場しただけだったわけで、この間に一体何があったのかという疑問が生じる。多分、それは満身創痍の宮本の状況とも関係していることであり、そのケンカの相手とは示談が成立していることも明かされる。一体どんなことを乗り越えてふたりがそこにたどり着いたのか?

それはその後の展開で明らかにされるわけだが、拓馬とのケンカであり、靖子のお腹にいる子供の父親問題(元カレの裕二なのか宮本なのか)だったりする。ただ、そうしたアレコレを乗り越えてふたりはそこにいたわけで、靖子が雷が光る海岸で「わたしは命をふたつ持って生きてるんだ、あんたには負けないよ」と宮本に宣言する場面では、何とも柔和な表情を浮かべている。

この海岸は靖子の父親との想い出の場所でもあったらしいのだが、父親には子供ができてからの事後承諾的な結婚を祝福してはもらえなかった。それでもふたりが乗り越えてきた試練から比べれば、そんなことに負けることはないという余裕があの表情だったようにも思えるのだ。

これを順番通りに見せようとすると、後半がちょっと間延びした展開になってしまうのは避けられないだろう。だからこそクライマックスを拓馬とのケンカに据えて、先にその後の穏やかな日々を描いておいたということなのだろう。

(C)2019「宮本から君へ」製作委員会

宮本は靖子のために闘う?

宮本は拓馬とのリベンジマッチに辛くも勝利する。このケンカでも不器用な宮本は姑息な手段というものを一切使わない。「怪物」拓馬にほとんど策もなく真っ向から立ち向かう。CGではなくてリアルに撮影したという非常階段でのケンカシーンは本当にヒヤヒヤの連続だった。階段からふたりが宙づりになるシーンなどまさに命懸けだし、痛みを感じさせる演出はスクリーンを見ながら顔をしかめてしまうような不快感だった。

靖子のために闘うというのはキレイごとだ。宮本は自分が納得するために闘っている。拓馬を打ち負かした宮本は、その獲物を見せに靖子の元に向かうのだが、もちろん靖子はそんなことを望んではいない。

しかし、宮本はそんなことは気にしない。自分がやりたかったからケンカをし、勝ち目がない相手に打ち勝つことができた。そんな凄い自分がいるから靖子も子供も大丈夫。そんな自分勝手な論理に靖子が説得されることはないはずなのだが、もはやそこは論理を超えた何かがあるということなのだ。宮本が巻き散らす熱量があればこそ可能になったことなのだ。そして、それが悪くない結末だったことは、靖子の海岸での表情がすでに物語っているのだ。

真利子哲也の前作『ディストラクション・ベイビーズ』の主人公は、タガが外れたようにケンカに明け暮れていて到底共感できないキャラだった。本作における宮本浩というキャラクターも、なるべくなら自分のそばにはいて欲しくない人間だ。何より暑苦しくて鬱陶しい。そんな嫌われるキャラクターの宮本だが、そこにはどこかで嫉妬の感情も入り混じっているのかもしれない。自分がどうやっても宮本にはなれないというのを思い知らされるからこそ、なるべくなら彼のような人間を遠ざけておきたいという気持ちになる。その反面でどこかでちょっとだけ嫉妬している部分もある。もちろん本作は「ちょっとは宮本みたいに生きてみたらどうだ」と挑発しているのだ。

魂のやりとり

宮本浩を演じた池松壮亮はまさに宮本に成りきっていたとしか言いようがない。汗と涙と唾と血を飛ばしつつ絶叫する姿は凄まじい熱量だった。また、相手役となる中野靖子を演じた蒼井優も、池松の絶叫に劣らぬ絶叫で返していくのもすごいところ。魂のやりとりとも言うべき感情のぶつかり合いは、ふたりの役者としての域を更新していくような熱演だったと思う。

『長いお別れ』のときには、結婚して仕事をセーブしたりしないのかなどと勝手に心配していたりもした蒼井優だが、本作を観る限りまったくそんなつもりはなさそう。池松との際どい絡みも大胆にこなしているし、残酷なレイプシーンまで演じていて、感服するほかない。

拓馬を演じた一ノ瀬ワタルは元格闘家とのこと。世間ではラグビーのワールドカップが盛り上がったりしているなかで、ラガーマンを悪役にしてみせたのは狙っていたわけではないとは思うが、ラガーマンの身体がほとんど凶器であることを感じさせるには十分だった。それから拓馬の父親役としてピエール瀧も顔を出していて、まるで反社のようなコワモテを堂に入った感じで演じている。

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