『最初の晩餐』 シュンはある朝突然に

日本映画

監督・脚本・編集は常盤司郎CM、ミュージックビデオの監督などでも活躍している人で、本作は長編デビュー作とのこと。

物語

亡くなった父親・日登志(永瀬正敏)の通夜の席で、トラブルが生じる。「通夜ぶるまい」のために頼んでおいた仕出し弁当がいつの間にかにキャンセルされていたのだ。

唐突な出来事に混乱したのは、その場を仕切っていた姉・美也子(戸田恵梨香)と弟・麟太郎(染谷将太)だが、母親・アキコ(斉藤由貴)は平気な顔で「通夜ぶるまい」は自分で作ると言い出す。しばらくして提供された最初の料理は、場違いな目玉焼きだったのだが……。

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目玉焼きwithチーズ

本作のタイトルはこの目玉焼きのことを指している。東家において亡くなった父親が初めて作ってくれた料理というのが目玉焼きだったのだ。しかもハムの代わりにスライスチーズが一緒に焼かれた変わり種の目玉焼きだ。

本作はこの目玉焼きを筆頭に、様々な料理が提供されるのだが、そのひとつひとつが家族にとっての大事な想い出と結びついていく。それによって遺された者たちは、日登志の在りし日の姿を想い出し、改めて家族というものを考え直すことになる。

料理が題材となっているのは、家庭のなかで食卓という場所が、常に家族全員が勢揃いするところだからだろう。本作で登場する料理(味噌汁やピザやすき焼きなど)は、東家にとっては特別な意味を持つものだが、ごくありふれた料理でもある。

これは家族そのものにも言えることなのかもしれない。それぞれの家族はどこの家族とも似ていないオリジナルな要素を持っている。東家のチーズ目玉焼きのように、ちょっとほかの家では見られない変な習慣があったりもするのかもしれない。ただ一方で、家族はどこの家庭でも似通ったものでもある。恐らく日本のほとんどの家庭でご飯と味噌汁が食卓に並ぶように、家族にはどこか普遍的な部分もあるような気がする。

観客は東家という特殊事例を振り返りながらも、自分の家族というものを振り返ることになるだろう。ここは似ているけれど、あの部分はまったく違うなどと思いながら……。

(C)2019「最初の晩餐」製作委員会

家族のあり方

本作の東家がちょっと特殊だったのは、東家がステップファミリーだったことだろうか。ステップファミリーとは、連れ子再婚をした家族のことだ。もちろんそんな家族は決して珍しくはないはずだが、東家が居を構える九州の田舎では目立つことも確かなのだろう(この件で親戚と麟太郎がけんかになったりもする)。

東家では亡くなった日登志の連れ子として麟太郎(牧純矢外川燎)と美也子(森七菜)がいて、アキコの連れ子としてシュン(楽駆)がいる。5人は別の家族だったわけだが、ある日から一緒に暮らすことになり、その初めての食卓で提供されたのが例の目玉焼きだったというわけだ(アキコは盲腸で入院してしまったため)。

通常「最後の晩餐」という言い方はあるが、「最初の晩餐」は聞かない。というのも「最初の晩餐」は記憶の残らぬ子供にうちに済ましてしまうからだろう。ただ、東家は新設された家族であり、その新生家族の「最初の晩餐」は特別に意義深いものだったのだ(目玉焼きと一緒に山盛りにされている料理は何だったのだろうか)。

ただ、親同士が結婚するからといって、突然知らない人と家族になれと言われても困惑するのは子供たちだろう。それぞれの家族には習慣や文化の違いもある。

最初に東家で問題となるのは、味噌汁のことだ。父方は九州ということもあって白味噌を使うのだが、母方は関東出身だから赤味噌だ。アキコが作る赤味噌の味噌汁が気に入らないと言い出すのは美也子で、それに対してアキコを庇うのはシュン。ここで子供たちの間に対立が生まれてしまうのだが、それを解決したのは合わせ味噌という折衷案だったりもする。

こうした「通夜ぶるまい」のメニューを決めたのは亡くなった日登志だ。日登志はそれぞれの料理に家族の物語を読み込んでこのメニューを選んでいたのだ。アキコによると、それが日登志の遺言だという。

(C)2019「最初の晩餐」製作委員会

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不在のシュン

通夜の席上にはアキコの連れ子であるシュンは顔を見せていない。このシュンの不在は、麟太郎や美也子の今にも影響を与えているようにも見える。というのもシュンはある時、何も語らずに家を出て行ってしまったからだ。ある日突然家族になり、ある日突然別れることになる。そんな脆くて不確かなものが家族だとすれば、それに疑問を抱いてもおかしくはない。

だからか美也子は旦那とうまくいっていないし、麟太郎は家族のあり方に疑問を抱いたままで彼女との関係にも躊躇する部分を感じているようだ。特に麟太郎はシュンに懐いてもいたために、余計にショックが大きかったのかもしれない。麟太郎はフリーのカメラマンをしているのだが、被写体への愛情が感じられないという批判を受けたりもしている。家族に対する信頼すらないのであれば、他人に対しても愛情を向けることも難しいのだ。

信頼の回復は?

シュンが出ていったのは、シュンの本当の父親が死んだことと関わっている。最後になってようやくシュンが登場するのだが、成長したシュンを演じるのは窪塚洋介だ。そして食卓には再び5人が揃う。亡くなった父親の代わりに、シュンの子供が加わっている。

ここでもシュン出奔の理由が語られることはないのだが、シュンの自信に満ちた存在感は不足していた何かを埋めるには十分だったように思えた。今後、麟太郎も家族に対する信頼を取り戻し、少しは人に優しくなれるんじゃないだろうか。

ちなみにその理由を勝手に推測してみると、本当の父親の家を継ぐことになったのではないだろうか。シュンは日登志からは登山という仕事を受け継ぎ、本当の父親からはその家を受け継ぎ、さらにそれを息子に引き継ごうとしている。そんなところがシュンの確固たる自信につながっているように感じられた。

それから余計なことかもしれないけれど、母親アキコを演じた斉藤由貴の存在はノイズになっていたようにも思えた。アキコは過去の出来事で後ろめたい何かを抱えていることもあるのかもしれないのだが、斉藤由貴本人のイメージもあって、心ここにあらずという状態にも見え、良くも悪くも異物感があった。

本作の監督・常盤司郎はこれが長編デビュー作とのことだが、何と言うか堅実で老成している。

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