監督は『シン・シティ』、『アリータ:バトル・エンジェル』などのロバート・ロドリゲス。
主演は『ゴーン・ガール』などのベン・アフレック。
原題は「Hypnotic」。
物語
公園で一瞬目を離した隙に娘が行方不明になってしまった刑事ロークは、そのことで強迫観念にかられ、カウンセリングを受けるようになるが、正気を保つために現場の職務に復帰する。そんなある時、銀行強盗を予告するタレコミがあり、現場に向かったロークは、そこに現れた男が娘の行方の鍵を握っていると確信する。しかし男はいとも簡単に周囲の人びとを操ることができ、ロークは男を捕まえることができない。打つ手がないロークは、占いや催眠術を熟知し、世界の秘密を知る占い師のダイアナに協力を求める。ダイアナによれば、ロークの追う男は相手の相手の脳をハッキングしていると言う。彼女の話す“絶対に捕まらない男”の秘密に混乱するロークだったが……。
(『映画.com』より抜粋)
催眠術師最強説?
邦題はまったく別物になっているけれど原題は「Hypnotic」で、「催眠術」ということだ。本作では銀行強盗をする謎の男(ウィリアム・フィクナー)が登場するのだが、彼がやっていることが催眠術ということなのだろう。
謎の男はある女性に「今日は暑いね」と話かけると、女は急に暑さを感じ出したらしく、道を歩きながら服を脱ぎ出し、それが原因で交通事故が発生し、銀行の前は大混乱に陥ることになってしまう。男はそれに乗じて銀行強盗をすることになるのだが、その際も簡単なキーワードだけで他人を操ってしまうことになる。そんな術が使えたとしたらまさに“最強”ということになると思うのだが、本作はそんな催眠術が登場する話となっている。
謎の男は一体何者なのか。謎の男は銀行強盗として登場するわけだが、彼が狙っていた貸金庫を刑事のローク(ベン・アフレック)が開けると、そこには誘拐されたロークの娘の写真が入っている。そして、「レブ・デルレーンを探せ」というメッセージがある。ロークはビルの屋上まで彼を追い詰めるのだが、次の瞬間に謎の男はビルから飛び降り、いつの間にか消えてしまう。
とにかく謎の男の催眠術は凄い力を持っている。彼が暗示をかけると、それを解くことはできず、死ぬまで命令に従うことになる。ロークの相棒のニックス(J・D・パルド)は、謎の男に暗示をかけられると、相棒ロークに銃を向けることになる。命の危機を感じたロークがニックスに手錠をかけて鉄格子に拘束することになるのだが、ニックスは手錠を嵌められた手が千切れるほどの力でロークに向ってくることになる。そんなとんでもない力が催眠術にはあるということになる。
某作品のスピリット
監督のロバート・ロドリゲスは、『ドミノ』をヒッチコックの『めまい』の影響からできた作品だと語っているようだが、映画ライターの高橋ヨシキは本作を「洗脳とマインドコントロールにまつわる物語であり、その意味で『影なき狙撃者』(1962年)のスピリットを継承する作品」として紹介している。
私自身は『影なき狙撃者』をリメイクした『クライシス・オブ・アメリカ』しか観ていないのだが、この作品も催眠術あるいはマインドコントロールが重要な役割を担っている。とはいえ『クライシス』では催眠術をかけるのに、かなりの時間とコストを要することになっている。ところが本作の謎の男は一言暗示をかけるだけで他人を操ってしまうことになっているのだ。
ごく普通に考えれば、こんな説はかなりあやしい陰謀論として本気にされないトンデモ説ということになるだろう。しかしながら本作はそんな催眠術が大いなる力を持っている世界の話となっているのだ。
※ 以下、ネタバレあり! 結末についても触れているので要注意!!
あり得ない現実の姿
謎の男の前では現実はあり得ない姿を見せることになる。ロークが謎の男から逃げ回っていると、まるで天と地がひっくり返ったかのような世界が出現する。これはまるで『インセプション』における夢の世界ということになる。ロークが見ている世界は実は現実ではなかったのだ。
謎の男に暗示をかけられると自分の手が千切れるほどのことをしてしまったり、世界がぐにゃりと曲がってしまったかのように見えてしまうのは、一種の催眠術ということになる。ただ、それは謎の男だけの力でそうなっているわけではない。
『マトリックス』においては人間はポッドに入れられて夢を見させられていたことになっていたけれど、本作も似たようなもので、催眠術師の養成機関であるディビジョンがロークに虚構の世界を見せていたことが明らかになるのだ。
本作冒頭のカウンセリングの場面から始まり、銀行強盗のシーンがあり、ロークはその後にメキシコへと逃亡することになるわけだが、それらはすべてはディビジョンが用意したセットのような場所で行われていた出来事であり、ロークはそれを催眠術によって現実と思わされていたということになる。
種明かしがされると
どんでん返しというものにも様々ある。本当に「驚愕」させられるものもあれば、種明かしがされると何だか「ガッカリ」させられるようなものもある。『ドミノ』はやはり後者ということなるだろう。催眠術ってスゴいと煽っておきながら、実は裏方の努力で何とかそんなふうに見せてましたみたいにスケールダウンした感があるからだ。
しかしそう言いつつも、ディビジョンという組織の最終兵器たるドミノだけは違ったということになるから厄介だ。このドミノとは、実はドミニク(Dominique)のことで、ドミニクとはロークの娘のミニーだったというのがラストで明らかにされることだ。
ディビジョンはドミノ=ミニーを兵器として利用しようとしていたため、かつてはディビジョンに所属していたロークは娘を助けるために、自分の記憶を消して娘を誘拐されたということにしていたというのが真相だ。
奥さんだと思っていた金髪女性は実は赤の他人で、一緒に逃げ回っていたブルネットの女性ダイアナ(アリシー・ブラガ)が本当の妻だったということや、自分の記憶を消して自分をも欺きつつというのは『トータル・リコール』(1990)そっくりだったと思う。
しかもなぜかロークがやったことは、伝説の男とされたレブ・デルレーンの逸話としてすでに前半で語られてもいる。一度記憶を消して、後から何らかのトリガーでそれを蘇らせるという話だ。だからロークが娘を助けるためにそんな方法を取ったという打ち明け話をした時、デ・ジャブみたいにも感じられたのだが、一度前振りをしておいて、観客にもそれをわかりやすくしてくれたということなんだろうか。
色々とツッコミどころも多い作品ではあるけれど、謎の男の存在はとても魅力的だった。ウィリアム・フィクナーの得体の知れない感じが、木偶の坊のようなベン・アフレックの役柄と対照的だから余計にそんな感じがするのだろう。
よくわからなかったのは「レブ・デルレーンを探せ」というメッセージ。あれを盗もうとしていたのは謎の男ということになっているわけだけれど、公式サイトには謎の男=デルレーンとも記載されている。謎の男としてもそんなメッセージを受け取ってもどうしようもないだろう。とはいえ、本作はいわば「何でもあり」だから、その写真をロークが受け取ることは予想されていたということになるのかもしれないけれど……。
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