『サラブレッド』 怖いのは人間的な感情?

外国映画

監督・脚本のコリー・フィンリーは、ニューヨークで演出家・劇作家として活躍している人とのこと。本作は監督デビュー作。
主演は『レディ・プレイヤー1』のオリヴィア・クックと、『ウィッチ』『スプリット』などのアニャ・テイラー=ジョイ
タイトルの「サラブレッド(Thoroughbred)」とは通常は競走馬の品種を指すが、「徹底的に(Thorough)品種改良されたもの(Bred)」という意味らしい。

物語

アマンダ(オリヴィア・クック)は、疎遠だった幼なじみリリー(アニャ・テイラー=ジョイ)と久しぶりに再会する。ある出来事のせいで周囲から浮いた存在となっているアマンダは、リリーに勉強を教わることになったのだ。アマンダは再会してすぐに、リリーが継父マークのことを嫌っていることを見抜き、「なぜ殺さないのか」と訊ねるだった。

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感情がないアマンダと感情的なリリー

タイトルの「徹底的に(Thorough)品種改良されたもの(Bred)」は、どちらも富裕層であるふたりの少女たちのことを指すのだろう。容姿端麗で経済的にも恵まれているのは確かだが、精神的には病んでいるようにも見える。
「感情というものがない」と言い切るアマンダの存在はちょっと不気味で、何も感じないから「善人でいることに努力がいる」と語る。アマンダが周囲から白い目で見られているのは、飼っていた馬をナイフで殺したことがあるからだ。アマンダは動物虐待で裁判を受けることが決まっていて、周囲からは危険人物と見られているのだ。
一方のリリーはいかにもお嬢様然とした優等生なのだが、父を亡くして以来問題を抱えている。それがアマンダが指摘した継父マークの存在で、抑圧的なマークのことをリリーは心底嫌っているのだ。最初にアマンダからマーク殺害を促されたときは、リリーはそれをはねつけるのだが、次第にその考えに魅了されるようになっていく。
アマンダは動物虐待の件もあり、マークを殺害すればすぐに疑われる。だから代役を立てることにし、子供たちに麻薬を売っているティム(アントン・イェルチン)を事件に巻き込む。ティムの弱味を握り、脅してマークを殺害させようとするのだが……。

※ 以下、ネタバレもあり!

(C)2017 Thoroughbred 2017, LLC. All Rights Reserved.

怖いのは人間的な感情?

結末は意外にあっさりとしていてちょっと唖然としたのだが、不思議な感覚を持った作品とは言えるかもしれない。不穏さを醸し出す音楽と、サイコスリラー風な物語を描きつつ、無感情なアマンダが引き出すズレが笑いを生むのだが、理解不能なふたりの少女の関係性が疑問符を抱かせたまま終わってしまった感じだった。上映時間も92分と短くてあっさりしている。
アマンダはなぜかスティーブ・ジョブズに関するエピソードを連発するのだが、自分では常識に囚われることのないニュー・タイプのような感覚でいるのかもしれない。だから邪魔な人がいれば殺せばいいし、殺したって捕まるかどうかはわからないと考える。
最初にリリーを煽ったのはアマンダだが、その後はリリーが殺害計画に乗り気になっていくのがおもしろいところ。最後はリリーがマークを殺害し、その罪をアマンダが被ることになるのだが、そうした結末を導くためにリリーがアマンダに投げかける言葉がちょっと怖い。「感情がないなら、生きていたって意味はないんじゃない?」とリリーはつぶやくのだ。
それに同意したかのようにアマンダは身代わりとなるわけだが、怖いのは無感情でサイコパスのようなアマンダではなくて、感情的なリリーのほうだったというオチ。自分で罪を押し付けておいて、そのあとに泣きながらアマンダにすがってみたりするというのもあまりにも感情的で人間らしい姿だった。

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そもそもアマンダは無感情なの?

本作は、少女ふたりが人を人とも思わないような感覚で殺す点で『小さな悪の華』に似ている部分があるようにも感じられる。ふたりの少女が理解不能という点でも似ているのだが、『小さな悪の華』はアンヌという少女がもう一方のロールを支配しているように見える部分がある。ただ、その支配している側のアンヌも、一度だけ小鳥を殺した自分の行為を後悔する場面も描かれていた。理解不能とも思えるアンヌだが、ここでは人間的な感情を見せているのだ。

『サラブレッド』のアマンダも感情がないと言いつつも、本当にそうなのかと疑わせる部分もある。アマンダがリリーに「ちょっと匂う」と言われた時には、次のシーンでアマンダは風呂に入っていたりもするからだ。そもそも問題行動の発端である馬の殺害に関しても、足が折れた馬を救うための安楽死だったとも言える。ただ、銃がなかったために、アマンダがやったことが解体のような異常行動に見えてしまったようだが。

もしかすると感情がないというのは、アマンダが自分でそう思っているだけなのかもしれない。とはいえ、庭に仁王立ちになってどこかを見つめているシーンは異様だったし、本当に無感情だという可能性もあり、人生は無意味だから刑務所でも快適だということもあるのかもしれないのだが……。終わったあとにいろいろと勘繰りたくなる作品ではある。
とりあえずは『ウィッチ』でデビューして以来、その独特な容貌でも印象に残るアニャ・テイラー=ジョイと、『レディ・プレイヤー1』のオリヴィア・クックのショートパンツ姿は眼福だし、あやしげな雰囲気は悪くはない。それからふたりの異常な少女に翻弄される、ごく普通の小人物代表たる愛らしいティムを演じたアントン・イェルチンは本作が遺作となったとのこと。

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