『フューチャー・ウォーズ』 映画で遊ぼう

外国映画

監督・脚本はフランソワ・デスクラック

主演はフローラン・ドリン

原題は「Le visiteur du futur」で、「未来からの訪問者」といった意味。

物語

2555年――地球は終末の危機に瀕していた。人類を救うため、一人のタイムトラベラーが立ち上がる。彼に課せられた使命は2022年に戻り、世界を変えた“ある事件”を阻止し、歴史を変えること。しかし、歴史の改変を阻止すべく、時間警察の追手が迫っていた…。果たして、男は未来を変えることは出来るのか。

(公式サイトより抜粋)

間抜けなタイムトラベラー

タイムトラベルもの”というだけの情報で、何となく観に行った作品。鑑賞後に調べてみると、もともとは監督のフランソワ・デスクラックと仲間たちが自主制作し、webで勝手に公開していた動画シリーズだったのだとか。フランスではそれが人気を博すようになり、最終的には10年以上経って本作に結実したということらしい。

さすがにB級感は否めないものの、やっている本人たちが楽しんでいる感じが伝わってくる作品になっていて、そのあたりは好印象だった。物語的には世界の危機が描かれているわけで緊迫した瞬間だってあるのだが、全般的にゆるい感じの笑いに満ちたコメディになっている。

つかみが秀逸だった。世界の危機が迫る中、“キツネ”と呼ばれるタイムトラベラーの男(フローラン・ドリン)が登場する。2555年の未来から現代へとやってきたキツネは、カッコよく世界の危機を救うのかと思えば、どうにもモタモタしていてちょっと間が抜けている。

世界の危機をもたらすことになったのは原発事故だ。それを止めるという大事な局面は、青か黄色のボタンのどちらを選ぶかにかかっている。ところがほとんどホームレスにしか見えない薄汚いキツネの様子は、原発の技術者たちから信用されず、どちらのボタンを押すかでもめることに……。結局は、未来の改変を阻止しようとする時空警察によってキツネは邪魔されてしまい、原発事故は起きてしまうことになる。

時空警察というキャラもおもしろい。未来の改変を阻止するのが仕事とはいえ、やっていることは世界の破滅を呼び込むことになってしまっている。キツネが世界を危機から救おうとしているのに対して、時空警察は世界が危機に陥るのを手助けするという悪役みたいな役割なのだ。本作はタイムトラベラーと時空警察たちの闘いとなるわけだが、それはほとんどコントみたいなものになっているのだ。

© 2022 Pyramide Productions – Allons Voir SPRL – France 2 Cinema

スポンサーリンク

 

映画の世界で遊んでいる

最初に未来の世界からやってきたキツネの登場シーンは、何となく『ターミネーター』のシュワルツェネッガーのポーズを真似ているように見えなくもない。過去に戻って未来を変えるという筋は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』以来の王道と言えるし、荒廃した未来の世界は『マッドマックス2』の世紀末世界をモチーフにしているっぽい。

ゴーグル姿のキツネのビジュアルが世紀末SFっぽくてとてもよかったのだが、キツネがいつもゴーグルをしているのは、『マッドマックス2』のジャイロ・キャプテンが元ネタだろうか。その『マッドマックス2』からの影響も大きい日本のマンガ『北斗の拳』では、バットという少年はほとんど必要なさそうなゴーグルをいつもしていた。

『フューチャー・ウォーズ』においても、キツネが結局役に立つこともないゴーグルを頭に乗っけているというのも、製作陣が自分たちが好きな映画のアイテムを本作に詰め込みたかったということなのだろう。

あまり重要でもないキャラとしてゾンビが登場したり、時空警察が黒ずくめのスタイルだったりするのも、同じようにそれが好きだからということなのだ。監督・脚本のフランソワ・デスクラックは、友人であり主演役者でもあるフローラン・ドリンたちと映画の世界の中で遊んでいる感覚なのだろう。

エンドロールはNG集みたいなことになっているし、ラストにちょっとだけ顔を出すのは若かりし頃のフローラン・ドリンだったようだ。この動画はyou tubeなんかで検索すると今でも見ることができる。先ほどは「B級感は否めない」などと言ったけれど、最初の動画からすれば本作は各段に金がかかっているわけで、やっている本人たちも大喜びといったところかもしれない。

© 2022 Pyramide Productions – Allons Voir SPRL – France 2 Cinema

未来を変えるために

冒頭で世界の危機を救えなかったキツネは、別の作戦に移ることになる。それが原発の建設そのものを中止に追い込む作戦だ。原発建設の仕事を受注したのは中国の企業で、それがとんでもない事故を引き起こすことになる。この仕事を発注したのがジルベルト(アルノー・デュクレ)という男で、その娘のアリス(エンヤ・バルー)も物語に関わってくる。

邦題もわざわざダサい感じを狙っているようでもあるし、本作自体も垢抜けない感じがするのは、この父と娘がごく普通の人に見えるからかもしれない。この二人はほとんど主役といってもいいのだが、あまり華がないのだ(アリスの未来の姿はちょっと垢抜けていたけれど)。

それでも本作がラストで感動的だったのは、この父と娘のおかげということになる。未来を改変する方法としては色々ある。『ターミネーター』では、ジョン・コナーという男を殺害する代わりに、息子を産む前のサラ・コナーという母親を殺害してしまおうという話だった。それに対して本作は内面から攻めることになる。

ジルベルトは自分がしたことが招いた結果を目撃する。2555年の未来は原発事故が引き起こした不気味な雲が世界を巡っていて、それに巻き込まれると人間はたちまち死んでしまうのだ。そんな様子を見ても、ジルベルトは「40歳を過ぎたら人間は簡単には変われない」などと文句を言っていたわけだが、そんなジルベルトを根本から変えるようなミラクルをアリスは起こすことになる。

歴史的な出来事を変えるのではなく、内面を変えるというアイディアがいい。やや中だるみもあったけれど、最後で一気に盛り返す感じで、不覚にも感動してしまった。決して出来がいいとは言えないけれど、笑える部分も多かったし、後味としては悪くない映画になっていると思う。

コメント

タイトルとURLをコピーしました