『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』 自虐ネタ?

外国映画

2018年の『ピーターラビット』の続編。

監督・脚本は前作と同じウィル・グラック

原題は「Peter Rabbit 2: The Runaway」。

物語

湖水地方で優しい画家のビアと暮らす“モフカワ”ウサギのピーター。3年前に隣に引っ越してきた動物嫌いのマグレガーは、ピーターのお父さんをパイにして食べた因縁の一族のひとり。ビアをめぐるピーターとマグレガーの全面抗争も終息し、大好きなビアと大嫌いなマグレガーが遂に結婚。皆で仲良く暮らすはずが父親気取りのマグレガーにピーターは「イタズラするな!」「大人しくしてろ!」と叱られる毎日。そんな生活にもうウンザリのピーターは

絵本とは別物?

誰もが知っているウサギのキャラクター“ピーターラビット”の初の実写映画としてヒットした『ピーターラビット』。前作のレビューの時は、原作を「ビアトリクス・ポターの人気絵本」と記していたのだが、正確には間違いで、絵本は原案だったようだ。

前作は人畜無害なピーターラビットの姿を予想しているとちょっとビックリするほどピーターはいたずらっ子で、宿敵であるトーマス・マクレガー(ドーナル・グリーソン)との闘いはほとんど戦争映画のようだった。実際に監督のウィル・グラックはトーマスとピーターの闘いのシーンに関して『プライベート・ライアン』を参照して作り上げていたのだとか。

今回の『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』を観る前に、原案となっている絵本を1冊だけ(第1作目の『ピーターラビットのおはなし』)読んでみたのだが、その中のピーターはマクレガーおじさんに捕まりそうになって怖くなって泣き出したりしている。映画版のピーターがちょっとずる賢い笑みを浮かべたりするのとは違っていて、原案である絵本と映画版は別物ということなのかもしれない。

その意味では前作は、原案の絵本に慣れ親しんでいる人にはちょっと刺激が強すぎるのかもしれないし、イメージをぶち壊す映画だったのかもしれないけれど、絵本のことを知らなかった者としてはとても楽しめる作品だったと言える。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

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続編は強盗映画

前作が「戦争編」だったとすれば、続きとなる本作は『オーシャンズ11』みたいな「強盗編」といったところ。

敵だったトーマスはビア(ローズ・バーン)と結婚し、ピーターはトーマスと家族となる。そんな父親代わりのトーマスとの関係がやはり問題となる。ピーターも少しは成長し、ビアとの結婚式をメチャクチャにする大暴れをやらかすのは妄想の中だけに留めるのだが、それでもいたずらっ子のピーターは信用に欠けるらしく、トーマスからは理解されないのだ。そんなことが重なってピーターはグレてしまうことに……。

都会で出会った父親のかつての親友でもあるバーナバスの誘惑に乗り、ワルの道に足を踏み入れることになるのだ。バーナバスの口車に乗って田舎から仲間の動物たちを誘い、市場のドライフルーツという宝の山を強奪することになるわけだが、それによってピーターは仲間たちを窮地に陥らせることになってしまう。

本作はまだ幼さが残るピーターが若気の至りで起こした間違いから大切なことに気づくという教訓話となっているのだが、それはピーターだけではなく飼い主であるビアも同様だ。ビアは本作の中でピーターたちのことを絵本にして成功を収めるのだが、続編の計画が進行する中で、ビアもまた出版社のナイジェル(デヴィッド・オイェロウォ)の誘惑に乗りそうになるからだ。

牧歌的な絵本で成功したにも関わらず、ナイジェルは「もっと絵本をヒットさせるには」という甘言を弄して、ビアが作り上げた世界を壊そうとする。それによってピーターたちは宇宙服を着て宇宙に飛び出すまで至るのだが、そんな計画が実現していたとしたらビアの絵本の世界は台無しになっていただろう。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

原作者のビアトリクスは

原作者のビアトリクス・ポターという人は、子どもたちに絵手紙を送っていて、それが絵本の原型となったようだ。そして、絵本で得た収入で多くの土地を購入したのだが、それは湖水地方の自然をそのままの状態で残すためだったようだ。

ビアトリクスは都会が拡大していき湖水地方のような自然が切り崩されていくのを見て、それでは動物たちが安心して暮らしていける環境が失われてしまうと危惧したらしい。亡くなった際には湖水地方の広大な土地と農場が環境保護などを目的としたナショナル・トラストという団体に寄贈されたのだとか(このあたりは図書館で見つけた『ピーターラビットのふるさとをまもりたい ビアトリクス・ポターものがたり』という絵本で読んだ)。

実際のビアトリクス・ポターはそんな人だから、映画にあるようなナイジェルの誘惑に乗るような人ではないのだろうと思う(映画版でも途中でその失敗に気づくことになるわけだが)。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

自虐ネタ?

ナイジェルがビアの世界をぶち壊して金儲けを企んでいたように、ハリウッド映画などでは原作をぶち壊して商業主義に走るということがよくあることなのだろう。本作はそれを皮肉ってはいるわけだが、一方で本作のラストはナイジェルがエンターテインメントに必要だと言っていたことをそのままなぞっている。ピーターたちが飛行機からスカイダイビングして云々などという絵空事を一度は否定しておきながら、実際にそのすべてを本作でやってしまうというのはちょっと自虐的とも言える。ピーターたちを商業的に利用しているのはまさに自分たちだという意識があるのだろうか?

ただ、ピーターが自分の失敗を帳消しにするかのように007ばりに活躍するラストを、拍手喝采でもって楽しんでしまった観客としては、もはや監督ウィル・グラックと共犯みたいなものなのだろう。絵本のピーターラビットと、映画のピーターラビットは別物として楽しむのがいいのかもしれない。映画版のピーターは何かとトラブルメーカーだし、もっともらしい反省も話半分といった感じでもあるわけだけれど、それでもどこか憎めないかわいらしさがあって、また続編での活躍を期待してしまうのだ。

ジェリービーンズの食べ過ぎでラリってしまうカトンテールや、自分たちの存在意義に関して喚き立てる鶏の親子など、小ネタが満載なのも嬉しいところ。お笑い担当みたいな役割のトーマス役のドーナル・グリーソンのドタバタぶりも見どころ。

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