『RUN/ラン』 わかっていてもおもしろい?

外国映画

『search サーチ』アニーシュ・チャガンティ監督の最新作。

物語

郊外の一軒家で暮らすクロエは、生まれつき慢性の病気を患い、車椅子生活を余儀なくされている。しかし常に前向きで好奇心旺盛な彼女は、地元の大学進学を望み自立しようとしていた。そんなある日、クロエは自分の体調や食事を管理し、進学の夢も後押ししてくれている母親ダイアンに不信感を抱き始める。ダイアンが新しい薬と称して差し出す緑のカプセル。クロエの懸命の調査により、それは決して人間が服用してはならない薬だった。なぜ最愛の娘に嘘をつき、危険な薬を飲ませるのか。そこには恐ろしい真実が隠されていた。ついにクロエは母親から逃れようと脱出を試みるが……。

(公式サイトより引用)

障害を持つ主人公

本作の主人公クロエを演じたキーラ・アレンは、実際に中途障害者であり、車椅子を使用しているのだそうだ。障害を持つ人が映画の中で障害者を演じるケースはそれほど多くはないが、まったくないわけではない。続篇も公開されている『クワイエット・プレイス』では耳の聞こえない長女が登場したりもしていたし、かつては『愛は静けさの中に』で聾啞者を演じたマーリー・マトリンは、映画初出演にも関わらずアカデミー賞の主演女優賞まで獲得した(マーリー・マトリンはその後、絵本を書いたりもしているのだとか)。

本作はモンスターと化した母親ダイアン(サラ・ポールソン)からクロエが逃げる映画であり、キーラ・アレンは劇中では果敢なスタントにも挑戦して奮闘を見せている。部屋に監禁された際には、隣の部屋へ屋根を伝って移動することになるのだが、不自由な足を引きずりながら演技はさぞかし大変な撮影だったんじゃないかと思われる。健常者が障害のあるフリをするほうが撮影は簡単なのかもしれないけれど、障害者が実際にそれを演じたほうが説得力が増すことは当然だろう。

(C)2020 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

過保護な母親?

これまた実際に障害を持つ人が主人公を演じている『37セカンズ』でも、脳性麻痺で車椅子を使っている主人公は、母親からあまりに過保護に扱われ、かえって不自由を感じていた。それと同様に、『RUN/ラン』のクロエも完全に母親ダイアンとベッタリの生活を強いられている。それでも大学に合格し、家を離れることになれば、もっと自由な生活が待っているはずだったのだが……。

クロエは不整脈に糖尿病に喘息など様々な病を抱えている。そんな娘のクロエをダイアンは献身的に支えている。そんなふうに最初は見えるわけだが、それに疑問が生じる。クロエがダイアンから与えられる薬が実際には、犬用に使われる薬であることが判明するからだ。

※ 以下、ネタバレもあり!

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クラシカルな作品

本作の予告編や上記の公式サイトにあるストーリーも、映画の中身をバラしすぎているようにも感じられる。母親がモンスターであることはすでに示されているし、残された謎はほとんどないからだ。

アニーシュ・チャガンティ監督の前作『search サーチ』は、全編がパソコンの画面上で展開していくという挑戦的で今風な作りになっていたし、物語の展開は何度もヒネリが加えられていた。一方で『RUN/ラン』はもっと正攻法でクラシカルな作品を目指しているのだろう。

ヒッチコックの『鳥』が人が鳥に襲われる映画だと知ってて観たとしてもおもしろさが減じることがないように、本作もモンスターである母親から逃げる話であることがわかっていても、サスペンスとして見(魅)せられるという自信があるからなのだろう。

クロエが抱えている病は、母親ダイアンから逃げるのに際し、様々な障害となる。車椅子でしか移動できないということは、階段なども断崖絶壁の役割を果たすことになるし、喘息の症状はちょっとした運動でも命取りになることになる。クロエの持つ障害がサスペンスを盛り上げるという意味で『暗くなるまで待って』とか『裏窓』などの古い映画をお手本にしているのだろう。

逃げる。捕まる。逃げる。捕まる。それだけで90分を見せてしまうというのは確かにすごいことなのかもしれない。ただ、母親がそのモンスターぶりを明らかにしてしまってからは、あまりに予想通りな展開でかえって驚いた。ダイアン役のサラ・ポールソンの怖い顔はそれなりに楽しめたのだが、ハラハラさせるところはあったとしてもちょっと不満は残ったというのが正直なところだろうか。

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代理ミュウハウゼン症候群?

ダイアンのモンスターぶりが明らかにされていくにつれ、どこかで観たような話のように感じられたのだが、それは最近Netflixで観た『ルイの9番目の人生』だった。『ルイ』では母親が子供のルイを虐待することが、そんな不幸なルイを持つかわいそうな母親として周囲から同情を集めるという形になっていた。これは病名としては「代理ミュウハウゼン症候群」というものだ。

『RUN/ラン』もそれに近いようにも感じられたのだが、よく考えるとちょっと違うのかもしれない。そもそも「ミュウハウゼン症候群」というものは、「周囲の関心や同情を引くために病気を装ったり、自らの体を傷付けたりする」ものであり、「代理ミュウハウゼン症候群」はその傷つける対象が自分の子供など、自らを代理する誰かになるらしい。だからこの病というものは外部の目を欲しているわけであり、ダイアンとクロエのように外部との接触がない場合は当てはまらないのかもしれない。

ダイアンはクロエを傷つけることで他人の同情を買いたいのではないからだ。ダイアンはクロエのすべてを管理している。クロエが食べるチョコレートまで計算して料理を考えているなどと言いつつも、実際はクロエを動けなくして自分の傍に置いておきたいというだけなのだから。

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