『モンタナの目撃者』 正しいことをしたのに

外国映画

監督・脚本は『ウインド・リバー』などのテイラー・シェリダン

原作はマイケル・コリータの小説『Those Who Wish Me Dead』。

物語

過去に壮絶な事件を“目撃”したことから大きなトラウマを抱える森林消防隊員のハンナは、ある日の勤務中、暗殺者による父の死を間近で“目撃”し暗殺者に追われる少年コナーに出会う。彼は父親が命をかけて守り抜いた“秘密”を握るたった一人の生存者だった。ハンナは自分と同じく、“目撃者”となり傷ついたコナーを暗殺者から守るため戦うと心に決める。秘密を求めコナーの命を執拗に狙う暗殺者たちが刻一刻と迫る中、目前に広がるモンタナの大自然で未曾有の山火事が立ちはだかる。2つの脅威に行く手を阻まれる極限状態で、ハンナはコナーを守り戦い抜くことはできるのか―

(公式サイトより引用)

山火事の恐怖

アメリカの山火事は信じがたいほどの規模になるようだ。つい先日もカリフォルニア州で過去最悪と言われる山火事があり、東京23区の面積以上が燃え、2万人以上に避難指示が出されることになった。西海岸は雨が少ないために、火が出ると途端に燃え広がるということなのだろう。だからアメリカでは森林消防隊というものがあるらしい。劇中でも描かれているが、広大な森林地帯を守るために、出火を発見したら航空機からパラシュートで直接火災現場に降下して消火活動にあたるのだ。

本作の主人公で森林消防隊員のハンナ(アンジェリーナ・ジョリー)は森の中で血の付いた服を着た少年コナー(フィン・リトル)を見つけ、彼を保護することになる。コナーは殺し屋に追われていたのだ。しかし、そんな追手と同時に山火事も発生したために、八方塞がりの状況へと追い込まれていくことになる。

テイラー・シェリダンの前作『ウインド・リバー』ではあまりの寒さで肺が凍ってしまうほどの自然の脅威が描かれていたが、本作では山火事の恐ろしさが描かれる。クライマックスの山火事は土石流みたいな勢いで迫ってくるからかなり怖い。それだけでも大変なのに、さらに殺し屋も相手にしなければならない。まさに「前門の後門の狼」という絶体絶命の危機なのだ。

(C)2021Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

追ってくる殺し屋たち

『モンタナの目撃者』で最初に殺されるのは地方検事だった。警察官とガス会社の社員に化けた殺し屋二人組(ニコラス・ホルトエイダン・ギレン)に爆弾を仕掛けられて家ごと木っ端みじんとなる。それをニュースで見たコナーの父親(ジェイク・ウェバー)は自分の身にも危険が迫っていることを知り、コナーを連れて逃亡することになる。コナーはそんな父親に素朴な疑問として「なぜ逃げるの?」と訊ねると、父親は「正しいことをしたんだ」と答えるのだが、その父親は殺し屋に殺されてしまう。正しいことをしたのに殺されてしまうのがこの世の中なのだ。

ちなみにテイラー・シェリダンが脚本を書いた『ボーダーライン』の主人公と言えるアレハンドロは、元検事という設定だった。しかし、家族を殺されたことをきっかけにアレハンドロは殺し屋になる。検事という仕事は被疑者を起訴するかどうかを決定することだ。つまりは正義の担い手のようなものなのだ。それでも無法者たちを前にして法に縛られていると結局何もできないことになってしまう。そのことがアレハンドロを殺し屋にしたというわけだ。そうなるとルール無用の殺し合いになるわけで、そこは無法地帯となる。

そんなふうにテイラー・シェリダンの作品はいつも無法地帯が描かれる。本作でも二人組の殺し屋はかなりやりたい放題だ。それというのもバックには大きな権力者がいるからだ。その権力者は表には顔を出さず、自分のやった悪事をなかったことにするために、検事を殺し、同じ仕事に関わっていた会計士のコナーの父親も殺す。そして、コナーはその殺しの目撃者として追われているのだ。

ただ、ちょっとテイラー・シェリダン作品として物足りないのは(今回は原作があるから仕方ない部分もあるのだろうが)、裏で操っている人の顔がまったく見えないところだろうか。これまでの作品も無法地帯で虐げられる弱者の目線から描かれているわけだが、その先にはやりたい放題の強者の側を糾弾しようという意識が感じられたのだが、本作では隠れた権力者は物語を駆動させるためのマクガフィンに過ぎないのだ。追う者と追われる者という関係を成立させるためのきっかけであり、だから背後に潜む権力者が何をしたのかということはどうでもいいといった扱いなのだ。

(C)2021Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

スポンサーリンク

ディザスタームービー?

とはいえ本作はディザスタームービーとして見るならば、それなりにハラハラさせて楽しませてくれる作品とは言える。

えげつない殺し屋と思われていたふたりだが、彼らも雇われの身で、コナーを匿っているとみなされた妊婦(メディナ・センゴア)の反撃にあったりすると、「こんな場所イヤだ」と嘆いてみたりもする。

この妊婦は実はサバイバル術の指導者で、絶体絶命の危機から反撃して殺し屋たちに泡を吹かせるのだ。殺し屋たちは顔の見えない権力者に指示されて仕事をしているわけだが、なぜか予算をケチって人員が削減されたために余計に騒動が大きくなってしまったらしい。そんなわけで殺し屋たちも嫌々ながらやっているわけで、本当にやりたい放題している無法者は最後まで出てくることがないのだ。

そして、主人公のハンナは意外と弱い。ただの消防士だから当然なのかもしれないのだが、アンジェリーナ・ジョリーだけに『トゥームレイダー』『ソルト』みたいに活躍するのかと思っていたのだけれど……。もともとハンナは森林消防隊の仕事で風を読み間違え、少年を殺してしまったというトラウマを抱えた女性なのだ(ハンナがやろうとしたことも正しいことだが、自然の脅威には敵わない)。だからちょっと自暴自棄なところがある。だからだろうか、本作では火に巻かれそうになり、雷に撃たれ、殺し屋にもボコボコにされる。最後は捨て身の罠で何とか殺し屋を仕留め、コナー少年を守ったわけでちょっとはトラウマの回復になったのだろうか。

そもそも原作のタイトルは「Those Who Wish Me Dead」というもので、日本語にすれば「私の死を願う人たち」といった意味。これは少年を狙っている暗殺者のことを指しているのだろう。だとすれば原作は少年の視点から描かれているのかもしれない。一応邦題も「モンタナの目撃者」であり、タイトルロールはコナー少年なのだ。最初はハンナは脇役だったのだが、アンジェリーナ・ジョリーが出演することで事情が変わったのだろうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました