『リボルバー・リリー』 生まれ変わって生きるのは?

日本映画

原作は長浦京の同名小説。

監督は『リバーズ・エッジ』『窮鼠はチーズの夢を見る』などの行定勲

主演は『海街diary』などの綾瀬はるか

物語

大正末期の1924年。関東大震災からの復興で鉄筋コンクリートのモダンな建物が増え、活気にあふれた東京。16歳からスパイ任務に従事し、東アジアを中心に3年間で57人の殺害に関与した経歴を持つ元敏腕スパイ・小曾根百合は、いまは東京の花街の銘酒屋で女将をしていた。しかしある時、消えた陸軍資金の鍵を握る少年・慎太と出会ったことで、百合は慎太とともに陸軍の精鋭部隊から追われる身となる。

『映画.com』より抜粋)

見どころはアクション?

綾瀬はるか演じる小曾根百合が、ドレスを纏いリボルバーで敵を打ち倒していくアクション映画。『リボルバー・リリー』を宣伝するとしたら、そんなふうになるのかもしれない。もちろんそんなアクションシーンもあるのだけれど、それに期待しているとちょっと肩透かしかもしれない。

多分、本作の見どころは様式美なのだろう。というのも、アクション映画として見るとすれば物足りないかもしれないし、かなり荒唐無稽に見える部分もあるからだ。百合は仲間の奈加(シシド・カフカ)や琴子(古川琴音)や弁護士の岩見(長谷川博己)と共に陸軍の精鋭部隊と戦ったりするわけだが、そんなヤバい場面でも相手を殺さずに急所を外して動きを止めるだけで窮地をあっさりと乗りきってしまう。

ちなみにプロデューサーは本作を製作するに当たって『緋牡丹博徒』シリーズなんかを念頭を置いていたらしい。『緋牡丹博徒』みたいな任侠もので印象的なのは、アクションよりも敵陣に乗り込む前の一種の型にはまった“道行き”シーンだったりするわけで、本作の狙いもアクションよりは様式美にあるということなのだ。

本作のラスト近くでは、百合は霧で敵の姿がまったく見えない中で戦うことになる。このシーンは本作の狙いが様式美にあることをよく示している。百合は見えない敵を相手に、霧の中で「舞」を踊っているように戦うのだ(「「舞」を踊っているように」というのは、インタビューでの綾瀬はるかの言葉)。

本作は日本映画にしたらかなり金がかかっている。大正時代の街並みを作り、大正ロマンの華やかなイメージを作り上げているからだろう。そして、百合が当時のいわゆる“モダンガール”の出で立ちで銃を構える姿がとてもになっている。アクションよりもそうした様式美を楽しむ映画になっているのだ。

(C)2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ

ある人物の変節

大正時代は西暦では1912年から1926年だ。その間に第一次世界大戦があり、さらに1923年には関東大震災があった。

震災からの復興で街はモダンになりつつある。しかし、第一次世界大戦が終わったのは1918年で、まだきな臭いものも残っている。次の戦争への火種は未だにくすぶっていて、陸軍と海軍との勢力争いも本作の背景にはある。

百合はかつてはスパイとして戦いの世界にいたけれど、今では別の生き方をしている。ところが、慎太(羽村仁成)という少年と出会ったことで再び戦いの世界へと巻き込まれていくことになる。

百合を巻き込むことになったのは幣原機関というスパイ養成組織との関わりだ。この組織の重要人物・水野(豊川悦司)は、かつてはスパイを使って何らかの暴力でもって世の中を動かそうとしていたということになる。

しかし、水野はある時点で暴力に訴えるやり方を変えることになったようだ。水野は金融の世界で暗躍し、当時の国家予算の10分の1という巨額の資金を銀行に預けたまま死んでしまう。それを引き出すためには彼の息子・慎太の存在が不可欠で、慎太を守ることになった百合は陸軍に狙われることになる。

(C)2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ

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なぜ白いドレスなのか?

『リボルバー・リリー』は、百合がドレス姿で戦うというのが見せ場となっている。これは水野からの教えでもあったらしいのだが、「殺人をする時でも身なりは美しく」という美意識によるものだ。

冒頭近くで百合が仕立て屋で白い生地でドレスを作ることが示される。そして、最後の戦いでは百合はそれを着て戦いに赴くことになる。なぜ戦いに白いドレスが必要だったのだろうか?

百合を追ってくる謎の男・南(清水尋也)がいる。南は実は幣原機関の後輩であり、南が百合を追ってきたのは単に百合と戦いたいがためだということが明らかになる。

百合はそんな南との戦いで、ナイフで一突きを入れられてしまう。すると白いドレスは真っ赤に染まるわけだが、その血の赤は傷口から丸く広がっていくことになり、百合は日の丸を胸に抱いて戦っているようにも見えるのだ。

本作では百合の姿には日本の姿が重ねられているのだ。わざわざ最後の戦いに白いドレスを用意したのは、そんな意図があるからだろう。

(C)2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ

生まれ変わって生きるのは?

百合は最後の戦いで何度も銃撃を受ける。その度にドレスは血に染まり、いつの間にか日の丸は姿を消し、百合は瀕死の状態にも見える。しかし百合はそこから復活することになる。

かつての百合はスパイとして何度も人の命を奪ってきたわけだが、暴力では何も解決しないことを悟る。百合は水野が暴力とは別の方法で国を変えようとしていたことを知り、それに賭けようとしたのかもしれない。

百合は単に彼女と戦いたいだけだった南を殺す時、「生きることにしたから」と語る。百合は水野との子供を亡くしたこともあり、生きる目的を失いかけていたわけだが、水野が暴力ではない方法で国を変えようとしていたことを知り、生まれ変わって生きることを選んだということなのだ。

弁護士・岩見の尽力もあり、百合は水野が残した巨額の金を海軍の山本五十六(阿部サダヲ)に託すことになる。それは山本が暴力による解決ではないやり方を考えていたからだろう。山本は百合に戦争の開始を遅らせ、次の戦争を回避する方法を探ることを約束するのだ。

史実からすればそれは叶わなかったということになるわけだけれど、日本が変わらなければならないと感じていた人たちがいたということでもある。本作の舞台は現代とはあまり関係なさそうな大正時代だけれど、新しい日本に変わらなければならないという点では今と共通する部分があるのかもしれない。本作は百合というキャラに日本を重ねることで、日本が生まれ変わらなければという危機感を示していたようにも感じられた。

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