『DOGMAN ドッグマン』 やっぱり脱線が好き

外国映画

監督・脚本は『レオン』などのリュック・ベッソン

主演は『ニトラム/NITRAM』などのケイレブ・ランドリー・ジョーンズ

物語

ある夜、警察に止められた一台のトラック。運転席には負傷し、女装をした男。荷台には十数匹の犬。“ドッグマン”と呼ばれるその男は、半生を語り始めた―。
犬小屋で育てられ暴力が全てだった少年時代。犬たちの愛に何度も助けられてきた男は、絶望的な人生を受け入れ生きていくため、犬たちと共に犯罪に手を染めてゆくが、“死刑執行人”と呼ばれるギャングに目を付けられ―

(公式サイトより抜粋)

女装した犯罪者

本作は実際の事件がモデルとなっているらしい。IMDbによれば、「5歳の少年が檻に入れられていた」というニュースだったらしい。それ以外の詳しい情報はないのだが、そこからリュック・ベッソンが想像力を膨らませてできたのが『DOGMAN ドッグマン』ということになる。

タイトルからすると2019年に日本で公開されたマッテオ・ガローネ監督のイタリア映画『ドッグマン』とまったく同じで、そのリメイクなのかとも思わせるし、さらに予告編を見ると、どうやらあのジョーカーを思わせる雰囲気がある。“ドッグマン”と呼ばれる男とは一体何者なのか?

冒頭、“ドッグマン”ことダグラス(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は逮捕されることになる。ダグラスはなぜかマリリン・モンローのような女装をしていて、傷を負い、トラックには十数匹の犬を連れていた。

逮捕されたダグラスはその風貌もあって常軌を逸しているように見え、精神科医の女性エヴリン(ジョージョー・T・ギッブス)が呼ばれることになる。ダグラスは彼女の質問に回答する形で、自分の半生を語り始めることになる。

©Photo: Shanna Besson – 2023 – LBP – EuropaCorp – TF1 Films Production – All Rights Reserved.

なぜドッグマンなのか?

ダグラスは父親によって犬の檻に閉じ込められて長い間暮らしていたらしい。その際にその檻に掲げられることになった言葉が「in the name of God(神の名に懸けて)」というものだった。この一家は敬虔なクリスチャンなのだ。

この言葉は、檻の中に入れられたダグラスから見ると、左右が逆転して見えることになる。そして柱か何かに一部が隠され、「in the name of God」の表記の赤い部分だけがたまたま檻の中のダグラスには見えることになり、それが「dog man」と読める。だから“ドッグマン”ということになる。

頭のおかしい父親によって檻の中で過ごすことになり、犬たちと一緒に育つことになったダグラス。それだけでも十二分に同情を禁じ得ないわけだが、彼はその檻から脱出するために、大きな犠牲を払うことになり車椅子生活を余儀なくされる。生きるためには稼がなくてはならないけれど、生活のために仕事をしたくても、車椅子生活で特段のスキルもない男を雇ってくれる職場はない。

そんな時にダグラスがやり始めたのが、犬を使った犯罪行為ということになる。ダグラスの犬たちは彼の言葉を完全に理解し、何でも彼の言うことを聞く。その能力を使って彼は大富豪の家から宝石などを犬たちに盗ませて生活の糧を得ていたのだ。

※ 以下、ネタバレもあり!

©Photo: Shanna Besson – 2023 – LBP – EuropaCorp – TF1 Films Production – All Rights Reserved.

なぜ“痛み”なのか?

ダグラスはこうした盗みについて、大富豪からちょっとだけ掠め取って再配分しているだけだと語ることになる。こんなところからも、リュック・ベッソンはやはり『ジョーカー』をやりたかったんじゃないかとは思えた。そのためにそれっぽく見せるための白塗りの化粧が必要になり、ドラァグクイーンとしてダグラスが週に一度だけ働くという設定になっているのだろう。

『ジョーカー』は主人公が体制に対する抗議や貧困層のアイコンとして祭り上げられることになっていくという映画であり、主人公の“痛み”が観客にも感染していくような作品となっていた。『DOGMAN ドッグマン』もそれを意識しているのか、ダグラスは物語の聞き役として登場する精神科医エヴリンに対しては“痛み”という言葉を口にしている。エヴリンが“痛み”を抱えている人だから、自分の半生を話したのだと語るのだ。

とはいえ本作がリュック・ベッソン版の『ジョーカー』になっていたかと言えばそんなこともなく、『ジョーカー』をやろうとして失敗してしまった作品だったように思えた。

©Photo: Shanna Besson – 2023 – LBP – EuropaCorp – TF1 Films Production – All Rights Reserved.

やっぱり脱線が好き

ダグラスがラストで逮捕されるに至る出来事と、ドラァグクイーンとしての仕事はまったく関係のないエピソードだ。ところが本作ではダグラスのドラァグクイーンとしての仕事、というよりは週に一度のバイトでしかないわけだけれど、そのエピソードをやたらと丁寧に描いている。

多分、これはリュック・ベッソンの好みということなんだろうと思う。『レオン』ではナタリー・ポートマンにマドンナを歌わせてみたり、『フィフス・エレメント』でもオペラのシーンが印象的に使われていたりした。リュック・ベッソンはこういう脱線が好きなのだ。そんなわけでダグラスはエディット・ピアフやマレーネ・ディートリヒやマリリン・モンローの口パク芸を披露するけれど、それが感動的だったかと言えば、そこまでではなかった気もする。

ラストはダグラスがマフィアとトラブルになり大立ち回りを演じることになるというシークエンスで、ここはそれなりのアクションもあり、ダグラスの犬たちが大活躍することになる。なぜかダグラスは侵入者のためのトラップをたくさん用意していて、マフィアたちは犬たちに一掃されてしまう。ダグラスは無事にそこを逃げ出して、警察に逮捕されるという冒頭にたどり着くことになるわけだ。

このシークエンスでやっていることは『ホームアローン』と一緒だ。しかしまったく笑いのない『ホームアローン』というわけで、本作は主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズがほとんど独りで頑張っている点は評価できるし、お利口な犬たちもかわいいけれど、いまひとつピンと来なかった。

『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』の時にも言ったけれど、リュック・ベッソンは『最後の戦い』などはとても素晴らしかったと思えたのだけれど……。

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