『猫は逃げた』 愛の源についての映画?

日本映画

脚本は『アルプススタンドのはしの方』などの城定秀夫

監督は『愛がなんだ』などの今泉力哉

先日公開された『愛なのに』に続く、『L/R15』という名前のプログラムピクチャーによる第2弾。

物語

漫画家・町田亜子(山本奈衣瑠)と週刊誌記者の広重(毎熊克哉)は離婚間近の夫婦。
広重は同僚の真実子(手島実優)と浮気中で、亜子は編集者の松山(井之脇海)と体の関係を持ち、夫婦関係は冷え切っていた。
2人は飼い猫カンタをどちらが引き取るかで揉めていたが、その矢先、カンタが家からいなくなってしまい・・・。

(公式サイトより抜粋)

ほのぼのした猫映画

『愛がなんだ』の今泉力哉と、『アルプススタンドのはしの方』の城定秀夫によるコラボレーション企画の第2弾。今回は前回とは逆になり、城定脚本を今泉力哉が監督することになる。

そもそもの企画としてレーティング「R15+」という設定だから、本作にもベッドシーンが用意されている。ただ、城定脚本があまりセックスに対してこだわりがなかったからなのか、今泉監督が久しぶりに撮るベッドシーンということだからなのかはわからないけれど、『愛なのに』と比べるとかなりあっさりしているかもしれない。

この企画はかつてのロマンポルノみたいな“縛り”があるわけだけれど、ベッドシーンは用意されていてもそのほかはかなり自由にやっているという印象だ。

『猫は逃げた』に関して言えば、猫は準主役と言ってもよく、猫に始まり猫に終わる、ほのぼのした猫映画になっている。『愛なのに』でもいい味を出していたカンタは人間顔負けの演技(?)を披露し、今泉監督もカンタの視線に合わせた極端なローアングルでカンタを追っていくのを楽しんでいるようでもあった。

(C)2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ

離婚を先延ばしする夫婦

冒頭、離婚届けに判を押す亜子(山本奈衣瑠)と、それを見つめる広重(毎熊克哉)が描かれる。離婚するわけだから夫婦関係はよくないはずだが、それほど険悪なムードというわけではない。それでも離婚は決定事項であり、広重は財産分与について相談を持ちかける。家具やそのほかの物に関しては特に問題はないものの、飼い猫カンタのことでふたりは揉めることになる。

漫画家として自宅で仕事をしている亜子は、カンタを世話していたのは自分だから、当然カンタを引き取るのも自分だと思っているのだが、広重としては納得がいかないらしいのだ。結局ふたりはその問題を先送りすることになり、離婚のことも先延ばしになってしまう。

離婚は当事者ふたりの問題だが、それ以外にも困る人がいる。それが広重の不倫相手である真実子(手島実優)だ。真実子はジェンダー論などを語ってみたりもするものの、広重のことが好きで、古風に(?)結婚を望んでいるのだ。しかし、その願望もふたりがまず離婚しなければ叶わないわけで、真実子は一計を案じることになる。

※ 以下、ネタバレもあり!

(C)2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ

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クライマックスの長回し

カンタは突然失踪したと思われていたわけだが、実際は真実子がカンタを誘拐し、自宅へ匿っていたことが明らかになる。真実子はカンタを誘拐することで、離婚に対する障害を取り除くつもりだったのだ。さらに真実子は亜子の不倫相手である松山(井之脇海)の弱味を握り、彼をカンタ誘拐の共犯にしてしまうことになる。

本作のクライマックスは、そんな関係の4人が勢揃いする長回しのシーンだろう。しかもカンタ誘拐の事実もバレてしまったわけで、当然ながら修羅場となる。亜子は真実子に対し、「泥棒猫な上に猫泥棒」と言い放つ。これは傍にいる広重や松山からしたら危なっかしくて気が気でない放言ということになるわけだが、観客としてはこの空気感はおもしろい。

このシーンは4人がリビングに並ぶように座ることになるのだが、この並び順には不思議なものがある。言い争いの中心にいるのは亜子と真実子というふたりの女性なのだが、ふたりはすぐ隣にいるからだ。それでもこの並びは、撮影時に試行錯誤して成立したものらしい。

松山を演じた井之脇海によれば、並びが変わると「“間”や“言い方”がどこか変わる」ことになるとのこと。最終的に採用されたこの並びでは、それぞれの不倫相手とも距離があり、さらに亜子と広重の夫婦は一番距離を保っている。

もしかしたら味方になるかもしれない人と距離があることで、どこか居心地が悪い雰囲気が生まれているということなのだろう。そして、そんな中でも一番距離を保っていた夫婦が、最後、息ピッタリにハモってしまうことで、夫婦の仲が浮気相手にも伝わってしまうことになり、亜子と広重は元の鞘に収まる形になるのだ。4人が座って話しているだけのシーンなのだが、この絶妙な空気感はいかにも今泉作品というものになっていたと思う。

(C)2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ

愛の源についての映画?

亜子と広重は結果的に離婚危機を乗り越えるわけだが、これはふたりの関係性が変化したということなのだろうか?

劇中に登場する映画監督・味澤(オズワルドの伊藤俊介)は小難しい哲学的な理屈を述べて、自分が撮ったノーパン映画を擁護する。愛には実は3つの種類があり、それがフィリアアガペーエロスとされる。彼の映画では「アガペーがエロスに進化した」ことが描かれるとか何とか。

これと同様に、本作もそんな難しいことが描かれていたのだろうか。私にはそれはわからなかったのだが、映画監督・味澤曰く、彼の映画は「愛の源についての映画」とのことで、この『猫は逃げた』にもそんな「愛の源」は描かれていたのかもしれない。

(C)2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ

広重は週刊誌記者としてそれなりの地位があるようだが、結婚する前はそうではなかったらしい。付き合っていた亜子は漫画家としてスタートしているにも関わらず、広重は小説家になる夢をつかめずにいた。そんな将来に対する不安から、広重はすべてを捨てて逃げてしまおうと考えていたようだ。ところが、そんな時に公園で捨てられていたカンタを見つけてしまう。広重はカンタをそのまま放っておくこともできず、亜子と一緒にカンタを飼うことになり、そのままふたりは結婚することになったのだ。

だからふたりの仲を取り持ったのはカンタであり、広重の今の生活があるのもカンタのおかげであり、ふたりの「愛の源」はカンタだったというわけだ。広重がカンタに執着していたのはそういうわけであり、本作が「猫に始まり猫に終わる猫映画」というのはそういう意味合いなのだ。

本作に登場するふたりの女優はオーディションで選ばれたらしい。泥棒猫で猫泥棒という真実子を演じた手島実優は、嫌われ役を演じつつもあまり不快なものを感じさせないのはコメディエンヌの雰囲気があるからだろうか。亜子を演じた山本奈衣瑠は演技は初めてとのことだが、ごく自然体で違和感はなかったし、ふとした表情がとても魅力的だった。

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