『くれなずめ』 成長なんかしたくない?

日本映画

監督は『アフロ田中』『私たちのハァハァ』などの松居大悟

もともとは松居監督が舞台劇として製作したものを映画化した作品とのこと。

物語

優柔不断だが心優しい吉尾(成田凌)、劇団を主宰する欽一(高良健吾)と役者の明石(若葉竜也)、既婚者となったソース(浜野謙太)、会社員で後輩気質の大成(藤原季節)、唯一地元に残ってネジ工場で働くネジ(目次立樹)、高校時代の帰宅部仲間がアラサーを迎えた今、久しぶりに友人の結婚式で再会した! 満を辞して用意した余興はかつて文化祭で披露した赤フンダンス。赤いフンドシ一丁で踊る。恥ずかしい。でも新郎新婦のために一世一代のダンスを踊ってみせよう!!

そして迎えた披露宴。…終わった…だだスベりで終わった。こんな気持ちのまま、二次会までは3時間。長い、長すぎる。そして誰からともなく、学生時代に思いをはせる。でも思い出すのは、しょーもないことばかり。

「それにしても吉尾、お前ほんとに変わってねーよな

なんでそんなに変わらねーんだ?まいっか、どうでも。」

そう、僕らは認めなかった、ある日突然、友人が死んだことを─。

(公式サイトより抜粋)

それぞれの想い出

友人の結婚式のために久しぶりに勢揃いした仲間たち。彼らはかつてを懐かしむように悪ふざけのような余興をすることになるわけだが、その中のひとり吉尾はすでに死んでいる。このことは予告編でも公式サイトでも明らかにされているからネタバレしてもいいのだろう。

実際には誰が死んだのかは伏せられているわけだが、映画が始まるとすぐに吉尾は自ら自分が死んだことをほかの5人に改めて伝えようとするのだが、それを遮るようにして5人は悪ふざけに戻っていく。

実在しているかのように5人と会話し、酒を呑み、カラオケを歌う吉尾はどんな存在なのか。一時は吉尾が成仏できない幽霊かのような言い方もされたりもするのだが、実際には5人の側が吉尾の死を受け入れられないために、未練がましく吉尾の存在が居るかのように振舞ってしまっているということらしい。

吉尾は心臓の病で亡くなり、それがあまりに突然なことだっただけに未だに5人はそのことが信じられない。5人にはそれぞれ吉尾と過ごした記憶があり、みんなが勢揃いするとそんな想い出が蘇り、まるで吉尾が実在するかのような気持ちになってしまうのだ。

成仏できない幽霊の話ならば『シックス・センス』のようなオチになるのかもしれないが、これは亡くなった友人の死を受け入れられない男どもの話なのだ。そうなると紆余曲折を経て男どもは成長し、その友人の死を受け入れて前に進むことになる。そんな展開が“一般的”なのだと思うのだが、本作はそうならないところがおもしろいところなのかもしれない。

(C)2020「くれなずめ」製作委員会

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成長なんかしたくない?

文化祭で披露した赤フンダンスは、ウルフルズの曲「それが答えだ」によって踊られる。この曲は「それが答えだ」と言いつつも、「答え」そのものは示さないと解釈されている。しかもそれこそがカッコいいとされている。

これは5人と吉尾との関係と同じだ。「答え」はハッキリさせたくないし、いつまでも曖昧なままでいたい。吉尾が死んだことを認めてしまったら、かつてのようにヘラヘラしたままではいられなくなってしまう。そんなことはイヤだから5人は吉尾を実在するかのように感じ、いつまでもかつてと同じように笑っていたい。そんなふうに言っているわけだ。

タイトルにもそれが表現されている。「くれなずめ」は造語だが、もともとの「暮れなずむ」という言葉の意味は、「日が暮れそうでなかなか暮れないでいる」という状態のことだ。それが命令形になっているわけで、そういう中途半端な状態に留まれという意味なのだろう。これは成長を否定しているようなものだろう。いつまでも時を止めようと考えているわけだから。

(C)2020「くれなずめ」製作委員会

開き直れ!

松居大悟監督の2018年の作品『君が君で君だ』では、男どもが現実と幻想の間でフラフラすることになるわけだが、最終的には現実に着地した形になっていた。個人的にはこのラストには監督自身の迷いがあるようにも感じられた。いつまでも幻想の中で遊んでいたいと思いつつも、強引に現実の側に着地させて終わらせたように感じられたのだ。

それに対して『くれなずめ』は、完全に開き直っているように見える。吉尾のことを想い出にして前に進むくらいなら、いつまでも吉尾が居るフリをしてみんなで戯れていたい。成長なんかしたくないし、前に進みたくもない。そんなふうに開き直っているのだ。

吉尾との最後の時を再現するのはわからなくもないわけだが、さらに6人の戯れは続き、菜の花が咲き乱れるあの世に乗り込んでみたり、ガルーダに扮した吉尾と5人が心臓を取り出して騒ぎまくるという展開はもはや意味不明だ。それでも子どもっぽい6人にとっては楽しい時間なのだろう。

ただ、この開き直りがほかから見るとおぞましいものだということも松居監督は感じているのかもしれない。本作のヒロインとも言えるミキエ(前田敦子)が今も昔も男どもに対してキレているのは、女性の代表としての反応なのかもしれない。堅実に現実世界に対処している女性たちからすると、男どもはいつまでも子どもっぽくて幻想の中に逃げ込んでしまう不甲斐ない存在に見えているのだろう。

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