『オキシジェン』 恐怖のシチュエーション

外国映画

監督は『クロール -凶暴領域-』『ルイの9番目の人生』などのアレクサンドル・アジャ

脚本はクリスティ・ルブラン

Netflixオリジナル作品。

物語

医療用ポッドの内部で目覚めた女性(メラニー・ロラン)。彼女は自分が何者なのかも、なぜそこに居るのかもわからない。しかしポッドの残りの酸素量は30%程度で、そのままだと1時間ほどでそれは尽きてしまうことになる。

何とかそこを抜け出そうとするのだが、身体は拘束され、ほとんど身動きをとることすらできない。彼女はその危機的状況から抜け出すことができるのか?

ワン・シチュエーション

医療用ポッドにコールドスリープ状態という設定から宇宙を舞台にした話なのかと思っていると、それは最初に否定される。おぼろげに蘇ってくる記憶からすると、彼女は救急病院に運ばれ、そこで医療用ポッドに入れられたらしい。

彼女は自分が何者なのかさえもわからず、ただそのまま時間が経てば死んでしまうということだけを理解する。本作は主人公が閉じ込められた場所から抜け出せるか否かを描くワン・シチュエーションものだ。

医療インターフェースオペレーターを名乗るミロ(声はマチュー・アマルリック)の力を借り、外部との連絡をとることには成功するものの、肝心のポッドの場所がどこにあるのかは不明なため、外部から助け出してもらうこともできない。ミロがネット情報にアクセスし、彼女がエリザベット(リズ)・ハンセンという生物学者であることは判明するものの、そんな自分がなぜそこに閉じ込められなければならないかは未だわからぬままに時間は過ぎていく。

Netflixオリジナル作品 『オキシジェン』

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生き埋めの恐怖

本作は真っ暗闇の中に全身タイツのようなものに包まれた何かが動き出すシーンから始まる。何かが苦しそうに息をし出し、タイツを突き破って顔を出す。それが主人公であるリズなわけだが、それは棺桶の中のミイラが蘇ったようにも見える。その段階ではポッドの中の灯りもなく、その空間もほとんど穴倉のように見えるからだ。

それが医療用ポッドの中だと判明した後にも、わざわざリズに「土の中に埋められているののかも。生き埋めにされたのよ」と言わせたりもしていて、ポッドが棺桶の役割を果たしていることを示している。土の中に埋められた棺桶の中で息が苦しくなっていくというシチュエーションはかなり怖いものがある。

こうしたシチュエーションの作品としてとても印象深いのが、『ヒッチコック劇場』というテレビ番組の「死人の脱走」というエピソード。『オキシジェン』もそれを意識しているのかもしれない(似たような作品に『リミット』という映画もあるらしい)。

通常人間は生きているうちに棺桶の中に入ることはないはずだし、ましてや土の中に埋められた状態で目覚めることなどあるわけもない。もしそんな状態になったとしたら怖いことこの上ないわけで、そんな恐怖を描いたのが「死人の脱走」だった。この驚きのラストに関してはネタバレは避けることにしておくが、最後に総毛立つ感覚を味わわされることになるんじゃないだろうか。

調べてみると「死人の脱走」はDVDなどはなさそうなのだが、それをリメイクした「最終脱獄計画」というエピソードならDVDがあるようだ(無闇に高価だが)。

※ 以下、ネタバレあり!

意表を突く展開

本作は前半では生き埋めとなる恐怖を描くわけだが、後半になると一変する。舞台としては医療用ポッドという限定した空間のみで、記憶の中に登場する夫のレオ(マリック・ジディ)などの脇役はいるけれど、ほとんどメラニー・ロランの独り舞台だ。つまりは延々とリズの顔ばかりが映されることになるわけだけれど、それにも関わらず後半は何度も意表を突くツイストがあって退屈することのないエンターテインメント作品となっていたと思う。

ここでネタバレをしてしまうと、棺桶のような医療ポッドは実は宇宙空間にあることが判明する。土の中に埋められているなどとリズに言わせておいて、一気に無重力空間を体験させるという飛躍は見事だったと思う。

なぜリズが宇宙にいるのかと言えば、地球はあと2世代ほどで滅亡することが明らかとなり、リズはほかの多くの人々と一緒にコールドスリープ状態のまま別の惑星へと向かう途中だったのだ。しかしその途中で小惑星との衝突が起き、医療用ポッドに故障が生じたことがリズが目を覚ますことになった要因らしい。

さらに驚くことに、そうした事の真相を明らかにしてくれた謎の女性は、エリザベット・ハンセンその人であったのだ。つまりは宇宙空間で目覚めた主人公のリズは、地球に残ったリズのクローンなのだ。

Netflixオリジナル作品 『オキシジェン』

Netflixオリジナル作品 『オキシジェン』

ラストはハッピーエンド?

本作のラストではクローンのリズが別の惑星へと到着し、同じように宇宙船に乗っていた夫のクローンと寄り添う場面で終わる。新しい星でクローンたちが繁殖することで人類が存続していくことになるというハッピーエンドなのだが、これは素直に喜べるものなのだろうか。

リズはポッドの故障のおかげで目を覚まし、事の真相を知ることになるわけだが、恐らく夫のクローンは自分がクローンであることを知らないのだろう。それでもふたりはかつて夫婦だったという記憶を移植されているから寄り添うことになるわけだが、自分がクローンであることを知っているリズとしては複雑なものがあるだろう。自分の記憶は実際には自らが体験したものではないわけで、愛と信じているものも偽りなのだから。

とはいえリズは自らがクローンだと知っても、だからといって「死んでもいい」とは思わなかったわけで、やはり「死にたくない」と思ったからこそ生に執着して危機を乗り越える方策を見つけ出すことになったのだった。

このあたりは哲学者の永井均が展開する思考実験を思わせなくもない。自分と全く同じ肉体と記憶を持つクローンが造られたとして、オリジナルのほうが何らかの原因で死んでしまったとする。それでも全く同じクローンが生き残っているなら「問題なし」と思えるか否かというものだ。

本作ではそれをクローンの側から見ることになるわけだけれど、クローンがオリジナルのコピーだからといって自分の存在そのものを否定することはできなかったわけだ。リズは果たして自分たちがクローンだということを夫のレオに知らせることになるのだろうか。そんなことも思わせる複雑なラストだったようにも感じられた。

医療インターフェースオペレーターのミロがあまりに不親切なのは、物語の性質上必要なことなのかもしれないけれど、自分がポッドの中に入るとしたら何度も安楽死をさせようとするオペレーターは御免被りたいものだ。酸素がないと言いつつもほかに使われていない医療用ポッドがいくらでもあったわけで、早く教えてくれればよかったのに。言われたことしかやらないのがコンピュータなのかもしれないけれど……。

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