『ゴールデン・リバー』 アメリカン・ドリームの実情?

外国映画

『ディーパンの闘い』などのジャック・オーディアールの最新作。

ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した作品。

原題は「The Sisters Brothers」

物語

ゴールドラッシュ時のアメリカを舞台にした西部劇。

原題の「The Sisters Brothers」とは、主人公となる兄弟のこと。そのふたりの苗字がSisters(姉妹)だったから、「シスターズ兄弟」という妙なタイトルになっているのだ。

このふたりは銃の腕前は一流らしく、仕事はきっちりこなしていく。冒頭、暗闇のなかの銃撃戦がとてもカッコいいのだが、ここでふたりは「俺たちはシスターズ兄弟だ」と名乗りを上げている。その名前を聞けば震え上がる者もいたということだろう。

ふたりの父親は荒くれ者だったようで、その血を受け継いでいるからこそふたりは殺し屋として生きていけるのだ。それでもふたりには違いもあって、兄のイーライ(ジョン・C・ライリー)はそろそろ殺し屋稼業から足を洗いたいと考えている。それに対して、弟チャーリー(ホアキン・フェニックス)はアウトローそのもので、今の生き方以外のことを考えたこともないようだ。

イーライというキャラ

『ゴールデン・リバー』ではチャーリーを演じるホアキン・フェニックスは控え目な印象で、兄イーライが主役と言ってもよく、プロデューサーも務めるジョン・C・ライリーがこの作品を引っ張っていくことになる。

西部劇に登場する荒くれ者たちはいつも噛みタバコを噛み、茶色いツバを吐き出すというのが典型的。しかし、イーライは口臭を気にしてか、西部ではあまり一般的な習慣ではないらしい歯磨きをし始めたりする。女性からもらったスカーフを大事に隠し持つというロマンチストな部分も垣間見せ、殺し屋を辞めた後にはきれいな奥さんでももらい、小さな店でも経営しつつ暮らしていこうと考えているのだ。

西部劇という無法者たちが活躍する物語で、イーライのようなキャラが登場するのは珍しい。イーライを演じるジョン・C・ライリーは、最初、なぜか長髪で登場する。すぐにいつもの天然パーマ姿になるというのも、イーライのキャラがこの作品のキモだからなのだろう。イーライはクモにやられて顔を腫らしたりと、あちこちで笑わせてくれるのだ。

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※ 以下、ネタバレもあり!

一攫千金あるいは……

本作でシスターズ兄弟がボスの提督から命じられる仕事は、化学者ウォーム(リズ・アーメッド)から秘密の化学式を聞き出すこと。その化学式を使った薬品を使えば、川のなかから金を取り出すのが一気に楽になる。まさに一攫千金のネタなのだ。

しかし、ウォームを見つけ兄弟に引き渡すことになる連絡係モリス(ジェイク・ギレンホール)は、ウォームと出会って彼の話を聞くうちに彼の語る未来に感化されていく。モリスもウォームも西部の野蛮な世界には嫌気が差していて、ウォームは金の採掘で稼いだ元手で新しい共同体を作ろうと考えていたのだ。

追記:提督を演じていたのがルトガー・ハウアーだったのだが、先日(7/25)病気で亡くなられたというニュースが……。本作劇中でも亡くなった姿でわずかに登場するだけだったのがちょっと寂しいところ。

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結末とアメリカン・ドリームの実情?

結末に触れておくと、結局4人は協力して金の採掘をすることになるのだが、チャーリーの欲が失敗を招く。薬品のトラブルによってウォームとモリスは死に、チャーリー自身も片腕を失うことになってしまうのだ。

この結末はウォームとモリスにとっては悲劇かもしれないのだが、彼らはあくまで脇役である。シスターズ兄弟は荒くれ者のチャーリーも利き腕を失い、殺し屋としてやっていくことは不可能となり、イーライと一緒に母親の待つ家へと帰ることになる。シスターズ兄弟は、金持ちにはなれなかったわけだが逆に大切なものを得たように見えるのだ。

アメリカ西部はゴールドラッシュという大きなチャンスのあった場所だ。この時期には一攫千金を求め多くの人々が新大陸アメリカに流入してきたらしい。しかし、実際のアメリカ西部がユートピアではないのは言うまでもない。本作でもイーライは殺し屋として稼ぐよりも堅実な生活を求めていたし、ウォームとモリスもアメリカに居ながらも新たなユートピアを建設しようとしていたのだ。ここではアメリカン・ドリームに対しての疑問が投げかけられているようにも感じられた。

本作のプロデューサーでもあるジョン・C・ライリーが、わざわざ旧大陸フランスのジャック・オーディアールを監督に選んだのには、そんな意図があったのかもしれない。というのもオーディアールは脚本にも参加していて、アメリカにユートピアを建設しようとするウォームのエピソードを膨らませたと語っているからだ。

アメリカ内部にいるとアメリカン・ドリームの実情はかえってわかりにくいのかもしれないが、旧大陸の視点から見れば別の姿が見えてくるかもしれない。そんなことを思わせなくもないちょっと風変わりな西部劇だった。

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