『エッシャー通りの赤いポスト』 暴れたいという欲求

日本映画

監督・脚本・編集・音楽を担当したのは『愛のむきだし』などの園子温

出演はワークショップに参加した51人の新人俳優たち。

物語

鬼才のカリスマ映画監督・小林正(山岡)は新作映画『仮面』に、演技経験の有無を問わず広く出演者を募集する。浴衣姿の劇団員、小林監督の親衛隊である“小林監督心中クラブ”、俳優志望の夫を亡くした若き未亡人・切子(黒河内)、殺気立った訳ありの女・安子(藤丸)、プロデューサーにまとわりつく有名女優など様々な経歴の持ち主たちが、オーディション会場に押し寄せて来る。それぞれの事情を持った参加者たちは、小林監督の前で語り、演じて見せる。
一方、助監督のジョー(小西)たちに心配されながら、脚本作りに難航する小林の前に、元恋人の方子(モーガン)が現れる。彼女は脚本の続きを書いてくれるという。1年前のある出来事を忘れることが出来ない小林は、方子に励まされながら『仮面』に打ち込み、刺激的な新人俳優たちを見つけ出すことで希望を見出すが、エグゼクティブプロデューサー(渡辺哲)からの無理な要望を飲まなければならなくなる。自暴自棄に陥った小林は、姿が見えなくなった方子を探すが……。

(公式サイトより抜粋)

映画はつらいよ?

2019年、ハリウッド・デビューが決定していたのに心筋梗塞に倒れ、生死をさまよったという園子温。病からは快復したけれど予定していた『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』の製作は延期となり、空いた時間に出来上がったのが本作『エッシャー通りの赤いポスト』とのこと。

本作は群像劇であり、これからのし上がろうとしているギラギラした役者陣が大勢登場することになるが、その中に園監督自身を思わせる小林正(山岡竜弘)という映画監督がいる。

小林はプロデューサーの武藤(諏訪太朗)や、エグゼクティブプロデューサーの山室(渡辺哲)の無理な要望に翻弄される。オーディションで全員新人を募集して映画製作をするはずが、途中からエグゼクティブプロデューサーの無理強いで「有名女優を使え」と横槍が入り、そもそもの企画自体が崩れていく。それでも映画製作は続けなくてはならないわけで、監督の小林は悩みの種を抱えたまま撮影に入ることに……。

この小林の姿はまさに園子温の姿ということになるのだろう。自分のやろうとしていたことが誰かの横槍によって妨げられる。商業映画を撮る中ではそんなことも度々あるということなのだろう。だから本作は、園監督が自主映画で自分の好きなことを好き勝手にやっていた時代に戻ろうとしているようでもある。

(C)2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会

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初心にかえって

小林の昔の彼女として登場するのが、モーガン茉愛羅演じる方子。この名前は、『自転車吐息』という初期の作品にも出て来た名前なんだとか。チラッと登場する「俺」の旗も、『自転車吐息』で園子温が掲げていたものだ。園子温が好き勝手にやっていた時代の衝動というものを探るための映画なのだろう。

『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』などの成功で次々に新作が公開される人気監督になった園。その後はハイペースで雇われ監督の仕事として『新宿スワン』シリーズなどもヒットさせたりしつつも、過去に書いた脚本を蔵出しした作品などにも取り組んでいた。それが魂の集大成とされた『ラブ&ピース』であり、念願だったとされる『ひそひそ星』も完成させた。

その意味ではひとつの区切りが終わり、新たなフェーズへと移行していく時だったのだろう。そして次のステップとして選んだのがハリウッド・デビューだったわけだが、その前の病気による小休止により誕生した本作は改めて初心にかえった感がある。

(C)2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会

暴れたいという欲求

本作はオーディションで選ばれた多くの役者が登場する。園監督は彼らを単なるエキストラではなく、ひとりひとりの顔が見えるような撮り方をしている。劇中劇ではプロデューサーの一声によって彼ら彼女らはエキストラ役に押し込められてしまうことになるわけだが、それに対して「人生のエキストラでいいのか?」と園監督は問い掛けるのだ。

その言葉に後押しされる形で安子(藤丸千)と切子(黒河内りく)は主役を押しのけて映画を乗っ取ることになる。映画はもっと自由に、もっと好き勝手にやったっていいんじゃないか。これは園子温の正直な気持ちということなのだろう。

ラストでは豊川市の商店街で撮影していたはずの安子と切子が渋谷のスクランブル交差点に現れる。多分ゲリラ的に撮影したと思われるそのシーンでは、道路を走り回るふたりは警察官に制止されることになる。

(C)2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会

このラストシーンは園監督の『BAD FILM』という作品を思い出させる。『BAD FILM』もまた熱量だけで突っ走ったという感じの作品で、新宿や渋谷でのゲリラ的撮影もある。そして、『BAD FILM』には当時園子温が主催していたという路上パフォーマンス集団「東京ガガガ」の記録も交じっている。

「東京ガガガ」のやっていることの意味はよくわからないけれど、街をジャックするほどの人数で行進したり、何やら叫んだりする姿がある。かつての学生運動というものが若者たちからの異議申し立てという側面と、単に暴れたいだけという側面があったように、「東京ガガガ」も主張すべきことがあるわけでもなく単に暴れたいという欲求を満たすものだったようにも見える。

『エッシャー通りの赤いポスト』も新人役者たちを自由に暴れさせる舞台となっていて、とにかくその熱量はすごい。誰もが絶叫してばっかりなのはちょっと気になるし、決して出来のいい作品ではないだろう。それでも熱い想いは伝わってくる。146分という短い作品ではないのだが、熱に浮かされるようにしてあっという間に見てしまったという感覚だった。

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