『パッション Passion』以来、久しぶりのブライアン・デ・パルマ監督の最新作。
物語
デンマーク市警のクリスチャン(ニコライ・コスター=ワルドー)とラース(ソーレン・マリン)は、巡回中に夫婦喧嘩らしきトラブルに遭遇する。現場に駆け付けると足元に血を付けた男を発見。一度は男を取り押さえるものの、隙を突かれてラースが重傷を負ってしまう。
銃を携帯していなかったクリスチャンは謹慎処分となるのだが、自分の失敗によって相棒ラースが傷ついたことに責任を感じ、独断で犯人を追っていくのだが……。
ハリウッドから遠く離れて
2015年に公開されたブライアン・デ・パルマの作品を監督自身が振り返るドキュメンタリー作品『デ・パルマ』(ノア・バームバックとジェイク・パルトローの監督作品)では、ハリウッドのシステムに嫌気が差したみたいなことを語っていたブライアン・デ・パルマ。実際のところは『ミッション・トゥ・マーズ』(2000年)が大コケしたので干されたという噂もあるようだが、その後はハリウッドを離れて映画製作をしているようだ。
『ドミノ 復讐の咆哮』は、ヨーロッパの各国から資金を集めて製作された作品で、デンマークやスペインが舞台となっている。出演陣には、世界各国で人気のドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のニコライ・コスター=ワルドーとカリス・ファン・ハウテンなど、それほど馴染みのないヨーロッパの顔ぶれが目立つ。
復讐の連鎖?
タイトルは「ドミノ」で、副題が「復讐の咆哮」だから、復讐の連鎖によってドミノ倒しになるということを推測させるわけだが、本作の物語はドミノ倒しほど見事なものではなかったという印象。
主人公はデンマーク市警のクリスチャンで、彼はヒッチコック的な巻き込まれ型の主人公ということになる(ヒッチコックっぽい屋根の上での闘いもある)。クリスチャンが巻き込まれる事件のそもそもの発端には、イスラム過激派組織のテロ行為がある。テロリストに父親を殺されたタルジ(エリック・エブアニー)は、その復讐のためにテロリストを追っている。そして、それを利用しようとしているのがCIAのジョー(ガイ・ピアース)だ。
クリスチャンは夜中のパトロール中にたまたま通報によって、タルジがテロリストの仲間を拷問の上で殺した現場へ向かうことになり、クリスチャンの失敗によって相棒のラースは傷つけられ死んでしまうことになる。
失敗の責任を取らされることになるクリスチャンは、捜査からは外されることになるが、相棒の仇を撃つために独自に犯人を追うことに。
デ・パルマらしさ
ハリウッドのシステムから飛び出したデ・パルマも資金不足なのか、製作には苦労している感じが伝わってくるようでもあり、得意のスプリット・スクリーンを活用したイスラム過激派が映画祭で無差別テロをする場面などのチープ感は否めない。
それでもデ・パルマらしい部分はある。クリスチャンが自宅に銃を置き忘れてしまうという場面では、高鳴る音楽と共に置き忘れた銃へとカメラが寄っていき、クリスチャンの失敗を印象付ける。それから上述した『デ・パルマ』のなかでデ・パルマ自身が“ジオプター”と呼んでいた、「前方を大写しにしつつ画面後方の情報と並列にする」テクニックも何度か登場していておもしろい画を作っていたと思う。
クライマックスはスペインの闘牛場でのテロ計画を追うことになるわけだが、このシークエンスはデ・パルマがこれまでに何度も繰り返してきた決定的な瞬間をスローモーションで引き延ばす手法で楽しませてくれる。このクライマックスはピノ・ドナッジオのボレロ風の音楽もあって、いかにもデ・パルマらしいシーンになっていたと思う。
物語の中盤では、亡くなったラースの不倫がなぜか明らかにされる。ラースは足が不自由な妻を支えるいい夫だったはずなのだが、一体どういう意図なのかと思っていると、オチでラースの不倫相手であるアレックス(カリス・ファン・ハウテン)が復讐を遂げるところにつながってくる。テロによる復讐の連鎖と、恋人を殺された恨みも一緒くたにしてしまい、後ろで糸を引いているように見えたCIAはほとんど何もしないという脚本の出来は褒められたものではない気がする。
デ・パルマのファンにとってはそれなりに楽しめる作品ではあるのだが、到底最上の作品とは言い難いわけで、この作品がもう80歳にならんとするデ・パルマの遺作にならないといいのだが……。
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