『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』 また逢う日まで

外国映画

監督は『死霊のはらわた』やトビー・マグワイア版『スパイダーマン』シリーズなどのサム・ライミ
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の第28作。

物語

元天才外科医にして、上から目線の最強の魔術師ドクター・ストレンジ。
時間と空間を変幻自在に操る彼の魔術の中でも、最も危険とされる禁断の呪文によって“マルチバース”と呼ばれる謎に満ちた狂気の扉が開かれた──。
何もかもが変わりつつある世界を元に戻すため、ストレンジはかつてアベンジャーズを脅かすほど強大な力を見せたスカーレット・ウィッチことワンダに助けを求める。
しかし、もはや彼らの力だけではどうすることもできない恐るべき脅威が人類、そして全宇宙に迫っていた。
さらに驚くべきことに、その宇宙最大の脅威はドクター・ストレンジと全く同じ姿をしていて…。

(公式サイトより抜粋)

アメリカという少女

前作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で間違ってマルチバースの扉を開いてしまったドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)。その影響なのか、彼は毎晩同じ夢を見ることに。ストレンジは夢の中である少女を助けるために闘っているのだが、最終的には大いなる目的のためにその少女を犠牲にするという選択をすることになる。

この夢に出てきた少女こそが、本作の重要なキャラクターであるアメリカ・チャベス(ソーチー・ゴメス)だ(アメリカという名前が意味ありげだ)。その後にストレンジは夢ではなく現実世界でアメリカを助けることになるのだが、彼女が言うにはストレンジが見た夢は別の宇宙の出来事であって、アメリカはマルチバースを行き来する能力があるだという。彼女はその特殊能力でもうひとりのドクター・ストレンジと共にこの宇宙にやってきたのだ。そして、アメリカが言う通り、そこにはすでに死んでしまった別宇宙のストレンジの姿があったのだ。

ストレンジはウォン(ベネディクト・ウォン)と一緒にカーマ・タージにアメリカを匿うことに。そして、マルチバースに詳しいワンダ(エリザベス・オルセン)に助言を仰ぐのだが、実はワンダこそがアメリカの能力を狙っていた張本人だったということが判明する。

(C)Marvel Studios 2022

予習・復習が大事?

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の主役は当然ながらドクター・ストレンジということになるのだが、もうひとりの主役(というか敵役になるが)はワンダということになる。ワンダに関してはディズニーのドラマシリーズ『ワンダヴィジョン』があり、それを観ていないと置いてきぼりになるかもしれない。

もともとはコミックがあり、その世界も膨大なのだと思うが、ドラマシリーズを間に挟んできたり、スピンオフ作品もあったりするから、どうにかこうにか映画だけを追っていると戸惑う部分もある。一応、キャプテン・カーター(ヘイリー・アトウェル)とか『ファンタスティック・フォー』のふたり辺りまではわかったのだが、中盤に“イルミナティ”と言われるグループが登場すると、コミックを知らない者にとっては「どこの馬の骨なんだろうか?」という感覚でしかなかった。

“頭にフォークを刺した男”などとストレンジに揶揄されていたキャラも、『インヒューマンズ』というドラマの主役なんだとか。実はコミックなどではみんなが由緒正しい経歴の持ち主だったようだ。ほかのコンテンツも予習・復習しておかないと、本作のおもしろさを堪能できない部分もあるのかもしれない。

とはいえ、本作は監督がサム・ライミとなっただけに、『死霊のはらわた』シリーズみたいな怖さとバカバカしさが一体となった感覚もあり、その意味ではごちゃごちゃしていてなかなか楽しい作品となっていたんじゃないだろうか。

(C)Marvel Studios 2022

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「何でもあり」の世界

ごちゃごちゃしたというのは本作が「何でもあり」の世界だからだ。ストレンジが使う魔術はもともと非現実的な世界を生み出すことになるわけだが、本作ではそれにマルチバースが加わり、さらに摩訶不思議な世界が展開していくことになる。

公式サイトもマルチバースの「無限の可能性」ということを謳っている。世界が今ある現実だけではなく、別の可能性が存在することになると様々なことができるようになる。端的に言えば、キャラクターの命は軽くなるのかもしれない。無限の宇宙があるから、別宇宙で同じキャラクターが死んでも、この宇宙には生きているから問題ないということになる。

ストレンジは別宇宙ではアメリカを殺そうとして死ぬことになり、その後ゾンビとして復活する。また、別の宇宙ではマルチバース同士を衝突させる失敗を引き起こし、ひとつの宇宙を消してしまうことになる(これはサノス以上の悪行ということになるだろう)。さらには第三の目を持つストレンジが登場したりもする。ストレンジがひとりしか存在しない時には絶対無理な展開が、マルチバースでは可能になるのだ。

だからほかのドラマの主役級のキャラを登場させつつも、それをあっさりと殺すことも可能になるし、これまでのMCUではあり得なかったようなえげつない殺し方まで見せることも可能になるのだろう。メインの宇宙ではない別の宇宙だからということで、より一層「何でもあり」感が増しているのだ。

『エターナルズ』では神々のような人間よりも上位の存在が明らかにされ、これまで以上に壮大な話になっていたが、それもユニバース(ひとつの宇宙)内部の話に過ぎなかった。しかし、本作ではマルチバース間を行き来できるアメリカが現れ、よりMCUの世界が広がりを増したということになるだろう。

(C)Marvel Studios 2022

また逢う日まで

ストレンジの視点から見ると、本作は独りよがりで何でも自分でやらなければ気が済まないストレンジが、そのことに気づく成長物語ということになるのかもしれない。ストレンジは元恋人クリスティーン(レイチェル・マクアダムス)からそのことを指摘されることになるが、このふたりは別の宇宙でもうまく行かないらしい。それはやはりストレンジに独りよがりなところがあるからだろう。

ストレンジは『アベンジャーズ/エンドゲーム』ではトニー・スタークの犠牲をもってサノスを倒した。「大いなる目的のためには犠牲は仕方ない」という考え方だ。アメリカの能力を奪うという別世界のストレンジがやったこともそれと同じだ。しかし本作の最後ではアメリカの力を信じることになる。このことはストレンジの成長を示しているのだろう。

一方で、もうひとりの主人公とも言えるワンダは悲惨な最期を迎えることになる。『ワンダヴィジョン』において、ワンダは魔力でヴィジョンを復活させ、ふたりの子供まで作ってしまう。しかし、本作のメインの宇宙ではそれを諦めるほかなかったわけだが、マルチバースのどこかでは息子たちは生きていることにもなる。闇落ちしたワンダはアメリカの能力を奪い、息子たちと再び会うことを望むのだ。

息子たちに会うだけなら、アメリカの力でその別宇宙へと移動することで叶うわけだが、それでは息子たちを守るには不十分だとワンダは考える。たとえば不治の病にかかったとしたらどうするのか? たとえそんな事態になったとしても、その病を克服した別宇宙に移動できる能力があればいい。息子を想う気持ちがワンダを狂わせてしまうのだ。

しかし、それは最後に息子たちに否定されることになる。ワンダはスカーレット・ウィッチの姿だったから、息子たちにはモンスターのように見えてしまい罵詈雑言を浴びることになるのだ。ここは反抗期を迎えた子供たちが、母親のことを“鬼婆”扱いするみたいなシーンにも見える。ただ、そんなシーンも息子たちがすべてであったワンダにとっては手痛い仕打ちで、それまでは無敵だったワンダもそこで意気消沈してしまうのだ。

前作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』では敵にも温情をかけていたところからすると、このワンダの最期は救いがないような気もしてちょっとかわいそうな感じもした。もしかしたら今後、どこか別の宇宙でワンダが救われるというエピソードが描かれたりするんだろうか?

マルチバースというのは「無限の可能性」があるとされる。しかし、実際にはこの世界はたったひとつであり、そこはなかなかシビアな場所だ。ある評論家曰く、「人間は死んだらゴミになる」のだとか。現実はそうなのかもしれない。ただ、われわれはなかなかそのシビアな現実世界だけを直視して生きていくことは難しいだろう。

愛する人が亡くなった時、もう二度と会うことが出来ないという事実はあまりにも残酷だ。そんな時、われわれは“あの世”とか“天国”とかのマルチバースを生み出すことになるのだろう。またいつの日か、別の宇宙で再び会うことが出来る。そんなふうに考えるのは単なる慰めだし、物語に過ぎないのかもしれないけれど、多くの人が多かれ少なかれそうやってやり過ごしてきたのだろうとも思う。

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