『あの頃。』 今が一番楽しいと言える?

日本映画

監督は『愛がなんだ』などの今泉力哉

脚本は『南瓜とマヨネーズ』『ローリング』などの冨永昌敬

原作は劔樹人『あの頃。男子かしまし物語』。劔樹人という人物は、ベーシストやマネジャーとしていくつかのバンドに参加したりしている人とのこと。

物語

バイトに明け暮れ、好きで始めたはずのバンド活動もままならず、楽しいことなどなにひとつなく、うだつの上がらない日々を送っていた劔(つるぎ)。そんな様子を心配した友人・佐伯から「これ見て元気出しや」とDVDを渡される。何気なく再生すると、そこに映し出されたのは「♡桃色片想い♡」を歌って踊るアイドル・松浦亜弥の姿だった。思わず画面に釘付けになり、テレビのボリュームを上げる劔。弾けるような笑顔、くるくると変わる表情や可愛らしいダンス…圧倒的なアイドルとしての輝きに、自然と涙が溢れてくる。
すぐさま家を飛び出し向かったCDショップで、ハロー!プロジェクトに彩られたコーナーを劔が物色していると、店員のナカウチが声を掛けてきた。ナカウチに手渡されたイベント告知のチラシが、劔の人生を大きく変えていく――。

(公式HPから抜粋)

“あの頃”が一番?

「あの頃が一番だったよね」と語る若者たちの存在を、昼間から銭湯に浸かりながら否定するアイドルオタクたち。彼らは「今が一番だよね」と語る。そんなふうに言っていられるのは、自分たちがのん気なフリーターみたいなもので、勤め人として会社に縛られているわけではないからなんだろう。

学校には卒業があり、出会いと別れを繰り返していくことになるが、社会人にはもう卒業はないわけで、彼らは好きなアイドルを応援するというオタク活動に延々と精を出すことができる。だから“あの頃”なんかよりも、今が一番だと語るのだ。

(C)2020「あの頃。」製作委員会

打算的活動と純粋な活動

そもそも主人公の劔(松坂桃李)がバンド活動からオタク活動へと足場を移行させたのは、バンド活動が純粋に楽しめなくなってきたからなのだろう。音楽は楽しいものの、それをビジネスにしようとすると色々とメンバー間での衝突も起きる。楽しさよりも金を稼ぐことだったり、名声を得ることのほうが重要になり、バンド活動は打算的手段でしかなくなっていくからだ。

一方でアイドルオタクは純粋なのかもしれない。劔は日々の退屈で疲れるばかり生活を救ってくれるものとしてアイドルに魅了される。そこではアイドルを応援することそのものが楽しみであり、アイドルとそれ以上よこしまな――たとえば付き合ったりしたいとか――何かを求めてはいないように見える。松浦亜弥(山﨑夢羽)との握手会でも、劔がしたのは他愛のないメッセージを伝えることだけだった。それでも劔は尊いアイドルに会えたことだけで満足しているのだ。

監督の今泉力哉は片想いをテーマにした作品ばかりの“片想い至上主義者”。そんなことを『mellow メロウ』のレビューに書いた。アイドルオタクも一方的な片想いという意味では通じるものがあるのかもしれない。

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グダグダ感

本作は劔樹人のエッセイを元にしており、アイドルオタクとしてつるんでいた仲間たちとの日々を描いている。その仲間たちが集まって何をしていたのかと言えば、アイドル談義に果てしない花を咲かせ、内輪だけの何ともくだらない時間を過ごすばかり。

劔が“中学10年生”と自称するようなあり様なのだが、本人たちにとってはそれがかけがえのない時間になっている。トークライブというイベントがそれなりに人を集めていたことからすると、アイドルオタクにとっては彼らの活動はそれなりに意味のあるものだったのかもしれない。

ただ、アイドルにさほど興味のない外部の人にとっては、何とも不思議な集団と見えないこともないわけで、本作はそんな彼らの活動をのんべんだらり追っていくわけで、あまり起伏のない話とも言える。

こうした構成は冨永昌敬の脚本によるものが大きいのかもしれない。冨永昌敬が脚本・監督の『素敵なダイナマイトスキャンダル』の構成とも似ている感じもして、後半になるともの悲しさを覚えるところも共通している。とはいえ、『素敵なダイナマイトスキャンダル』の主人公が警察のご厄介になったり波乱万丈の人生だったのと比べると、本作のアイドルオタクたちの日常は平坦すぎておもしろみには欠ける。本作が劔のナレーションであれこれ説明を加えてつないでいたところからすると、映画としてまとめるのには苦労した感じも見受けられる。

そもそも劔たちアイドルオタクの活動そのものが、展開などを考えないグダグダな活動なのだろう。トークイベントでコズミン(仲野太賀)がネタとなっている全力の土下座で場を締めたと思った途端、脈絡を欠いた西野(若葉竜也)の「夢芝居」の熱唱がそれをうやむやにしてしまうあたりにもそれが表れているのだ。

オルタナティブな生き方?

アイドルオタクたちは「今が一番」と言い切り、成長とも無縁だし、衰退することもないと思い込んでいる。ただ、いつまでも楽しい時を味わいたいという何とも都合のいい、そして子供っぽい言い分でもあるのだろう。

それでもそんな時間が永遠に続くはずもないわけで、仲間は離ればなれになり、コズミンはガンに侵される。「憎まれっ子世に憚る」とも言うし、いい人は早死にすることもあるけれど、コズミンはクズだから大丈夫。仲間たちはそんなふうに自分を納得させる。コズミンはプライドが高くてひねくれているし、ネット弁慶であちこちで人に無闇に噛みついたりしてトラブルを引き起こす厄介者だから。

そんな仲間たちの願いも虚しくコズミンは死んでしまうのだが、コズミンは最期まで「今が一番」という姿勢を崩さずに笑って死んでいく。アイドルオタクとして日和ひよることなく筋を通したということだったのかもしれない。

本作のタイトルは「あの頃。」という過去を振り返るものになっているわけだけれど、その中身は「今が一番」ということを主張するものであり、過去への羨望も未来への展望もなく、純粋に今を楽しむことを精一杯やり尽くすものだったのだから。

それは世間が認める目的に向って突き進むような価値観を否定するオルタナティブな生き方だったのかもしれない。それでもやはり“あの頃”は良かったという感情を抑えきれないのは、それが無理な生き方だったことをも示している気もしたわけで、どこかでもの悲しいところを残す作品だった。

(C)2020「あの頃。」製作委員会

今泉作品として

今泉監督はアイドルのMVなんかも手掛けているらしいのだが、自身はアイドルにはまったことはないらしい。本作は今泉監督にとっては“雇われ監督”としての作品ということなんだろうと思う。『愛がなんだ』で人気監督になり、その後は監督の依頼が絶えない状況にあるようだから。本作も職人としてそつなくこなしている感はあるのだが、オリジナル作品のような細部のこだわりの独特さには欠けるようにも感じられた。

先日U-NEXTで配信していた『Groovy』という作品を観た。今泉力哉で検索したら出てきた作品だったからなのだが、実はこの映画は若手の監督(吉川鮎太)の作品で、今泉力哉は主役を演じている。この映画はドキュメンタリーを模した“モキュメンタリー”なのだが、そのことを知らずに何となく見始めてしまい、今泉監督の私生活の活動を追ったものなのかと勝手に勘違いしてしまった。

ここでの今泉力哉の役は、人の心を癒すグルーヴを見つけるために研究している狂人だった。仙人めいた風貌から白羽の矢が立ったのかもしれないが、その変人ぶり(もちろん演技のはず)が見どころ。裸の女性を楽器にして新しいグルーヴを探し出すという冗談みたいなエピソードをやり切っているのにはちょっと感心してしまった。

『Groovy』は今泉監督がブレイクする前の2017年の作品で、下積み時代(?)の生活のための出演という苦労話ととるべきなのか、若手監督との新しいことへの挑戦に関心を抱いていたととるべきなのか、いまひとつわかりかねるところがある。とはいえ、今泉監督はかつては吉本の大阪NSCにも通っていたみたいだし、おもしろそうなところには首を突っ込んでみたくなるということなんだろうか。勝手な言い方だけれど、色々と興味は尽きない監督である気はする。

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