『ロマンスドール』 ロマンスの神様のいたずら

日本映画

監督・脚本は『百万円と苦虫女』などのタナダユキ

私自身は読んでいないが、映画化に先立って小説版の『ロマンスドール』が約10年前に発表されているとのこと。

物語

美大を出て何となく友人の紹介でラブドール職人となった哲雄(高橋一生)は、社運を賭けた新作のためにモデルを募集する。医療用の人工乳房のために型を取ると偽って……。

そのモデルとして現れたのが園子(蒼井優)で、哲雄はその日のうちに園子に告白し、付き合うことになる。そして時が流れ、ふたりはめでたく結婚することになるのだが、哲雄は自分の仕事のことを言い出せないでいた。

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仕事に対する情熱

「職業に貴賎なし」とは言うけれど、ラブドール製作という職業はあまり大っぴらにしたくはないかもしれない。ラブドールというのは昔はダッチワイフと言われていた代物で、男性用の性具の一種だからだ。哲雄も最初のきっかけは騙されて仕事を紹介されたからに過ぎなかったわけだが、実際やり始めてみると奥が深いものらしく、次第にのめり込んでいく。

というのも、哲雄の上司である相川金次(きたろう)のラブドール製作に対する情熱に影響された部分もある。相川は本当に精巧なラブドールを作ることができれば、それには魂が宿るんじゃないかとまで考えているからだ。

かつてのラブドールは空気を入れて膨らませるソフトビニールタイプのもので、およそ女性らしさのかけらもないものだが、本作に登場するラブドールを見ていると、本物の女の子と勘違いしてしまう瞬間もある。この業界の進歩は著しいものらしい。だから相川や哲雄がのめり込むのも理解できなくもない。

結婚生活と秘密

出会ってすぐに園子に一目惚れした哲雄。しかし、結婚することになると背負うべき責任も増すからか、仕事に関する秘密はますます言い出せなくなる。最初に医療関係などと嘘をついてしまったものだから、余計に格好がつかなかったのかもしれない。

日々の生活のなかでのひとつの秘密は、さらなる秘密を生み出すことになり、いつの間にかにふたりの間には距離感が生じるようになってしまう。そうなると秘密を抱えた哲雄としては、なるべくそうした話題に触れないように、家に帰ることが億劫になったりして、さらに夫婦の仲はこじれていき……。

 ※ 以下、ネタバレ!  ラストにも触れているので要注意!!

(C)2019「ロマンスドール」製作委員会

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ネタバレ注意

『ロマンスドール』は開巻劈頭から観客を驚かせるネタバレが用意されている。物語の冒頭で園子が亡くなったことが示されるのだ。予告編では秘密を抱えたふたりがラブドールを作ることになることが示されているわけで、さらに冒頭で園子が亡くなっていることが明らかになったとすれば、園子の忘れ形見としてラブドールが作られるのであろうことは予測がつくだろう。

ただ意外なのは本作がまったく湿っぽくないことだろうか。園子はガンを患い死ぬことになるわけだが、病気をきっかけにしてふたりは夫婦の絆を取り戻すことになるからだ。それまでふたりの関係はあまり健全とは言えず、秘密を抱えることで距離感が生じ、セックスレスにもなり、それぞれが別の相手と浮気をしていたりもした。しかし、そうした距離感は病気をきっかけに互いの秘密を共有し合うことで一気に縮まることになるのだ。

(C)2019「ロマンスドール」製作委員会

夫婦の共同作業

自分の命があとわずかということになれば、この世に何かを遺したいと考えるのは不思議なことではない。芸術家なら作品を遺すことを考えるだろうし、もしかすると女性なら自分の子供が欲しいと考えるかもしれない。

園子が遺そうと考えたのは、自分のすべてを型取りしたラブドールということになる。これは夫である哲雄にとってもやりがいのある仕事だろう。物語の中盤で亡くなってしまう相川の意志を継ぎラブドール製作に生き甲斐を感じている哲雄は、園子の「わたしをつくって」という言葉に励まされ、新作ラブドール“そのこ”を完成させることになる。

では園子の願いは叶ったと言えるのだろうか。半分は叶ったように思えるし、半分はそうならなかったようにも感じられる。園子は「わたしをつくって」と願ったわけだが、相川や哲雄が考えていたように“そのこ”に魂が宿るようなことはなかったようだ。あくまでもラブドールはラブドールでしかなかったことは、それを使用してみた哲雄の幻滅が示している。“そのこ”は本物の園子にはなれなかったという点では、願いは叶わなかったのかもしれない。

しかし、“そのこ”を買い求めた客からすれば、ラブドールとしては大いに満足しているという反響もあったわけで、その点では“そのこ”の開発は成功したと言える。そもそも園子は、最初に医療用乳房の型取りの時点から、「誰かのためになれば」ということを考えていた。“そのこ”を買い求めた客が喜んでいるということは、園子の願いを叶えたとも言えるだろう。

(C)2019「ロマンスドール」製作委員会

タイトルに込められたもの

しかし、出来上がった“そのこ”というラブドール以上に重要なのは、哲雄と園子がそれを製作するために過ごした日々のほうだろう。本作のタイトルがラブドールではなくロマンスドールになっていることもそこにかかっている。

男の性具としてのラブドールは、実際にはセックスのための人形ということになるわけだが、本作ではふたりが協力して“そのこ”という人形を製作していく過程こそがロマンスになっているのだ。

ふたりはセックスレスを克服し、何度も繰り返し愛し合うことで、“そのこ”というラブドールを生み出すことになる。園子は「わたしをつくって」と哲雄に願うことで、かつてのロマンスを取り戻すことになったわけで、その意味で“そのこ”はロマンスドールということなのだろう。

(C)2019「ロマンスドール」製作委員会

ロマンスの神様のいたずら

園子は「憶えているばっかりじゃ、哀しいこともあるもの」と語っていて、それがラブドール製作のきっかけともなっている。しかし一方では、哲雄は園子が死んだ後に、彼女の記憶によって慰められている。死んでいく者は何かを形に遺したいのかもしれないのだが、遺された方としてはやはり記憶というものが一番大きいのかもしれない。

ラストに哲雄がしみじみともらすのが「スケベでいい奥さんだったなぁ」という台詞。その表情には寂しさは感じられない。そもそも最初のきっかけからして、医療用乳房は触感も大切だという理由で哲雄に胸を触られたことだったわけで、園子にはどこかスケベなところはあったのだろう。そして、その最期も哲雄に抱かれたまま死ぬというのも、あまりに出来すぎているくらいだった。

タナダユキ監督のふがいない僕は空を見たでは、妙に生々しいセックス描写があったが、本作はセックスもあくまでも美しく撮られている。というのも本作はあくまでもふたりのロマンスの部分が焦点となっていて、もともと哲雄のモノローグから始まっていることからしても、哲雄の記憶のなかの美しい場面を切り取って映像化したものと言えるだろう。

ガンで死んでいくことになる園子は、手術をし痩せていくわけだが、映画のなかでは手術の跡が出てくるわけではないし、抗がん剤で苦しむ様子もない。あくまでも美しく死んでいくことになるのも、本作が語り手である哲雄の記憶の物語だからだろう。哲雄の記憶のなかでは園子はいつまでも美しく、そしてスケベな女性であり続けるのだ。湿っぽくなりがちでちょっと食傷気味の題材を扱っていながらも、それを逆転してロマンスに仕上げてしまったという点でとても好感が持てた。

相川が言うことには、人間というのは失敗をやらかすものらしい。相川は会社の資金を持ち逃げされ、妻にも逃げられることになるし、哲雄も仕事上の大切なデータを後輩に盗まれるという不運な出来事に遭遇する。園子に起きたガンという病気の発症もそうした不運な出来事なのかもしれないのだが、それによって夫婦間の愛情を取り戻したわけで、これもロマンスの神様のいたずらみたいなものだったのかもしれない。そんなことを感じさせる微笑ましい作品だったと思う。

最後に付け加えておけば、ラブドールの製作会社の社長を演じたピエール瀧は、本作でわいせつ物陳列罪で逮捕され手錠をかけられることになる。あれだけ世間を騒がした後だけにちょっと笑ってしまった。

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