不要不急なことなれど……

日本映画

コロナ禍の映画館

コロナ禍においては不要不急のことは後回しにされるべきということになるわけだが、そうなると生きていく上で欠かせないものとは言えないし、ましてや今でなければならないわけでもない、映画なんてものは最初にその対象に挙げられるものとなるのだろう。

そんな不要不急な映画をわざわざ観に出かけていくのは酔狂なことなのかもしれないが、長らく平和な日々を享受してきた者としては、サバイバルよりも気晴らしのほうが問題になることも多いわけでと言い訳をしてみたくもなる。

そんな昨今の流れで煽りを食ったのが、『海辺の映画館―キネマの玉手箱』ということになるかもしれない。この映画は今年4月10日に公開予定だったものが、緊急事態宣言の影響もあって公開が延期されることになったからだ。奇しくも大林宣彦監督は公開初日であるはずの4月10日に亡くなったのだった。

(C)2020「海辺の映画館 キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

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大林宣彦の遺言

もちろん映画は万難を排してまで観に行くものではないのかもしれない。ただ、『キネマの玉手箱』の監督である大林宣彦とってはそうではなかったのかもしれない。

大林監督は肺ガンで余命宣告を受けつつこの作品に取り組んでいたわけで、遺言のようなこの作品は是非とも必要だったわけだし、遺された日々との急ぐべき闘いでもあったのだろうと思う。大林監督にとってこの映画は不要不急なものではあり得ないわけで、何としてでも成し遂げなければならない重要な仕事だったのだ。

『キネマの玉手箱』は近年の大林作品の異様なテンションを引き継いでいるのだが、今まで以上に思い切り自由な作品に感じられた。『この空の花 長岡花火物語』『野のなななのか』『花筐HANAGATAMI』の三作品は「古里映画」とか「戦争三部作」とか呼ばれるようだが、それに続く『キネマの玉手箱』は戦争を題材にしていることは共通しているのだが、古里という特定の場所から離れて、映画の世界を自由に旅する形になっているからだ。

舞台となるのは尾道の海辺の映画館なのだが、その閉館前最後のオールナイト上映でかけられるのが戦争映画の特集になっており、観客として映画を観ていた主人公たち(厚木拓郎細山田隆人細田善彦)は、その映画の中に入り込んでいくことになる。

(C)2020「海辺の映画館 キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

映画を観ることは夢見ること

ほとんど脈絡のない形で、太平洋戦争やら戊辰戦争、白虎隊やら桜隊などのエピソードが展開していく強引さには、物語を求めてしまう凡庸な観客としては、夢見心地の瞬間もなかったとは言えないのだけれど、それはそれでいいのだろうと思う。『キネマの玉手箱』では爺・ファンタ役の高橋幸宏も、観客役の犬塚弘も映画館の中で気持ちよさそうに寝ていて、「よく眠れる映画はいい映画だ」とも語られているからだ。

というのは大林監督にとって映画を観ることは夢見ることであり、夢見ることによって世界を変えることができるというのが信念だからだ。戦争がない世界を夢見ることで、必ずそれを実現することができるということなのだ。

『キネマの玉手箱』の物語を辿ることは厄介だが、あえてそうするとすれば最初に登場し前半の主役である吉田玲、そして後半部の成海璃子山崎紘菜常盤貴子という3人の女性たちの受難の物語だと言えるかもしれない。

彼女たちは戦争の犠牲者であるわけだが、戦争のない世界を夢見ることが、彼女たちを救うことにもなるということで、大林監督は観客にもそんな夢を見ることを促すのだ。あまりに真っ直ぐなメッセージと、気恥ずかしいほどの映画愛に圧倒される時間だった。

(C)2020「海辺の映画館 キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

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岩井俊二の最新作

これまた不要不急の最たるものとも思える怪獣映画が『キネマの玉手箱』と同じ日に公開された。岩井俊二監督の『8日で死んだ怪獣の12日の物語 劇場版』がそれだ。この企画はYouTubeで樋口真嗣監督が立ち上げた「カプセル怪獣計画」というものの番外編らしい。

「この時期に怪獣映画など……」と言うなかれ。この怪獣には猛威を振るうコロナウイルスを退治してくれるやもしれないという願いが込められているからだ。しかも、この映画は劇場公開と同時にオンライン上映もされており、その売上の一部(70%だとか)が劇場に分配されるのだという。

つまりはコロナで窮状にあるミニシアターを支援する目的を持っているのだ。現状ではどこの劇場でも席の間隔を空けて営業するしかないわけで(そのおかげか未だに感染者が出たという話は聞かないが)、そんな映画館の厳しい現状をおもんぱかってのことなのだ。そんな映画だから、この映画も不要不急だと切って捨ててしまうのはあまりに惜しいだろう。

(C)日本映画専門チャンネル/ロックウェルアイズ

コロナ禍での撮影

物語は、コロナウイルスを退治するために、主人公のサイトウタクミ(斎藤工)が怪獣を飼育し、その様子を動画配信するというもの。劇中の世界もコロナが蔓延していて、登場人物はそれぞれの家の中から出ることはなく、Web会議アプリであるZoomを通してつながることになる。これはコロナ禍の日常でもあるわけだが、現状ではそんな制限された撮影しかできないということでもある。

映画の撮影となれば、スタッフは密接に関わり合うことになるわけで、このままコロナの猛威が続けば、これまでのような役者たちが密接に交わる撮影は不可能になるかもしれない。それでもその制限された状況を利用して、何とか映画を作ってみようというのがこの企画なんだろうと思う。出演陣も監督と実際に会うことすらなく、すべてがリモートで操作されて出来上がった作品なのだ。

(C)日本映画専門チャンネル/ロックウェルアイズ

ささやかだし、役にも立たないが……

ちなみにカプセル怪獣というのは、『ウルトラセブン』でモロボシ・ダンが所有していた怪獣のこと。事情があってダンがセブンに変身できないときの時間稼ぎだったらしい。セブンほど強くないから、カプセル怪獣は必ず負けてしまうのだとか。その意味では、『8日で死んだ怪獣の12日の物語』も主役が出てくるまでの時間稼ぎで、岩井俊二の次の新作こそが主役と言えるのかもしれない。

カプセル怪獣は弱かったけれども、子供たちから愛される人気者でもあったようだ。それと同様に『8日で死んだ怪獣の12日の物語』も、様々な制限の中で作られ多くの弱点を抱えているものの愛らしい作品ではある。

怪獣は明らかに粘土細工に過ぎないし、通販で購入したという星人の姿は予算のなさからか無理くりな理由付けでZoom上には現れないことになっている。とはいえ、その設定をうまく利用してのんに、見えない星人を相手に独り芝居をさせるあたりはちょっと楽しい。冒頭のモノクロで撮られた人気ひとけのない渋谷の風景は、「この世の終わり」の雰囲気すら感じさせるシュールなものだったし、怪獣のお面を被ったダンサーによるパフォーマンスも見どころだろう。

誰にでもお薦めできる作品ではないかもしれないが、斎藤工のんのファンはもちろんのこと、岩井俊二作品をつぶさに追っている人なら楽しめるだろうし、ミニシアターの支援にも貢献できるのだとすれば、劇場に足を運ぶのも悪くはないんじゃないだろうか。

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