監督・脚本は『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などのギャレス・エドワーズ。
主演は『TENET テネット』などのジョン・デヴィッド・ワシントン。
物語
遠くない近未来、人を守るはずのAIが核を爆発させた—— 人類とAIの戦争が激化する世界で、元特殊部隊の〈ジョシュア〉は人類を滅ぼす兵器を創り出した“クリエイター”の潜伏先を見つけ、暗殺に向かう。だがそこにいたのは、兵器と呼ばれたAIの少女〈アルフィー〉だった。そして彼は“ある理由”から、少女を守りぬくと誓う。やがてふたりが辿りつく、衝撃の真実とは…
(公式サイトより抜粋)
AIは敵か、味方か?
AIが反乱を起こし、核を爆発させた。そんな設定のSF映画。これはSFではさほど珍しいことではないわけで、『ターミネーター』はまさにそんな話だった。自我を持ったAIは人間たちの敵に回るのだ。しかし、『ザ・クリエイター/創造者』はそこから先がまったく違ったものとなっている。
その後の世界は二つに分断される。一方はアメリカを中心とした世界で、こちらは手酷くAIにやられたことからAIを敵視する立場だ。他方はニューアジアと呼ばれる地域で、そちらはAIと共存して生きていこうとする立場ということになる。なぜそんな違いが生まれたのかは謎なのだが、そんな設定となっているのだ。
アメリカとしては、AIは危険という認識なわけで、それをさらに開発しようとしているニューアジアを許せない。そんなわけでアメリカとしては、忸怩たる思いでニューアジアに戦争を仕掛けることになる。
主人公ジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)はアメリカ側の人間だが、それを隠してニューアジアに潜入している。ジョシュアの任務はニルマータと呼ばれるクリエイター(創造者)を殺すことだ。ところが潜入先ではニルマータは見つからなかったらしい。
ジョシュアは長らく潜入捜査しているうちに、その土地のマヤ(ジェンマ・チャン)という女性と結婚することになったようで、マヤにはお腹に子供もいる。ところがある日、急にアメリカがニューアジアに攻め込んでくる。潜入捜査員であることがバレたジョシュアだが、奥さんのマヤのことを愛していたから、一緒に逃げようとするのだが、それは叶わずマヤはアメリカが落とした爆弾によって海の藻屑となってしまう。
成長する最終兵器
5年後、ジョシュアはアメリカでマヤを喪ったトラウマに苦しんでいる。ところが軍の連中がやってきて、死んだはずのマヤの映像が見つかったという。ジョシュアは一目でも彼女に会いたいと考え、ニューアジアにあるという最終兵器を破壊するアメリカ軍の作戦に参加することになる。
そこで見つかったのはマヤではなく、少女の姿をしたAIだった。アルフィー(マデリン・ユナ・ボイルズ)と名乗ることになる少女は、普通のAIではないのだという。彼女は成長するAIで、すべてのテクノロジーをコントロールする能力を身に付けている。その力が増大していけば、人間にとって大変な脅威となる。クリエイターが作り上げた最終兵器がアルフィーということになるのだ。
アメリカの目的はそんな最終兵器の破壊ということになるわけだが、ジョシュアの目的はそうではない。彼は単にマヤに会いたいという一心なのだ。だからアルフィーの力を借りてマヤを探すことになる。
それでもジョシュアはAIに対してあまりいい感情を抱いていないようだ。アルフィーに出会った時は「薄気味悪い」とも言っている。ニューアジアに潜入していたにも関わらず、アメリカ人として「AIは敵」という意識が強いのか、アルフィーに対しても冷淡でマヤ探しのために利用しようとしているだけなのだ。
ところがジョシュアはアルフィーと一緒に旅を続けるうちに、アルフィーに対して親近感のようなものを感じるようになってくるのだ。
戦っているのは誰?
『ザ・クリエイター/創造者』はオリジナル脚本ということだが、全体的には既視感もある。日本で撮影した部分なんかは『ブレードランナー』だったし、ちょっとだけ登場する飛行機(?)のデザインは『ターミネーター』に出てきたそれみたいだったし、ほかにも色々とオマージュを捧げているものがあるらしい。
アルフィーの能力はまだ成長過程だ。周囲の機械のオン/オフを自由に操れるというのがその能力だが、それが存分に活かされている印象もないし、その成長がほとんど感じられなかったのは惜しいところかもしれない。
ほかにも残留意識を拾い上げる装置とか、自爆ロボットなど、単純にガジェットとしておもしろいものはあったと思う。ギャレス・エドワーズ監督はオタク的な感性に溢れた人らしいので、そんな細部を楽しむ映画なのかもしれない。
それでも全体的にはツッコミどころも多い気もする。そもそも本作の最初に描かれたのはAIが人類を敵に回したという設定だ。しかし、「AI対人類」みたいに単純ではないから、何と何が戦っているのかがわからなくなってくる気もした。
AIつまり人工知能は、テクノロジー(科学技術)の最たるものだろう。アメリカ側はそのAIを否定しているにも関わらず、ノマドという兵器を最大の武器としている。
これは上空に浮かんだ超巨大な衛星みたいなもので、上空から青い光で地上をスキャンし、ターゲットの位置を正確に特定して爆撃を加えることになる。ここに使われているのは人工知能ではないという設定なのかもしれないけれど、何らかのテクノロジーであることには変わりないだろう。
それから多分、アメリカ軍の兵器だったと思うのだが、自爆ロボットだってそうだろう。この自爆ロボットはなぜか言葉をしゃべることができる。特攻隊員みたいに別れの挨拶なんかをしてみたりして敵に突っ込んで自爆するのだ。ここに使われているものだって何らかのテクノロジーだろう。
そして、ニューアジアの側にはもちろんAIがたくさんいる。警察官はAIが搭載されたロボットだし、一般市民は戦争には参加しないようなのだが、戦争に参加しているのは渡辺謙演じるハルンなどのAI軍団と呼ばれるものだ。
結局どちらの陣営でも何らかのテクノロジーを使っているわけだし、アメリカ軍の一部だけは人間だったけれど、途中から何と何が戦っているのかよくわからない感じもしてきたのだ。
脅威よりも勝るもの
さらに、そもそも「AIが核爆弾を使った」という最初の設定が、アメリカの嘘だったことが明らかになる。実際の核爆発はアメリカのヒューマン・エラーによって起きたのに、それを隠すためにAIを敵に仕立てあげたということらしい(マヤが生きていたというのも、アメリカ軍がジョシュアを担ぎ出すための嘘だったのだろう)。
現実のアメリカも「イラクには大量破壊兵器がある」と嘘をついて侵攻するわけで、そんなこともあり得るのかもしれない。そんなわけでAIとしては「いい迷惑」ということになるのだろう。尤も、AIがそんな感情を抱くとすればだが……。
本作のAIやロボットはほとんど人間と変わらない存在として描かれている。人間の姿をしたシュミラントと呼ばれるAIはもちろんのこと、自爆ロボットみたいなロボットすら感情があるように見えてくるのだ。アルフィーを演じたマデリン・ユナ・ボイルズはまだ幼いのに演技が達者だったが、それはアルフィーが感情を抱いているということは前提になっているだろう。
AIの受け答えは単なる機械の反応に過ぎないと考えていては、ラストのマデリン・ユナ・ボイルズの複雑な表情を感動的なものとして受け取れないわけで、当然ながらアルフィーは人間的な感情を抱いているということなのだろう。
そんな人間的な感情を持つAIはもはや人間と何の差異があるだろう? だとしたらAIはいつまでも従順に人間の命令を聞いているということがあるんだろうか? AIに対して否定的なアメリカ人ならそんなふうに考えるだろう。
AIは感情を持つのか否か。これは大きな問題だと思うのだが、本作はそこはスルーしている。そして、素朴にAIは人間に対する脅威ではないし、共存していけるという話になっているようにも感じられる。これはちょっと楽天的なのかもしれない。
ギャレス・エドワーズは『スター・ウォーズ』の外伝『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』を撮っている。『スター・ウォーズ』に登場するC-3POやR2-D2みたいなロボットは会話もできるし、感情があるようにも見えた。『ローグ・ワン』でもそんな愛らしいロボットキャラが登場していた。
ギャレス・エドワーズとしてはそんなロボットたちへの親近感のほうが、AI脅威論よりも勝るということなのだろう。そして、それは単純に人間的な感情論なのかもしれない。
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