『さらば愛しきアウトロー』 破滅型の主人公は時代遅れ?

外国映画

『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』などのデヴィッド・ロウリー監督の最新作。

原題は「The Old Man and the Gun」

物語

実在の銀行強盗フォレスト・タッカーの物語。

トレンチコートに中折れ帽というスタイルで、いかにも紳士然として颯爽と銀行に現れたフォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)は、支配人に声をかけるとこっそりと服のなかに忍ばせた銃を示す。そして、笑みを浮かべたまま銀行の金を奪い、何事もなかったかのように去っていく。

銀行強盗をするような輩は何としても金が必要という事態にあり、切羽詰った人間は焦って銃をぶっ放したり大声で怒鳴り散らしたりもする。それに対してフォレスト・タッカーは暴力的な行動は一切ない。常に紳士的で笑みを絶やさず、被害者であるはずの銀行員も彼のことを「幸福そうに見えた」などと言い出す始末。そんなタッカーは銀行強盗の常習犯で、全米各地を回っては犯行を繰り返していたのだ。

ロバート・レッドフォードの俳優としての引退作品

本作は1960年代から今に至るまで、長らく第一線で活躍してきたロバート・レッドフォードの俳優としての引退作品になる。実際には『アベンジャーズ/エンドゲーム』のほうが製作は後になるらしいのだが、主演作品となるとやはり本作が最後ということになる。

『明日に向って撃て!』『スティング』『華麗なるギャツビー』『オール・イズ・ロスト 〜最後の手紙〜』などなど様々な名作に出演してきたロバート・レッドフォードも、もう80歳を超えている。確かにシワは増えてはいるかもしれないのだが、まだまだやれそうな感じもある。本作は『ピートと秘密の友達』でもタッグを組んだデヴィッド・ロウリーが、そんなロバート・レッドフォードやその出演作品に最大の敬意を払う形で作り上げた作品となっている。

最後に引用される『逃亡地帯』は1966年のロバート・レッドフォードの出演作品とのことで、何とも若々しい姿を拝見することができる。ちなみにこの作品はアーサー・ペン監督作品で、アーサー・ペンはこの次の年に『俺たちに明日はない』を撮ることになる(『逃亡地帯』は不勉強で今回初めて知った作品なのだが、ちょっと気になる)。

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独自なスタイルを貫く銀行強盗

タッカーには自分のスタイルがある。彼は銃を持ってはいるものの、決して使うことはない。狙う銀行の様子を窺い、チャンスを待ち、あくまでもスマートに現金を奪う。しかし、時には失敗することもある。その時はもちろん逃げることになるが、無駄な抵抗はしない。捕まる時には丁重にお縄を頂戴して、刑務所に入ることになる。そこからまた別のお楽しみが待っていて、タッカーは刑務所から脱獄することも銀行強盗と同様の楽しみと考えているようなのだ。

タッカーは楽に生きるなんてどうでもいい。楽しく生きたいと語る。タッカーにとって銀行強盗もその後の脱獄も楽しく生きるためなのだ。彼は誰も傷つけないし、銀行は保険で損害を賄える。だから誰に悪びれることもないし、改心して生き方を変えることもないのだ。

Photo by Eric Zachanowich. (C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

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破滅型の主人公はカッコいいけれど……

デヴィッド・ロウリー監督の『セインツ ‐約束の果て‐』は現代版の『俺たちに明日はない』とも言われる作品で、『ボーイ&キーチ』『地獄の逃避行』の影響を感じさせる作品になっていた。

『俺たちに明日はない』は実在の銀行強盗ボニーとクライドの物語であることは有名だが、ボニーとクライドが現実にも射殺されたように、『俺たちに明日はない』『ボーイ&キーチ』『地獄の逃避行』も破滅型の主人公を描いていくことになる。ロバート・レッドフォードの主演作で、同時期の『明日に向って撃て!』でも同様のラストを迎えることになる。

実在の銀行強盗をモデルとした本作もそうした作品の影響下にあって、スーパー16のフィルムを使って70年代の映画の雰囲気を再現し、タイトルバックも昔風のスタイルを真似たりしている。しかし『さらば愛しきアウトロー』が上述の作品群と異なるのは、タッカーという主人公が破滅していくような生き方を否定しているということだろう。破滅型の主人公たちが追い詰められて自滅していくのはある意味では甘美なものがあるわけだが、タッカーはそれを自分のスタイルではないと拒否するのだ。

破滅型の作品が後半になるにつれて深刻さを増していくのに対し、本作では後半に行くほど軽妙さを増していく。過去の脱獄16回もあっさりと語り、タッカーは「次も」と意気込むのだが、面会に来たジュエル(シシー・スペイセク)にたしなめられると素直にあきらめてしまう。無理なことはするべきではないし、生きてなければ楽しいことができないじゃないかとでも言わんばかりなのだ。そして、出所してジュエルと暮らし始めてからも懲りずに銀行強盗を繰り返すというのも、どこまでもタッカーらしい生き方だった。

デヴィッド・ロウリーは破滅型の主人公のカッコよさを知りつつも、『さらば愛しきアウトロー』ではもっと別のカッコよさを見せたかったのかもしれない。「生きて楽しまなければ損じゃないか」とでも言いそうなフォレスト・タッカーという主人公は、銃をぶっ放したり破滅したりもしないわけだが、最後まで人生を楽しんでいるところが何よりもカッコよかったと思う。そして、ロバート・レッドフォードでもなければ、その飄々たるカッコよさは出せなかったんじゃないだろうか。

最後にその他の出演陣について触れておくと、ジュエル役のシシー・スペイセクはとても素敵な年齢の重ね方をしていたと思う。そのシシー・スペイセクは『地獄の逃避行』にも主役のひとりとして出ていたわけで、この人選にもこだわりを感じる。

タッカーを捕まえようと奮闘するのはジョン・ハント役には、デヴィッド・ロウリー作品の常連ケイシー・アフレック。トイレでタッカーと遭遇したときに、ジョン・ハントがタッカーを捕まえなかったのは、タッカーが銀行強盗を楽しんでいるようにジョン・ハントもその仕事を楽しみたかったからだろうか。

それから銀行強盗仲間のダニー・グローヴァートム・ウェイツという渋い面々も味があった。

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