『オールド』 シャマランがすべてをコントロール

外国映画

『シックス・センス』『スプリット』などのM・ナイト・シャマランの最新作。

原作は『Sandcastle』というグラフィックノベルとのこと。

物語

家族旅行で訪れた秘密のビーチ。そこはホテルの支配人がこっそり案内してくれたプライベート・ビーチだった。ごく限られた人しか入れないその場所は、誰もが驚くほど美しい場所だった。しかし、そこでひとりの女性の死体が見つかる。さらに老人が死に、ペットの犬が死ぬ。

このビーチでは何か不思議なことが起きている。そんなふうに感じた人々はそこから抜け出そうとするものの、ビーチを離れようとすると眩暈が起こり倒れてしまう。そして、気がつくとさっきまで幼かった子供たちがいつの間にか別人のように成長していた……。

奇妙な設定

『オールド』シャマランの最新作だが、珍しく原作が存在するらしい。それをシャマラン流にアレンジして出来上がったのが本作だという。それでも「何が起きているのかわからない」という導入部はシャマランっぽいと言えるかもしれない。

高くそびえる岩に囲まれたビーチは、岩に含まれる鉱物が人体や動物に影響を与えるようで、細胞の成長が加速されることになるらしい。キャッチコピーによれば「そのビーチでは一生が一日で終わる」ことになる。それほどの急激な成長(あるいは老化)をすることになるのだ。ちなみに劇中の台詞でも「時間が流れるのが早い」などとも言っているから勘違いしやすいのだが、時間の流れは同じなのだが肉体が加速度的に老化していくことになるのだ(ビーチで過ごすのは1日だけだ)。

だから夜が来る前に老人やペットは死んでいき、子供たちは青年へと急速に成長することになる。すでに成人している大人はそれほど変化は見られないのだが、確実に老化は進行し、そのビーチで一日を過ごすことになれば、誰もが一生を終えることになってしまうのだ。

(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

混乱とパニック

そのビーチを訪れた客たちは最初は事情がわからない。突然次々と人が死ぬわけで異常なことが起きていることがわかっても、それが肉体の急激な老化によるものとわかるまでには時間がかかる。しかも、なぜかビーチを離れようとすると突然の眩暈に襲われ、そこから抜け出すこともできないのだ。

群像劇である本作において、一応メインのキャラとなっているのがガイ(ガエル・ガルシア・ベルナル)とプリスカ(ヴィッキー・クリープス)の夫婦で、ふたりにはマドックス(11歳役はアレクサ・スウィントン/16歳役はトーマサイン・マッケンジー)とトレント(15歳役はアレックス・ウルフ)という子供がいる。ビーチから抜け出せないと知ったガイは、プリスカの病のことを思い心配する。プリスカは悪性の腫瘍を抱えていて、今後治療が必要になることがわかっていたからだ。

実はこのビーチに集まっていた人たちは、その多くが病を抱えていることが明らかになる。てんかんを抱えた女性もいるし、ラッパーの男は鼻血が止まらない。カルシウム欠乏症の女性もいるし、その旦那の外科医が次第に狂ってくるのは統合失調症を患っていたからだった(これは後になって判明する)。

のんびりとバカンスを過ごすはずだったビーチが突然逃げ出せない危険な場所となる。そうなるとパニックを起こす者もいて、外科医の男は次第に被害妄想に駆られ周囲の人を斬りつけるような状態になっていくのだが……。

※ 以下、ネタバレあり! オチにも触れているので要注意!!

(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

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ネタバレ厳禁のオチ!

ここから先はオチにも触れないと何も書けそうにないのでネタバレしてしまうと、これは製薬会社がやっていた治験のためだったということになる。そのビーチに集められた人の多くが病気を抱えていたのは、ウェルカム・ドリンクという名前の薬を飲まされ、実験対象としてそこで過ごしてもらうためだったのだ。「そのビーチでは一生が一日で終わる」ほど老化が進むのが早いわけで、長期間に渡る治験を行っているのと同等の効果が得られるということになるわけだ。

この時行われていた治験では、ひとつの病に対して薬の効果があったとされる。てんかんの女性はしばらくその症状が抑えられていたからだ(統合失調症の薬は効かなかったため、外科医は狂い出す)。その薬は今後世の中に出回ることになるのだろう。

製薬会社は彼らのような病気を抱えた人たちを騙してビーチに誘いこみ、知らないうちに治験に参加させていたのだ。ビーチからは抜け出せないわけで、彼らはみんな死んでしまうことになるわけだが、その尊い犠牲によってほかの多くの患者を救うことができる。そんな高尚な理由を付けて非人道的な実験を続けていたというわけだ。

(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

シャマラン印

ビーチでなぜそんな不思議なことが起きるのかはわからない(色々と理屈は語られるけれど)。ただそれを知った製薬会社はそれをうまく利用する方法を見つけたということになる。『コンティニュー』の時にも感じたことだけれど、「馬鹿と鋏は使いよう」ではないけれど、ビーチをそんなふうに悪用しようなどと考える人がいるというのがビックリするところ。

原作は読んでいないのだが、どうもこのオチは映画独自のものらしい。つまりはこのオチはシャマランの付け加えたオチであり、このとんでもないビーチの悪用方法を考えたのもシャマランなのだ。原作ではビーチにいた人たちはすべて死ぬことになるだけで、映画のようなオチはないらしい。『オールド』でも、ガイとプリスカのふたりが死ぬ場面は原作のラストを受け継いだところなのかもしれない。

ガイは保険数理士で未来のことばかり考え、プリスカは博物館で働いていて過去のことに執着している。ふたりは正反対の夫婦で、離婚の話し合いをしている状態だった。しかし、そのビーチを訪れたことで事態は急変する。突然余命半日という状況に追い込まれたわけだ。その時点で生き残っているのはガイたち一家4人のみで、残りの人たちはすべて死んでしまった。ガイとプリスカもあとわずかで命が尽きることがわかっている。そして、そこから逃げる方法もなさそうだ。そんな状況の中でふたりはある種の諦念に達し、穏やかに死んでいくことになるのだ。

多分ここが原作の核なのかもしれないけれど、「オチありき」といった感じすらあるシャマランとしては、そんないい話で終わらせるわけにはいかなかったのかもしれない。シャマランは冒頭から観客に挨拶として顔を出す。「ネタバレは厳禁」とでも語るのかと思っていると、「やはり映画は大きなスクリーンで見ないとね」などと語り出す。これは“コロナ禍”が念頭に置かれた言葉だ。その対策としてのワクチン製造は急務だったわけで、オチへ向けてのヒントだったと思えなくもない(シャマラン作品ではあちこちにオチのヒントが隠されているから)。

さらにシャマランは劇中にも登場し、客たちをビーチへと送り届け、遠くからそれを監視する役割も果たしている。そして、成長して50代になったマドックス(エンベス・デイヴィッツ)とトレント(イーモン・エリオット)が逃げ出すところを見逃して、自分たち製薬会社を破滅に導いたのもシャマランだった。原作はあるとはいえ、やはりシャマランがすべてをコントロールしているかのような映画だった。

(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

「セス・アイボリーの21日」

本作のこの奇妙な設定だが、星野之宣の短編マンガ「セス・アイボリーの21日」(『MIDWAY 宇宙編 自選短編集』所収)の設定もほとんど同じものとなっている。このマンガの舞台は宇宙で、さらにクローン技術なども発達している世界となっている。だからセス・アイボリーは自分の寿命が尽きる前に自分のクローンを作ることになる。しかし、たとえ自分とまったく同じ肉体を持ったクローンだとしても、それを自分と同一視することができるわけではないわけで、そのあたりがこのマンガでは描かれることになる。

私がこのマンガを知ったのは、哲学者・永井均『マンガは哲学する』という本で紹介されていたから。永井は「セス・アイボリーの21日」というマンガから「意味ある生の成立条件」というものを考察するわけだが、そんな哲学的な命題を感じさせるマンガとなっているのだ。

“急速な老化”という設定は、人生の意味みたいなものを考えさせるものがあるようだ。人生100年などと喧伝される今、それが突然ウスバカゲロウほどの寿命しかなくなったとしたら一体どんな気持ちになるだろうか? ただしシャマランの『オールド』は、オチへの誘惑に抗しきれずにシャマラン独自の世界になってしまっているから、そんな哲学的命題は感じさせることはないのだが……。

Bitly

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