原作は『高慢と偏見』などのジェーン・オースティンの同名小説。
監督はオータム・デ・ワイルド。本作が長編映画デビュー作とのこと。
主演は『ラストナイト・イン・ソーホー』や『クイーンズ・ギャンビット』などのアニャ・テイラー=ジョイ。
2020年に製作された作品で日本では劇場未公開だったらしいが、現在はNetflixで配信中。
物語
エマ・ウッドハウスは美人で頭が良くお金持ち。もうすぐ21歳になるが、人生の悲しみや苦しみをほとんど知らずに生きてきた。エマは自分では「結婚願望はない」と語り、人のために自分が恋のキューピッド役になることを望んでいる。
現在、ご執心なのは、身寄りがないハリエットの結婚相手を見つけることだった。エマはハリエットの結婚についてアレコレ意見し、彼女が幸せになるように取り計らうのだが……。
ドールハウスのような世界
ジェーン・オースティンの小説は一度は読んでみなくちゃと思いつつも何となくスルーしてきてしまったのだが、映画化された作品は『いつか晴れた日に』や『プライドと偏見』などを観ている。そんな映画化作品から判断すると、ジェーン・オースティンの映画はいつも女性の恋愛、というか結婚問題ばかりを題材にしているらしい。
Netflixでは、新作としてダゴタ・ジョンソン主演の『説得』というジェーン・オースティン作品が配信されていて、こちらも大方そんな話となっている。
その流れで『EMMA エマ』も観ることにしたのだが、個人的には『EMMA エマ』がとてもかわいらしくてよかったので、こちらをレビューすることにした。
『EMMA エマ』の世界は、まるでドールハウスの世界みたいに見える。ジェーン・オースティン作品に出てくる家は総じて豪邸とも言えるような作りだ。『説得』に登場する豪邸もとても立派なのだが、本物の邸宅を使って撮影しているようなリアルさがあるのに対して、『EMMA エマ』の家の内装はまったく生活感というものがない。部屋の中は新築のモデルハウスのようにキレイで、パステルカラーの壁に花が描かれていたりするようなガーリーな雰囲気に満ちているのだ(ソフィア・コッポラの『マリー・アントワネット』と雰囲気は似ているかもしれない)。
そこに登場する金髪で巻き髪のエマ(アニャ・テイラー=ジョイ)もお人形さんのようで、鏡の前に立つ時には、お立ち台のようなものの上に立ったりしている。その姿は何かしらのフィギュアみたいにも見えてくる。さらに、エマはシーンが変わる度に別の衣装に着替えることになり、本作ではエマはまるで着せ替え人形風に演出されているのだ。
ちなみに本作はアカデミー賞の衣装デザイン賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされていて、それだけ衣装にはとてもこだわりを感じさせる。劇中でナイトリーという登場人物が服を着替えるシーンがあるのだが、そこでは真っ裸にワイシャツだけを羽織る姿が描かれている。ちょっと前に観た『帰らない日曜日』でも、ジョシュ・オコナーが下半身まる出しのままワイシャツを羽織る姿が揶揄されていた。この姿はどうしてもどことなく滑稽に見えてしまうのだ。
しかしながら、『EMMA エマ』を見ると、この着方が由緒正しい着方であるということが理解できる。というのも、昔のワイシャツは裾が長く、それをパンツの代わりにしていたらしい。だから先にズボンを履いてしまっては、きちんとした着方はできないことになるのだ。だから『帰らない日曜日』の滑稽な姿も、由緒正しいワイシャツの着方を示していたということだったらしい。『帰らない日曜日』を観た時はそのあたりがよくわからなかったのだが、『EMMA エマ』は衣装にはとてもこだわっていて、そんな謎が解けた気もした。
関心事は恋愛ばかり
最初に字幕で説明されているように、エマは「人生の悲しみや苦しみをほとんど知らずに生きてきた」お嬢様だ。ほかの登場人物もほとんどが仕事らしい仕事からは解放されているような身分で、恋愛にうつつを抜かしていると言ってもいいのかもしれない。日本で言えば、親からの仕送りを受けている大学生みたいなもので、すべての関心事は恋愛ということになっている。
もちろんこの時代の女性にとって、結婚問題はその後の人生を大きく決定することになるわけで、そこが大きなターニングポイントとなることも確かで、それだけに誰にとっても大きな関心事となるということでもあるのだろう。
そんな恋愛ゲームの登場人物は結構多いし、最初はエマが誰に気があるのかもよくわからない。エマは結婚願望はないと言いつつも、やはりまったく気にならないわけではないわけで、ハリエット(ミア・ゴス)の相手を探しているようでいて、自分の相手を見つけようとしているようにも見える。
朗らかで女性にモテる牧師のエルトン(ジョシュ・オコナー)や、莫大な遺産を相続することが決まっているフランク(カラム・ターナー)など、魅力的な男性が登場する。その中でエマが最終的に選ぶことになるのは、いつもすぐ近くにいたナイトリー(ジョニー・フリン)という男性だ。彼だけはいつもエマの傲慢な態度を非難し、彼女を叱ってくれる男性だったのだ。
お人形さんに血が通う?
お人形さんのようだったエマが、後半では「私は許し難いほどのうぬぼれ屋で傲慢だった」と認め、さめざめと涙を流すことになる。さらにはナイトリーに告白された際には、興奮したのか鼻血を出してしまうことになる。お人形のようだったエマに人間らしく血が通ったということなのかもしれない。
このシーンでは、エマを演じているアニャ・テイラー=ジョイが本当の鼻血を出してしまったのだというのだからちょっとビックリする。確かに血を拭った跡とかが妙に自然だったのは、リアルな血だったかららしい。
本作はアニヤのお人形さんのような姿が一番の魅力であることは間違いないのだが、脇役もなかなか気が利いている。
ミア・ゴスが演じたハリエットはエマに心酔して振り回される役柄だが、ハリエット自身がとても性格がよくて憎めない女性であることが伝わってきて、ハリエットが最終的には望んでいた相手と結婚することが決まって安堵させられることになる。それから『帰らない日曜日』でも上流階級を演じていたジョシュ・オコナーは、本作では牧師の役で登場し、あちこちで愛想を振り撒きハリエットを勘違いさせる伊達男を楽しそうに演じていて、これもまた魅力的だった。
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