『コンテイジョン』 予見ではなくシミュレーション?

外国映画

スティーヴン・ソダーバーグ監督の2011年の作品。

タイトルの「コンテイジョン」は、「接触感染」を意味するのだとか。

ついに緊急事態宣言が出されるまでになってしまった新型コロナウイルスで改めて注目されることになった作品。

物語

香港からの出張から帰ってきたベス(グウィネス・パルトロウ)は風邪のような咳をし始める。しかし、ただの風邪ではなかった感染症はたちまち悪化し、ベスは数日で泡を吹いて倒れ、救急車で運ばれることに。

夫のミッチ(マット・デイモン)はなすすべもなく、ベスが原因不明の病で死んでいくのを唖然として見守るばかりだった。同じ頃ロンドンや東京でも似たような症状で亡くなる人が出始め……。

新型コロナウイルスを予見?

『コンテイジョン』が今になって話題に上っているのは、この映画で描かれていることがまさに今世界中で起きていることそのものに見えるからだろう。本作を2011年当時に観た人はどんなふうに感じたのだろうか。ウイルスが世界中に一気に広まるあたりを嘘っぽく感じたり、あるいはパニック映画的に緊張感を煽り立てることもなく、静かなテンポで進んでいく雰囲気に地味なものを感じたのかもしれない。

しかし現在のコロナ禍の只中にこの作品を観ると、とてつもなく恐ろしいものに感じられる。この作品で描かれていることはフィクションのはずだが、現実に起こり得ると知ってしまったからだろう。

『チェルノブイリ』『Fukushima 50』などは現実の出来事を、映画のほうがトレースしているわけだが、本作ではその逆に映画というフィクションを現実のほうがトレースしていっているようにすら感じられるのだ。

(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

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ウイルスパニック映画

ウイルスによるパニックを描いた作品はこれまでになかったわけではないようだ。私自身は観ていないが、日本の作品でも『復活の日』(1980年)や『感染列島』(2009年)などがあるらしい。

多少なりとも話題を集めた作品としては『アウトブレイク』(1995年)があるだろう。『アウトブレイク』はエボラ出血熱風のウイルスを題材にした作品で、エンタメ寄りの作風になっている。その分極端な部分もあり、ロックダウンした街を住民丸ごと始末しようと画策するなど、嘘くさく感じる面もあるかもしれない。

もちろん嘘くさくてもエンタメとしては楽しめる側面もあるし、パニック映画としてなら『アウトブレイク』のほうがハラハラさせてくれるかもしれない。『アウトブレイク』では、空気感染するようになったウイルスが映画館でさらに感染拡大するシーンもある。劇場で鑑賞していたとしたら、とても嫌な気持ちになって劇場から逃げ出したくなったかもしれない。デリカシーに欠ける(?)たったひとりの咳によって、ウイルスがどんどん広がっていくことが示されるからだ。

一方で『コンテイジョン』は、エンタメ的な展開を排除している。だから派手さはないのだが、今となってはそこにかえってリアリティを感じる。感染者が触れた手すりなどがクローズアップされるだけで、そこに見えない何かが存在しているようにも見えるからだ。『コンテイジョン』は監督がスティーヴン・ソダーバーグだからか、有名なスターたちが顔を揃えているのだが、そのスターが演じる登場人物たちはあっけなく死んでいく。ウイルスによる災いは誰にも等しく降りかかるとでも言うように……。

予見ではなくシミュレーション?

『コンテイジョン』では、「もしも新種のウイルスが登場したら?」という専門家たちのシュミレートをもとにしているんじゃないかと思われる。出演者であるケイト・ウィンスレットマット・デイモンが登場する、新型コロナの予防策などの情報を発信する公共広告キャンペーン動画を見ると、製作当時に科学者からの助言を得ていたことも語られている。

本作の最後には映画のなかで猛威を振るった架空ウイルスのワクチンが、SARSや豚インフルエンザと一緒に保管される。SARSや豚インフルエンザは現実に存在するもので、映画では「もしも新種のウイルスが登場したら?」という仮定の話が描かれることになる。ただ、この場合の「もしも」はとても蓋然性が高いものだったと言えるのかもしれない。本作のなかでも説明されているが、ウイルスは常に変異し続け、宿主に順応するようになっていくからだ。

本作に登場する架空のウイルスは、コウモリが媒介となって発生したことになっているのだが、すでに2002年から2003年にかけて発生したSARSの時に、コウモリが媒介となっているということは言われていたらしい。だから新種のウイルスが発生するとしたら、映画でもコウモリが選ばれるというのはシュミレーションとして当然のことだったのかもしれない。

つまりは本作で描かれていることはフィクションというよりは、「もしも新種のウイルスが登場したら?」という仮定をシュミレーションしてみれば、当然起こり得る出来事だったということなのだろう。それは一部の専門家にとっては周知のことであり、いつ起きてもおかしくないことだったのだ。だからこそ本作に描かれたウイルス騒ぎの様子が、まるで現実の新型コロナウイルスを予見していたように思えてしまうし、そうした危機感のない一般人としては、フィクションで描かれたことを現実が模倣しているようにすら見えてくるということになるのだろう。

今後の展開は?

というわけで本作は専門家の知見もかなり取り入れられていると思われ、だからこそ新型コロナウイルス対策にも有効と思われる情報もたくさん盛り込まれている。感染が拡大すれば生じるであろう医療現場での問題なども描かれ、政府などが配慮しなければならない点にも目配りがされている。

人混みは危険だから避けなければならないことや、人は一日に何度も顔を触るから、それによってウイルスに感染する危険があるということ。今では盛んにニュースなどで啓蒙されているこれらの情報だが、すでに本作にはそうしたものが網羅されている。さらに感染しても症状が出ない場合もあることも言及されるし、人が家にこもることでスーパーなどでは買い占めが始まることも描かれている。その意味で新型コロナウイルスという災いを知るために極めて役に立つ作品と言えるだろう。

(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

ちなみに『コンテイジョン』では、現実には起きていない出来事も描かれている。ひとつはジュード・ロウ演じる詐欺師が、動画サイトで人々の不安感を煽り立て、金もうけをしようと企むというエピソード。それからもうひとつはウイルスに対するワクチンができた後の騒動についてだ。

現実では新型コロナウイルスのワクチンはまだできていないが、これは今後必ず登場してくるものだろう。『コンテイジョン』では出来上がったばかりのワクチンを巡ってもトラブルが発生する。数少ないワクチンを巡り一部で争奪戦のような形になるわけだが、現実にワクチンが出来たときはどうなるのだろうか。余計なトラブルでせっかくのワクチンが必要な人に届かないようなことにならなければいいのだが……。

昨日の緊急事態宣言を受けて、映画館も軒並み休館になりそうな状況だ。毎週新作映画を楽しみに生きている映画好きとしては何とも残念なことだけれど、こればかりは致し方ない。おとなしく家にこもり、動画配信サイトでこれまで観られなかった作品でも楽しむことにしようと思う。ちなみに今回言及したウイルス関連の作品『コンテイジョン』『アウトブレイク』『復活の日』『感染列島』はU-NEXTで配信中とのこと

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