『チャレンジャーズ』 テニスとはアレである

外国映画

監督は『ボーンズ アンド オール』などのルカ・グァダニーノ

脚本はジャスティン・クリツケス

主演は『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』などのゼンデイヤ

物語

人気と実力を兼ね備えたタシ・ダンカン(ゼンデイヤ)は、絶対的な存在としてテニス界で大きな注目を集めていた。しかし、試合中の大怪我で、突如、選手生命が断たれてしまう――。選手としての未来を失ってしまったタシだったが、新たな生きがいを見出す。それは、彼女に惹かれ、虜となった親友同士の2人の男子テニスプレイヤーを愛すること。だが、その“愛”は、10年以上の長きに渡る彼女にとっての新たな<ゲーム>だった。はたして、彼女がたどり着く結末とは――。

(公式サイトより抜粋)

ふたりを見守る女性

公式サイトの「あらすじ」を読むと、主人公はゼンデイヤが演じるタシ・ダンカンであり、タシの10年以上にも渡る紆余曲折の人生が描かれているように読めなくもない。ところが実際には主役は3人おり、その関係性もまったくわからないところから始まることになる。

『チャレンジャーズ』で最初に描かれるのは、パトリック(ジョシュ・オコナー)とアート(マイク・ファイスト)のテニスの試合だ。このふたりの関係も謎だが、ふたりがそれぞれ意識し合っている人がいて、それが観客席にいるタシなのだ。タシという女性はふたりにとってどんな関係なのか? そんなところからスタートする。そこから先は現在時での試合の進捗と共に、何度も過去へと遡ることになり、次第に3人の間にある因縁が明らかになるのだ。

現在時のパトリックとアートはいがみ合うような険悪な関係に思えるけれど、かつてはそうではなかったらしい。同じテニス・スクール出身で、ペアを組みジュニア大会ではふたりで優勝を勝ち取った仲なのだ。ただしテニスの腕前としてはパトリックのほうが上で、シングルスの決勝ではアートは自分の活躍を楽しみにしている家族のために「負けてくれ」と頼んだりするほど実力差がある。

ふたりは同じジュニアの大会でタシと出会う。タシは将来を嘱望されたテニス選手で、すでにスポーツメーカーとの契約を結んだりしている。すべてにおいて成功を勝ち取っているのがタシという女性で、ふたりはすぐにタシに夢中になるのだ。

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3人の関係性は?

男ふたりがタシに夢中になり、三角関係のような形になるわけだが、タシはふたりのことを手玉にとっているように見える。タシはシングルスの決勝戦で勝ったほうと付き合うという約束をするのだ。

その時に勝ったのはパトリックで、パトリックとタシは付き合うことになるのだが、人生は何が起きるかわからない。タシはパトリックとのケンカで気が立っていたからか、大学時代の試合中に足をケガすることになってしまい、テニス選手としての道は閉ざされてしまうことになる。

そんなタシに献身的に付き添ったのがアートで、その後はタシはアートのコーチとして働くことになる。そして、二人三脚でプロのテニスプレーヤーとして活躍することになり、ふたりは結婚することになる。タシはコーチとしてアートを支えることで、別の形で夢を叶えることになったと言えるのかもしれない。

一方のパトリックはプロとしては大成せず、今ではツアーの費用を賄うこともできないほど落ちぶれている。マッチングアプリでデート相手を探し、その日の宿を何とか確保しているような状態なのだ。

「グランドスラム大会」と呼ばれる最高ランクの大会で優勝するなど輝かしい成績を収めているアートと、ランキング200位あたりをうろついているパトリック。そんなふたりが試合で顔を合わせることはない。ところがアートはケガした後のスランプを解消するために、「チャレンジャー大会」と呼ばれる低いランクの大会に出場することになり、久しぶりに闘うことになったというのが現在時で進行中のふたりの闘いということになる。

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テニスとは何ぞや?

タシは「テニスとは何か」という問いに対して「関係性」だと答えている。これは多少強引なところがあるけれど、何を言わんとしているかと言えば、テニスというのは対戦相手との関係であり、観客との関係でもあり、要は人との関係であるということであり、それは性的な関係でもあるということになる。だからそこにはエクスタシーがあったりもするわけで、つまりはテニスはセックスであるということなのだ。本作のテニスはそんなものが仄めかされているということになる。

タシはテニスに入れ込んでいて、テニスの最高の闘いを見ることを望む。3人が最初に出会った時に、タシが自分をダシに使ってふたりをけしかけたのも、ふたりが本気で闘うところが見たかったからということになる。タシにとってはテニスはやるだけのものではなく、最高の試合を見ることができれば、それは観ている側にとっても快感になるということなのだ。

そんなタシがアートと結婚し、子供を授かることになったのは、テニスに求めていた快感とは別の現実的な生きる手段だったのだろう。だからチャレンジャー大会でもタシはパトリックにアートに勝ちを譲るように依頼し、アートに自信をつけさせようとする。ところがここでも予定が狂うことになるのは、パトリックがアートだけにしかわからないやり方で彼を挑発し、ふたりは本気で闘うことになってしまうからだ。

ただ、タシは途中から最初の計画はどうでもよくなってくる。もともとテニスに求めていたのは最高の試合を見るという快感だったわけであり、パトリックとアートの試合はタシにそんな快感を与えるものだったわけだ。人生設計としては狂ったかもしれないけれど、それとは別の高揚させる瞬間がそこにはあったのだ。

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チャレンジャーとは誰?

後半は幾分か間延びした感じもあるけれど、ラストのテニスのシークエンスがとてもいいので、一気に盛り返した感がある。このシークエンスではカメラは忙しなく動き回りほとんど無茶苦茶なことをやっていて、突如としてコートの下からふたりの姿を捉えてみたりする。ラリーの連続に合わせるように音楽も高まっていき、クライマックスはまさに絶頂に達した感じで終わることになる。この高揚感は滅多にないものだっただろう。

意外なのは本作がルカ・グァダニーノの監督作だということで、これまで観た作品ではこんな賑やかなスタイルではなかったわけで、若々しいものすら感じさせる撮り方だったのだ。チャレンジャーだったのは、何よりも監督自身だったとも言えるかもしれない(ゼンデイヤはプロデュースにも関わっているらしいので彼女もチャレンジャーだが)。

そもそもパトリックとアートはタシを奪い合う関係であり、敵同士とも言えるけれど、その前まではふたりは特別な間柄だった。そこには無意識的な同性愛みたいなものがある。学食でふたりがチュロスをかじるシーンの距離感は、あからさまにそんなものを意識させるシーンになっている。

タシは最初からそれに気づいていたのかもしれない。タシが初めてふたりと出会った日、3人でキスをすることになるわけだが、このシーンの最後にはパトリックとアートがキスをしているのを、タシが嬉しそうに見守っている形になっていたからだ。

似たようなシーンは『天国の口、終わりの楽園』にもあったけれど、異性愛者の男ふたりはその場のノリでやったことを後になって悔いていたようでもあった。一方で、本作のパトリックとアートはすんなりとそのキスを受け入れているように見える。テニスもセックスも、男とか女とかの違いは関係ないということなのかもしれない。だからこそクライマックスの汗だくのテニスのシーンがエロチックなものに感じられてくるというわけだ。

ゼンデイヤが人気者だからなのか、本作はアメリカでは初登場1位を獲得するヒットとなったらしい。確かにゼンデイヤのスタイルの良さは目を見張るものがあるし、お尻がとてもキレイだった。ジョシュ・オコナー『帰らない日曜日』の上品な役柄とは異なり、無精ひげで荒々しいスタイルのキャラとなっている。前を隠さないスタイルなのはどちらのキャラも同じというのがちょっとおかしい。

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