『映画批評的妄想覚え書き/日々是口実』というブログをやっていた期間は、2012年3月から2019年7月。その間、約500ほどのレビューを書いていたことになる。
オールタイムベスト10をやろうかとも思ったのだが、それでなくとも悩ましいので、前ブログのレビューのなかからベスト16を選んでみた。以下、順不動で16作品をご紹介。
『恋人たち』
世の中の多くの人は他人に迷惑をかけることを嫌がるもの。それでもなかには悪意を持って接する人もいる。信じられないことにも思えるのだが、それが現実らしい。
監督の橋口亮輔も現実にそんな事件に遭遇することになったようで、「飲み込めない想い」を抱えた主人公たちの姿は監督自身の経験も活かされているらしい。橋口亮輔はこの7年ぶりの作品で、『キネマ旬報』の日本映画ベスト・テンの第1位など高い評価を得た。
『嘆きのピエタ』
最初にブログを始めたときも『アリラン』というギドク作品からだったし、自分にとっては重要なシネアストがキム・ギドク。
『嘆きのピエタ』はベルリンで金獅子賞を受賞した作品。
最近はトラブルもあって最新作の公開もままならない状況なのが心配だが、再復活してほしい。
『ロゼッタ』
この作品は時期的にはブログ開始より前のもの(1999年のカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品)なのだが、好きな作品なので当時の新作『少年と自転車』公開に合わせて好き勝手なことを書いてみたもの。
『昔々、アナトリアで』
この作品は劇場公開されていないのだがとても素晴らしい作品だと思うので。
トルコの映画監督ヌリ・ビルゲ・ジェイランの作品は、ベルリンやカンヌなどの国際映画祭で高く評価されているものの、日本では2014年の『雪の轍』まで劇場公開されていなかった。そのほかに観ることのできた『スリー・モンキーズ』と『雪の轍』もどちらも見応えのある作品だったのだが、一番よかったのは『昔々、アナトリアで』だろうか。
『スリー・ビルボード』
「怒りは怒りを来たす」というのがキーワードだが、それは思いも寄らぬところからもたらされる。
この作品では怒りはその対象にまっすぐに届くわけではない。娘を殺されたミルドレッドの怒りは、本当は見つかっていない犯人に向かうべきところだが、警察署長のウィロビーに向けられる。ウィロビーを慕うディクソンの怒りは、本当は看板を出したミルドレッドに向かうべきところだが、広告屋のレッドに向かう。
そんなふうに怒りは連鎖していくことになるのだが、被害者であるはずのミルドレッドの不遜な態度は、彼女を助けてくれた小男ジェームズをも怒らせることになってしまう。そのときミルドレッドは自分の状況を客観視でき、「怒りは怒りを来たす」ということまざまざと知ることになったのかもしれない。
この前、久しぶりに観たのだが、やはり泣かされる作品だということを再認識した。
『リップヴァンウィンクルの花嫁』
久しぶりに観てみると意外に危ない題材を扱ってるのに気づかされる。それでも恍惚として観てしまうのは、主人公の七海(黒木華)が鈍感で何も気づいていないからだろうか。「何でも屋」の安室のキャラは結構際どいのだが、演じる綾野剛の味もあって憎めないものとなっているところも秀逸だった。
『悪の法則』
『ノーカントリー』などの原作者として知られるコーマック・マッカーシーが脚本を書き、リドリー・スコットが監督した作品。全体的に会話劇で派手なところもないのだが、その陰々滅々たる暗さに痺れる。ギレルモ・デル・トロは『悪の法則』を35回も観たと語っていたとかで、万人ウケするとは到底思えないが好きな人には堪らないのかも。
『ゼロ・グラビティ』
3Dで観たら最高の1本。ハラハラドキドキのつるべ打ちで観終わった後には緊張で身体のアチコチが強張るほどだった。そのあとの3D作品でもこれほどの感覚を体験させてくれるものはなかったと思う。
アルフォンソ・キュアロンはその後のNetflix作品『ROMA/ローマ』でも、まったく別のアプローチで高い評価を獲得した。次は何を見せてくれるのか楽しみな監督だと思う。
『魂のゆくえ』
『タクシードライバー』の脚本を書いたポール・シュレイダーが、50年も構想を温めてきた作品。『タクシードライバー』と同様の主題を扱うことになるわけだが、今度はどんな結末が用意されているのか。
『ザ・マスター』
今は亡きフィリップ・シーモア・ホフマンと、ホアキン・フェニックスががっぷり四つに組んで演技合戦を繰り広げる。宗教団体の教祖と、その信者のひとりであるフレディとの曰く言い難い関係を、ふたりの役者の圧倒的な熱量で示してみせるというポール・トーマス・アンダーソンの手腕も見事だった作品。
『草原の河』
チベットを舞台にした作品。まだ6歳だった少女ヤンチェン・ラモが主演で、それでなくとも子供はコンロトール不能な存在とも思えるのだが、さらに子羊とも共演したりする。ドキュメントのように撮られた少女と子羊の交歓が感動的だった。ヤンチェン・ラモがとてもかわいらしくてほのぼのする作品。
『SHARING』
単館の公開でしかも3週間のレイトショー上映ということで話題性には欠けたのかもしれないのだが、3.11を題材としながらもエンターテインメントとなっているという点で貴重な作品かもしれない。未だにソフト化もされてないようで、観る機会はないかもしれないのだが……。ホラー映画でも観ているかのようなゾクゾク感を味わった。
『ウィッチ』
『スプリット』で有名となったアニヤ・テイラー=ジョイの主演作。絵画風なカットとか、ろうそくの灯で撮影された宗教画のような場面が素晴らしかったし、題材としては魔女狩りが描かれることになるのだが、そこから女性の自由についての話となっていくのもおもしろい。ロバート・エガースの初監督作品ということなのだが完成度は高い。
『哭声/コクソン』
韓国の平和な村で起きた一家惨殺事件。警察官ジョング(クァク・ドウォン)は捜査のなかで日本人のよそ者(國村隼)の噂を耳にする。誰が善で誰が悪なのか、二転三転する展開に幻惑される。オカルトチックな力が実在するか否かは別として、「信じる者は呪われる」ということはあるのだろうと思う。
『ローリング』
冨永昌敬の作品では『南瓜とマヨネーズ』もよかったのだが、『ローリング』は思い入れがないこともない水戸を舞台にした作品だったので。それは別にしても特筆すべき渡邊琢磨の音楽と冨永昌敬の冴えた演出もあってとてもカッコいい作品に仕上がっていたのは間違いないと思う。
『サスペリア』
1977年の『サスペリア』(ダリオ・アルジェント監督)はとてもオリジナリティがあったが、ルカ・グァダニーノのリメイク版もそれとは別のスゴいものを見せてくれたと思う。ダンスでの殺人シーンは必見。
コメント
こんにちは。
お引越しされたのですね。これまでのブログでは勝手にTBを貼らせていただいたりとお世話になっておりました。
さて、ベスト16ですが…「嘆きのピエタ」と「ロゼッタ」「スリー・ビルボード」は、私自身も生涯ベスト作品に入ると思います。少し重たいけれど、逃れられないものを突きつけてくる作品に心惹かれる傾向があるように思っております。
また、今後どうぞよろしくお願いします。
コメント、ありがとうございます。
前ブログにはトラックバックをいただきましてありがとうございます。
ここなつさんのブログは「嘆きのピエタ」のレビューを書いたときなど読ませていただいておりました。
「ロゼッタ」「スリー・ビルボード」も生涯ベストということですが、私もどちらも大好きな作品です。
>少し重たいけれど、逃れられないものを突きつけてくる作品
同感です。
観た人に何か残るようなものがいいですね。
今後ともどうぞよろしくお願いします。