監督・脚本は『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』のライアン・ジョンソン。
主演は『クィア/QUEER』のダニエル・クレイグ。
人気シリーズの第3弾。Netflixにて12月12日より配信中。
物語
名探偵ブノワ・ブランが若き実直な神父と手を組み、ある田舎町の教会で起こった絶対に実行不可能と思える犯罪の捜査にあたる。その教会には忌まわしい過去があった。
(公式サイトより抜粋)
人気シリーズの最新作
人気シリーズ『ナイブズ・アウト』の第3弾だ。このシリーズは元ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグが名探偵に扮して活躍するミステリーだが、特筆すべきはすべてライアン・ジョンソン監督のオリジナル脚本となっているところだろう。
最終的に種明かしされることになるトリックにオリジナリティがあるのかどうかは、ミステリーに詳しいわけでもないので判断できないけれど、スター役者を揃えて賑やかだし、毎回楽しませてもらっている。
ライアン・ジョンソンはアガサ・クリスティみたいな作品をやりたいとしてこのシリーズを始めたらしいけれど、ミステリーが大好きなのだろう。
ライアン・ジョンソンのフィルモグラフィーを調べてみると、最初の短編はエドガー・アラン・ポーの『告げ口心臓』を原作としていたとのこと。『告げ口心臓』は「信用できない語り手」という手法を使ったミステリーとも言えるわけで、ライアン・ジョンソンは最初からミステリーをやりたかったということなのだろう。そんなわけで本シリーズのテンションが高くなるのも頷ける。
今回の『ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン』では、いわゆる密室殺人が題材となっている。その密室殺人というものの元祖とされるのが、やはりポーの『モルグ街の殺人』ということになる。
劇中で起きる密室殺人だが、実は容疑者たちみんながその手のミステリーを読んでいることが示される。そして、劇中ではそのブックリストも明らかになる。そのリストには『モルグ街の殺人』から始まり、アガサ・クリスティの『アクロイド殺し』と『牧師館の殺人』、さらに『三つの棺』、『誰の死体?』などが挙がっている。
ところが、この容疑者たちがミステリー好きという設定は、特に掘り下げられることもない。ライアン・ジョンソンとしては、単にミステリーの名作というものを知らしめて、映画ファンをミステリーの世界に誘う意図だったのかもしれない。
ちなみに私は劇中で何度も顔を出すことになるジョン・ディクスン・カーの『三つの棺』を図書館から借りてきてしまった。作中の「密室談義」という部分が有名な作品ということらしいのだが、まだ読んだことがなかったのだ。
ライアン・ジョンソンはミステリーにはもっと面白いものがたくさんあるということを示し、もっとこのシリーズのファンを増やそうと考えているのかも。第3弾の評判も上々だし、もしかすると次だってあり得るかもしれない。

『ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン』 Netflixにて12月12日より配信中
密室殺人と復活の奇跡
主人公はもちろん名探偵であるブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)だが、今回、その相手役となるのがジャド神父(ジョシュ・オコナー)だ。ジャドは元ボクサーで試合中に人を殺してしまったのだという。その罪悪感から改心して神父となったわけだが、彼はウィックス(ジョシュ・ブローリン)という神父のいる教会に送り込まれることになる。
ウィックスは誰にでも開かれているはずの教会を私物化している。ウィックスは教会をその創設者である祖父から受け継いだのだが、そこに因縁がある。要は金目の話ということになる。結局は殺人事件が起きる時は、いつでも金というものが絡んでくるらしい。
ウィックスは一部の後援者だけを優遇し、新参者を受け入れない。後援者の一人に金づるがいるから、それを手放さない限りは安泰なのだ。だから新参者から攻撃対象を見つけ出し排除する。そして、残った者たちが優越感を得ることで、さらに後援者たちは絆を深めることになる。
イエスの教えを伝えたいという真っ当なジャド神父からすれば、ウィックスのやり方は受け入れることができない。だから二人は対立していくことになるのだが、その最中にウィックスが密室の中で殺されることになるのだ。さらには墓の中に埋葬されたはずのウィックスが、その後に生き返ることになる。奇跡が起きてしまったというわけだ。
もちろん本作はミステリーであって、オカルトではない。密室殺人にも、死者が生き返るのにもトリックがあるということになる。しかしそれは誰が一体どうやったのか?
改心するブラン
その種明かしは本作を観てもらうとして、ちょっと長すぎるきらいはあるけれど、最後まで視聴者の興味を引きつける物語になっていたんじゃないだろうか。
ブランは警察に協力するとは言いつつも、密室殺人という不可能犯罪の噂を聞き、それを解決したいという功名心みたいなものもある。しかし、そんなブランが改心するというのが本作だ。
前作はギリシャのリゾート地の設定だったからか、ブランは派手な水着になったりもして浮かれていた感じもあったけれど、本作は教会が舞台ということもあってか、ブランはシックな出で立ちだ。
ダニエル・クレイグは長めの髪に加えあごひげを蓄えて、これまでのイメージを一新している。ブランは頭脳明晰な探偵だが、今回のブランはさらに理知的にも見え、派手さはないけれど渋く決めている。
そんなブランは最初はみんなの前で事件を解決することの快感を語っていた。しかし、ジャド神父の姿に心打たれることになる。ジャド神父はウィックスを殺した容疑者として警察からマークされている。最初はブランの助手として、自らの容疑を晴らすために奔走する。しかし、彼は自分がやろうとしていたことはそんなことではないと途中で気づく。神父になった本来の目的を思い出すのだ。
ブランはそんなジャド神父に感化され、改心することになる。「神はフィクションだが、天啓を受けた」と語るブランは、謎解きを諦め脇役に徹することになるのだ。
今回のブランは幾分か引いた形で事件の成り行きを見守り、その分、敬虔な神父を演じたジョシュ・オコナーにいいところを譲る形になっていて、どちらの良さもうまい具合に引き出していた気もした。

『ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン』 Netflixにて12月12日より配信中
配信のみはもったいない?
シリーズ最初の作品『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』は劇場で観たはずだが、続編の『ナイブズ・アウト: グラス・オニオン』は配信のみだったようだ。第3弾も出演陣は豪華だし、劇場公開しても良さそうな気もするけれどNetflixでの配信のみとなっている。そこがちょっと気になった。
最近は洋画を映画館で観る機会が減ってきているような気もする。きちんと調べたわけではないけれど、感覚的にはそんなふうに思える。似たようなことをSNSでつぶやいている人もいた。
『WEAPONS/ウェポンズ』が公開された時、この作品がワーナー・ブラザース・ジャパンが配給する最後の作品だと話題になっていた。ワーナー・ブラザースの洋画の配給が、ワーナー・ブラザース・ジャパンから東宝東和へ移行することになったかららしい。ワーナーはあまり稼げない日本市場に興味を失ったということなんだろうか。そのあたりの事情は不明だけれど、何かしら業界内での変化が生じているということなのだろう。
とにかく日本での洋画人気が以前と比べて落ちているということは確かなのだろう。だから多くの作品が劇場公開を避け、そのまま配信へと流れていく。
私自身が映画というもの親しむようになったきっかけは邦画よりも洋画だった。特にハリウッド作品は、今よりももっと素人にも訴えかけるような親しみやすさがあった気がする。そんなところからスタートしているからか、映画館で洋画が観られないという状況には寂しいものがある。
2020年あたりの新型コロナ禍がひとつのきっかけとなり、世の中で動画配信サービスが一気に増えることになった。コロナは収束したけれど、動画配信サービスはますます活気づいているようで、洋画の新作はそっちに流れていくことになる。あるいは2023年あたりのハリウッドのストライキの影響が今になって出てきているのだろうか?
また、最近のニュースではNetflixがワーナーを買収しようとし、それに対してパラマウントが敵対的買収をしているなどと言われている。老舗の映画会社を配信プラットフォームを運営するNetflixが買い叩こうとしているということになる。
今回取り上げた『ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン』もNetflixオリジナル作品だ。Netflixは配信の前に一部で劇場公開をしたりもするけれど、これはアカデミー賞狙いということなのだろう。アカデミー賞の規定にそういう条件があるからだ。
だからアカデミー賞みたいな賞レースとは関係なさそうな映画は配信のみということになるのだろう。Netflixとしてはそれでも十分に稼いでいるから、わざわざ劇場公開する必要もないということだろう。
『アバター』第3弾の公開が迫っているジェームズ・キャメロンは、そんなNetflixを批判しているようだ。キャメロンは劇場で観るという体験を神聖なものだとして、劇場での公開というものを擁護している。『アバター』シリーズを3Dでの公開にこだわっているのも、劇場での体験ということを重要視しているからなのだろう。
もちろん手軽に観られる動画配信サービスはもはや欠かせないものになっていて、それは変わらないだろう。けれども巨大スクリーンの迫力や音響システムの整い方は家で観るのとは段違いなわけで、劇場で洋画が観られなくなるというのはやはり寂しい気がする。




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