『This is I』 よりよく生きる

日本映画

監督は『Winny』松本優作

脚本は『爆弾』山浦雅大

主演の望月春希はオーディションで選ばれた18歳の新鋭。

Netflixにて2026年2月10日から配信中。

物語

幼い頃からアイドルを夢見ていたケンジは、成長とともに“自分らしさ”と周囲の視線に悩むようになる。学校でいじめを受け、家族にも相談できずにいたケンジは、両親に内緒で働きはじめたショーパブで、華やかで個性的なメンバーたちと知り合い、「アイ」という名前でステージデビューを果たす。そしてアイは、貴公子のようなダンサー・タクヤと恋に落ちる。一方、過去に患者を救えなかった苦悩を抱える医師・和田は、アイの深い苦悩を知り、性別適合手術の世界に足を踏み入れることを決意する。

『映画.com』より抜粋)

はるな愛の自伝的映画

タレントのはるな愛の半生を描いたNetflix作品。松田聖子のようなアイドルになりたいと夢見ていたケンジ(望月春希)が、いわゆるニューハーフとしてテレビの世界で有名になり、さらにタイで開催された「ミス・インターナショナル・クイーン」で優勝するまでを描く。

『This is I』は、日本のいわゆる歌謡曲がふんだんに使われている一種のミュージカルでもある。松田聖子から始まり、中森明菜にチェッカーズにプリンセス プリンセスに渡辺美里などなど。懐かしい曲が次々と流れることになるわけで、それだけでもとても楽しい作品になっている。Netflix作品ということで、本作は全世界に配信されるわけだが、日本の歌謡曲というものを世界の人がどんなふうに聴くことになるのかも気になる部分ではある。

本作は、はるな愛の半生を描いたと記したけれど、彼女の人生の岐路には実在した医師・和田耕治という人が関わっている。この医師は日本の性別適合手術のパイオニアみたいな存在ということらしい。

その和田医師(斎藤工)の人生に大きな指針を与えたのが、実ははるな愛だったのだ。和田医師がはるな愛と出会ったのは、まだ彼女がショーパブでデビューしたばかりの頃だ。はるな愛は和田医師に睾丸除去手術を頼み、さらに性別適合手術を依頼することになるのだが、和田医師にとっても、それはどちらも初めての経験だったらしい。はるな愛が「女として生きたい」と望み、それを和田医師が受け入れたことからすべてが始ったのだ。

Netflix作品 『This is I』 2月10日より独占配信

性別適合手術は違法?

はるな愛がそうした手術を受けたのは1990年代だが、その頃、日本では性別適合手術は難しいことだったらしい。劇中の台詞では、医師が「優生保護法」により罰せられることもあるなどと言われていた。この台詞の意味がよくわからなかったのだが、日本ならではの事情があるらしい。

このことに関しては、現在も一部劇場で公開中の映画『ブルーボーイ事件』の公式サイトで知ったのだが(映画そのものは残念ながら観ていない)、性別適合手術をするということは生殖を不能にするから「優生保護法」に違反するということらしい。

というのは、1960年代、いわゆるブルーボーイと呼ばれた人たちは、戸籍上は男性だから「売春禁止法」で取り締まれないという事情があったからとのこと。要は無理やり「優生保護法」という法律を利用して取り締まっていただけということなのだろう。

ところがそのなごりみたいなものが90年代にも残っていて、日本では性別適合手術をすることは難しい状況にあった。そうした状況に対して変化をもたらしたのが、和田医師ということだったわけだ。

警察はトランスジェンダーに対する差別意識から性別適合手術をいかがわしいものとして見ていて、和田医師は何度も嫌がらせみたいなことに遭う。それでも性同一性障害を抱える人がいなくなるわけではないわけで、和田医師は権力に逆らってでも性同一性障害を抱える人に寄り添う治療をしていくことなるのだ。

Netflix作品 『This is I』 2月10日より独占配信

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よりよく生きる

和田医師が性別適合手術をすることになるきっかけには、医療というものに対する疑問がある。彼は形成外科として働きつつも、その仕事に疑問を持っていたのだ。

ある女性はどんな原因かはわからないけれど、下顎の一部が抉れるような状態になってしまったものの、医師は命は助かったとしてそれで治療は終わりだとする。しかし、その女性からしたら、元の顔に戻れず、人目を引くような大きな傷を抱えたまま生きていくことは耐え難いだろう。

そうした経験から和田医師は、患者のQOL(Quality of Life)の向上させるような治療を目指すようになり、それが性別適合手術へとつながってくることになるのだ。

はるな愛がブレイクしたのは、2007年にテレビで「エアあやや」と呼ばれたモノマネが売れたからだった。その当時は一種のモノマネ芸人みたいな部分もあったわけだが、日本では誰もが知る有名人となった。ところがその後の2009年に「ミス・インターナショナル・クイーン」において、トランスジェンダー女性の世界1に輝くことになるのだ。

この話題はテレビなどでもやっていたから当然知っていたけれど、何となく個人的には意外な感じもした。というのは、はるな愛はすでに日本では誰もが知る有名人になっていたからで、そうした称号が必要とされるとは思えなかったからだ。それでも本作ではこの「ミス・インターナショナル・クイーン」のシーンがクライマックスに据えられている。

ここでは、はるな愛と和田医師との関係性が重要になってくる。和田医師は初めてはるな愛に出会った時、その歌う姿を「輝いている」と賞賛していた。そして、和田医師がはるな愛の手術をすることを決意したのも、もっと彼女を輝かせたかったからだろう。

極端なことを言えば、性別適合手術というものは、単純に生きていくだけなら必要ないものなのかもしれない。しかしながら、性同一性障害を抱える人は、その状態に苦しんでいることも確かだろう。患者のQOLを向上させるためには、当然、性別適合手術も必要とされることになるわけだ。単に生きるだけではなく、「よりよく生きる」というところに焦点を合わせた場合、そうした手術が必要とされる人もいるということなのだ。

「ミス・インターナショナル・クイーン」での世界1の獲得は、はるな愛が「もっと輝ける」ということの証明だったのだ。そしてまた、それによってはるな愛は、過労もあって若くして亡くなってしまった和田医師がやっていた仕事も間違ってなかったことを示すことになったわけで、大団円の終わり方だったんじゃないだろうか。

ここまではるな愛と和田医師との関係を中心にして色々と書いたけれど、本作の一番の見どころは何と言っても主役の望月春希だ。望月春希ははるな愛とはあまり似てないけれど、トランスジェンダー女性を演じても違和感はまったくなかったし、単純にとても美しかった。まだ18歳の新鋭ということだが、成り切りぶりは堂に入っていて、本作が成功だとすれば、それは望月春希の魅力によると言ってもいいかもしれない。

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