原作は『キネマの神様』などの原田マハが書いた同名小説。
監督はCM演出などをやっていた芳賀薫で、本作は初めての長編監督作品とのこと。
主演は『ちょっと思い出しただけ』の伊藤沙莉。
物語
那覇で豆腐店を営む祖母カマルと母サヨ子と暮らす伊波まじむ。祖母がつけた「まじむ」という名は、沖縄の方言で「真心」を意味する。ある時、祖母とともに通うバーでラム酒の魅力に惹かれ、その原料がサトウキビだと知ったまじむは、契約社員として働く通信会社「琉球アイコム」の社内ベンチャーコンクールに、南大東島産サトウキビを原料としたラム酒製造の企画を応募する。やがてその企画は、家族や会社、南大東島の島民をも巻き込む一大プロジェクトへと発展していく。
(『映画.com』より抜粋)
健全な酒飲み?
沖縄を舞台にした観光PR映画としても、お仕事映画としても、とても健全で楽しい映画だった。
劇中の情報によれば、沖縄は人口10万人あたりの居酒屋の数が全国で1位なのだとか。沖縄の人はお酒が大好きなのだろう。
本作の主人公のまじむ(伊藤沙莉)もそうで、それが高じて酒を造る側に回ることになる。まじむは契約社員として働いていたのだが、大した仕事はさせてもらえず将来を案じていたところ、社内ベンチャー制度というチャンスを見つけ、純沖縄産のラム酒を造ることになるのだ。
私自身も酒飲みなので自戒を込めて言うけれど、酔っ払いというのは結構醜悪だったりするし、あまりいい印象はない。「酒は飲んでも飲まれるな」とは言うけれど、実際にはなかなか難しい時もある。酒飲みなら少なからぬ失敗を重ねているわけで、そんな意味でも酒飲みにいい印象はないということになる。
たとえば、本作で題材となっているラム酒が登場する『ラム・ダイヤリー』なんかを観ても、出てくるのは飲んだくればかりで不健全極まりない話だった気もするのだが、それに対して本作は、極めて例外的にとても健全な話になっている。
まじむは豆腐屋さんの娘だ。毎朝、祖母カマル(高畑淳子)の作るゆし豆腐で朝ごはんをいただくのがルーティンになっているようだ。カマルが身体にいいものと自負する自家製豆腐がとても美味しそうだったのだが、まじむが丁寧に造るラム酒も悪酔いしないような健全なお酒なのかもしれない。

©2025映画「風のマジム」
すべてが丸く収まる
沖縄の酒としては泡盛があるけれど、この泡盛の原料となっているのは実はタイ米なのだとか。
沖縄の農産物としてはさとうきびが有名だ。本作でも南大東島のさとうきび畑の様子が何度も登場することになる。しかしながら、なぜかそれを材料にした酒であるラム酒は造られていない。まじむはそれを造りたいと考えるのだ。
かといって、これは簡単な問題ではない。まじむが考えたアイディアは、さとうきび畑のある南大東島の人たちの生活をも変えてしまうような大きな事業になるからだ。それでも前向きなマジムは諦めない。
というよりも、『風のマジム』には悪役というものがいない。南大東島の人たちも一時は反対するものの、まじむが造ろうとしているラム酒を飲んでみると態度も変わってきて、みんな賛成してくれることになる。
それから社内での競争においても、ベンチャー制度のほかの有力な候補者についてはほとんど描かれることはない。上司の糸数(シシド・カフカ)だけが、ちょっとだけマジムの障壁になったりもするものの、最終的にはすべてが丸く収まる形になる。
そんな意味では、お仕事映画としての盛り上がりには欠けるし、尖った映画を観たいと思う人には向かないのかもしれない。とはいえ、沖縄ののんびりとした雰囲気には、本作のような緩さが合っているのかもしれないという気もする。

©2025映画「風のマジム」
たまにはラム酒もいいかも
とにかく出てくる人たちがみんないい人ばかりだった。主演の伊藤沙莉は何事にも前向きで諦めることがないまじむを演じ、屈託ない笑顔を見せてくれる。「まじむ」というのは沖縄の方言で「真心」ということらしい。伊藤沙莉の笑顔には嘘偽りがなさそうで、どこか真心が感じられるから、みんな彼女を応援したくなり、それがまじむの成功につながっていく。
驚いたのはカマルを演じた高畑淳子だ。最初は日に焼けた沖縄のおばあさんだとばかり思っていた。それほどうまく化けていたのだ。声が特徴的だったからわかったものの、そうでなけば最後まで騙された可能性すらあるかもしれない。
そのほか脇役陣も多彩で、個人的には『ぶぶ漬けどうどす』にも出ていた小野寺ずるがツボだった。理由はわからないけれど、そこはかとなく面白い。それから沖縄出身の有名人があちこちに顔を出して楽しませてくれる。
本作には原作小説があるのだそうだが、その原作は実在の人物をモデルとして書かれているらしい。そのモデルとなったのが金城祐子という人で、彼女が造ったのが「コルコル」というラム酒らしい(劇中のまじむが造った酒は「風のマジム」という名前になっている)。
私自身は最初から最後までずっとビールでもいいくらいのビール党なので、ほかの酒を飲む機会は多くはないのだけれど、本作を観ているとたまにはラム酒もいいんじゃないかという気もしてくる。
本作で造るラム酒の種類はアグリコール・ラムと言われるものらしい。普通のラム酒は砂糖製造時に出る糖蜜を使って造るのだが、アグリコール・ラムは新鮮なさとうきびの搾り汁を使うらしい。アグリコール・ラムというのは造っているメーカーも少なく、とても希少性が高いらしい。だからなのかちょっと値段はお高い気もするけれど、一度くらいは飲んでみたいものだ。








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