『愛はステロイド』 ポパイにほうれん草

外国映画

監督・脚本は『セイント・モード/狂信』ローズ・グラス。本作は長編第2作。

主演は『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』クリステン・スチュワート

原題は「Love Lies Bleeding」。

物語

ルー(クリステン・ステュワート)と、ボディビルで名をあげることを目指しながら旅をしているジャッキー(ケイティ・オブライエン)が出会い、2人は恋に落ちる。しかし、町の裏社会を仕切るルーの父親をはじめ、ルーの家族が抱える闇に二人は巻き込まれていく…。

(公式サイトより抜粋)

ポパイにほうれん草

劇中では、ベルリンの壁が云々と言われていることから推測するに、1980年代末が舞台になっているということなのだろう。ファッションが今の感覚からするとダサい感じなのも、「時代が時代だから」ということになる(それがいい雰囲気を醸し出しているとも言える)。

なぜ『愛はステロイド』がそういう時代を背景にしているかと言えば、邦題にも採られているように「ステロイド」というものが当たり前のように使われていた時代だからなのだろう。筋肉増強剤として使われるアナボリックステロイドは、今では長期的に使用を続けると健康リスクがあるとされている。

しかし、当時はそんな懸念は明らかになっていなかった。だから本作ではステロイドが頻繁に使われることになる。一種の麻薬みたいな扱いになっており、ポパイがほうれん草を食べてパワーアップするように、本作ではステロイドを注入することでパワーアップすることになるのだ。

本作は一種のボディ・ホラーになっている。ボディ・ホラーというジャンルは、「肉体の変容」を描くとされている。最近の作品では『サブスタンス』『TITANE チタン』などがそれに当たるだろう。ボディ・ホラーでは、もっとグロテスクに肉体が変化していく場合も多いけれど、本作で題材とされているボディビルというものも一種の「肉体の変容」なのだろう。

ボディビルダーの肉体はちょっと通常の人とは異なるものに見えなくもない。黒光りする筋肉の鎧を身に着け、それを周囲に誇示するボディビルの大会もどこか異様なものと感じられなくもないのだ。

©2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

ルーとジャッキー

主人公のルー(クリステン・スチュワート)はニュー・メキシコの町で、トレーニングジムの仕事をしている。そこに現われたのがボディビルをしているジャッキー(ケイティ・オブライアン)だ。ふたりはすぐに恋に落ちることになる。

ジャッキーはオクラホマからラスベガスへと向かう途中だ。ラスベガスのボディビルの大会で優勝することがジャッキーの目標なのだ。そのためにルーは協力することになる。そして、ルーが差し出すのが筋肉増強剤のステロイドなのだ。ジャッキーはそれにハマっていき、ステロイド・ジャンキーのようになっていく。

ルーの町の支配者は、ルーの父親(エド・ハリス)だ。彼は射撃場を経営しているのだが、それは表の顔であり、実は裏ではメキシコに大量の武器を輸入して稼いでいるらしい。そして、トレーニング・ジムのオーナーも実は父親らしい。

それでもルーは父親のことを嫌っていて、彼とは距離を置いている。父親を「サイコ野郎」と呼ぶルーは、町から出ていっても良さそうなものなのだが、姉のベス(ジェナ・マローン)のことを心配してそれができないらしい。ベスの旦那は父親のもとで働いているJJ(デイブ・フランコ)という男なのだが、暴力でベスを支配しているため、姉のことが心配で町を離れることができずにいるのだ。

※ 以下、ネタバレもあり!

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呆気に取られるラスト

本作ではいわゆる「有害な男性性トキシック・マスキュリニティ」というヤツを振りかざす男たちばかりが登場する。奥さんのベスをDVで支配しているJJはわかりやすい例だろう。ところがベスはそんなJJにゾッコンで、半殺しの目に遭っても「愛している」と言って憚らない。これでは埒が明かないということになるのだが、そんな時にステロイドを注入したジャッキーが暴走し始めることになる。後半はかなり無茶苦茶な展開になっていき、それにルーは翻弄されていくことになる。

女ふたりが男たちに対して一発かます話という点で、本作は『テルマ&ルイーズ』の新時代バージョンといった趣きもある。ただ、悲劇に終わるほかなかった『テルマ&ルイーズ』とは結末はまったく異なる。

ラストでは予想もしなかったような出来事が起きることになる。尤も、最初からステロイドによる「肉体の変容」は描かれてきていたし、その肉体が異様な変化をしつつあることは、血管の浮き出た様子や筋肉が軋むような音などにも表現されていたわけで、ラストの超常現象はネタ振りされていたとも言えるのかもしれない。とにかくこのラストには唖然とするしかなかったのだが、それによって本作はハッピーエンドを迎えることになる。

ちなみに本作鑑賞後に、ローズ・グラス監督の長編デビュー作『セイント・モード/狂信』も観てみたのだが、このデビュー作でも超常現象が起きている。ただ、『セイント・モード/狂信』の場合は、一応それに対しての言い訳が用意されているとも言えるのだけれど、本作はあっけらかんとファンタジーのように振り切っているところが奇妙な味わいになっている。

ジャッキーを演じたケイティ・オブライアンは、『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の潜水艦でのエピソードで、トム・クルーズに潜水服を貸してくれる女性を演じていた人らしい。元々ボディビルをやっていたこともあって、見事な肉体美を見せてくれる。そんなジャッキーの暴走に振り回されるクリステン・スチュワートは、今回はイケメン風だったけれど相変わらずの美貌だった。

それから怪演だったのがエド・ハリスだろう。後ろ髪を伸ばした落ち武者のようなスタイルで、ラスボス感を演出している。カブトムシが大好きという設定なのだけれど、なぜかそれを食べてしまうという意味不明な行動もあり、かなりエキセントリックな役柄になっていて目が離せなかった。

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