『海辺へ行く道』 日常に迷い込んだ“何か”

日本映画

原作は三好銀『海辺へ行く道』シリーズ。

監督・脚本は『ウルトラミラクルラブストーリー』横浜聡子

主演は『サバカンSABAKAN』原田琥之佑

物語

アーティスト移住支援をうたう、とある海辺の街。のんきに暮らす14歳の美術部員・奏介と後輩の立花は、夏休みにもかかわらず、演劇部に頼まれた絵を描いたり新聞部・平井の取材を手伝ったりと毎日忙しい。先輩のテルオは海辺に建てた自分のアトリエで何やら忙しそうだ。
街には何やらあやしげな“アーティスト”たちがウロウロ。そんな中、奏介たちにちょっと不思議な依頼が次々に飛び込んでくる。
長いサンバイザー、江戸の人魚、静か踊り、カナリア笛、野獣、穴…。この街は今日も何かがちょっとヘン。ものづくりに夢中な子供たちと秘密だらけの大人たち。果てなき想像力が乱反射する海辺で、すべての登場人物が愛おしく、優しさとユーモアに満ちた、ちょっとおかしな人生讃歌。

(公式サイトより抜粋)

日常に迷い込んだ“何か”

全体は3つのパートに分かれているけれど、この章立てには意味はなさそうだ。物語として、何かしらのまとまりがあるわけではないのだ。海辺の街を舞台にしているという点では共通しているけれど、全体的には細かなエピソードの羅列とも言える。

一応、公式サイトでは主人公が設定されているけれど、ほかのキャラと比べて主人公がとりわけ目立つというわけではない。多くのキャラが登場する群像劇というスタイルになっているのだ。

原作漫画は三好銀『海辺へ行く道 夏』『海辺へ行く道 冬』『海辺へ行く道 そしてまた、夏』という三部作らしい。原作は読んでないので詳しいことはわからないけれど、舞台となっているのは海辺にある架空の街ということらしい。

この映画版『海辺へ行く道』は、全編小豆島ロケとのこと。小豆島で撮られた作品としては『からかい上手の高木さん』がある。『からかい上手の高木さん』も風光明媚な島を舞台にしていて、観ていてとても癒されるところがあったけれど、本作も同様だ。

撮影の月永雄太が撮った青空は、白い雲とのコントラストがとても映えてちょっとシュールな感じすらするくらいだった。そんな風景の中、“静か踊り”というその街独特の盆踊りが始まる。周囲の迷惑を考慮して、鳴り物は一切せずに、静かに踊るのが特徴らしい。しかも笑うことも禁止されていて、笑みを浮かべると審査員から失格を言い渡されることになる。

©2025映画「海辺へ行く道」製作委員会

そんな不思議な祭りは実際にありそうだし、舞台は小豆島だからリアルな島の風景が堪能できるわけだけれど、本作が面白いのはそんな現実と地続きな世界の中に、唐突に非現実的な何だかよくわからないものが混ざり込んでくるところなんだろう。

ほのぼのとした街の人びとの日常を追っていたと思ったら、そこに唐突に『スキャナーズ』みたいな怖いエピソードが入り込んでくる。少年が母親を守るために、セクハラじいさんの頭を爆破させようとするのだ。

それから野獣と呼ばれている何かは、『ブンミおじさんの森』に出てきたアレみたいだったけれど、結局一体何なのかはわからずに終わることになる。

日常の中に迷い込んでくる非日常的でよくわからない“何か”。これが一体何を意味するのかはわからないし、どんなふうに解釈すべきなのかもわからないけれど、もしかすると世界ってのはそんなものなのかもしれない。

©2025映画「海辺へ行く道」製作委員会

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少年、アーティストを論じる

本作の海辺の街はアーティスト移住を支援しているらしい。だからそこにはアーティストらしき人たちがウロチョロしている。そして、そんな人に影響されたのか、街の子どもたちもアートに夢中になっている。

それでも真っ当にアートをしているのは、子どもたちばかりだというのが面白い。主人公の奏介(原田琥之佑)は、夏休みもずっと忙しくしている。「暇だから忙しい」というのが彼のモットーらしい。

というのも、奏介は誰かに押し付けられたことをしているわけではない。「やるべきことがない」という意味では、暇なのかも。でも、暇だから好きなことをやり始めると忙しくなるということなのだろう。

奏介の先輩テルオ(蒼井旬)もいつもアトリエで忙しそうだ。テルオは寝たきりのおばあさんの夢を叶えるために、亡くなったおじいさんに変身する。このことは後でトラブルになるけれど、テルオにとってはおばあさんの夢を叶えることがアートだったのだろう。

彼ら少年アーティストたちは、こんなことも言う。アーティストは自分で好きなものを作っているだけ。だから「すべてのアーティストは自称であるべき」なのだという。至極もっともな意見だろう。

一方で街にアーティストとして移住してきた大人たちには、いい加減な人も多いらしい。支援金だけを受け取って何もしない人も多いらしいのだ。

©2025映画「海辺へ行く道」製作委員会

正直、どんな話だったのかというとよくわからない。つかみどころがないと言えるかもしれない。それでも街の人たちは変わり者たちが多くて、何となく楽しい。あまり客が来そうもない堤防の上でレイモンド・カーヴァーを読みながらランチ店をやっている女性を演じていたのは坂井真紀で、それを素潜りして買いに来る男を演じていたのはクドカンだった。そんな面白キャラが色々と出てくるし、キャストもバラエティに富んでいた。

包丁を実演販売している詐欺師(高良健吾)とその彼女(唐田えりか)のエピソードでは、不動産屋の女性として剛力彩芽も登場する。『極悪女王』のクラッシュ・ギャルズのふたりがちょっとだけ顔を揃えるシーンが嬉しい。

それから子どもたちがみんな活き活きしている。アーティストを気取る3人もいいけれど、そのほかのキャラもいい。演劇部のうるさい男の子とか、テルオの妹とかがいい味を出していて、そんなのを観ているだけでもなかなか楽しい。

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