監督・脚本は『トリとロキタ』などのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ。
原題は「Jeunes mères」で、「若い母親たち」という意味。
カンヌ国際映画祭では脚本賞とエキュメニカル審査員賞を受賞した。
物語
ジェシカ、ぺルラ、アリアンヌ、ジュリー、ナイマの5人の少女は、若い母親を支援する施設で共同生活を送っている。「ひとりじゃ育てられない」「嬉しいと思いたいのに」――家族との関係、貧困など、さまざまな問題を抱えている彼女たちは、戸惑い、悩みながら、母になる。なるべき家族像を見いだせず、歩むべき道がわからず、押し寄せる孤独感にもがきながらも、時に誰かに寄り添われ、それぞれの未来を選び取っていく――。愛された記憶を持たなくても、自らの手で「愛する」ことの何たるかをつかみ取っていく少女たちの姿が観る者の心を揺さぶる。
(公式サイトより抜粋)
若い母親たちを追いかける
これまでのダルデンヌ兄弟の作品は、困難な状況に置かれたひとりの主人公を、手持ちカメラで執拗に追いかけていくようなスタイルで撮られていた。ところが本作ではタイトルそのものも複数形になっているように、主人公が何人も存在する群像劇となっている。これまで同じスタイルを貫いてきたダルデンヌ兄弟だけに、群像劇ということだけでも気になる作品だ。
『そして彼女たちは』は、フランスのある施設を舞台としている。この施設は若くして母親になった人たちを支援する施設であり、本作はそこを主な舞台にして少女たち(実質4人)の姿が描かれることになる。
まだ少女と言ってもいいくらいの年齢で母親になれば、世間的にも評判がいいことはないのだろうし、そのことによって余計に多くの問題を抱えることにもなる。本作の少女たちもそれぞれに困難な状況にあるのだ。
ジェシカ(バベット・ヴェルベーク)はもう間もなく出産という時期なのだが、今さらになって自分を捨てた母親に対してこだわりを見せる。彼女はわざわざ母親に会って恨み言を言いたいと感じているのだ。
ペルラ(ルシー・ラリュエル)の場合は子どもの父親に執着している。それでも相手の男は彼女たちを厄介者扱いするばかりで責任から逃がれようとする。
アリアンヌ(ジャナイナ・アロワ・フォカン)にはアルコール依存症を抱えた母親がいて、アリアンヌとしては自分の子どもにそうした環境を押しつけることを望んでいなかった。
ジュリー(エルザ・ウーベン)は、子どもの父親がしっかり傍に居てくれているのだが、自身はドラッグを止められずに苦しんでいる。

©Les Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange
– Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo©Christine Plenus
群像劇の是非
今回はダルデンヌ兄弟の初めての群像劇ということだが、実は前作『トリとロキタ』にも変化の兆しはあったのかもしれない。『トリとロキタ』は主人公がふたり存在する形になっているからだ。そして、前半と後半では主人公が入れ替わる形になっていた。
今回はさらに主人公が増えて群像劇となっているものの、カメラが主人公のことを追いかけていくスタイルは変わっていない。
このダルデンヌ兄弟の初めての群像劇がどうだったのかと言えば、いまひとつ心を揺さぶるようなものがなかった気もする。

©Les Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange
– Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo©Christine Plenus
たとえば『ロゼッタ』を観ると、観客は主人公ロゼッタの姿を延々と見続けることになるわけで、彼女と一体化してしまったかような気持ちになり、心を揺さぶられたんじゃなかっただろうか。
それに対して本作のような群像劇の場合、視点がコロコロと入れ替わるわけで、主人公たちに対する没入感というものはあまりないし、ある程度客観的に対象を観察するようになってしまう。その点で心を揺さぶるほど感情移入できなかったということなのだろうと思う。
また、扱っている題材も、過去のダルデンヌ兄弟作品を思わせるものがある。子どもを養子に出す話は『ある子供』でもやっているし、アル中の母親を抱えた少女は『ロゼッタ』も同様だった。さらに自分を捨てた親に対する執着は『少年と自転車』でも描かれていたというわけで、過去作品のダイジェストを観たような気持ちにならなくもなかったのだ。
群像劇ということで若い母親たちのいくつかの未来を同時並行的に描くことになっていて、それを演じた新人女優たちも魅力的に撮られていてそこは悪くないのだけれど、過去作品のいいところを寄せ集めてできた作品という印象でもあったのだ。

©Les Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange
– Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo©Christine Plenus
天使のような笑顔
もちろん悪いところばかりではない。ジェシカが母親に対して抱く愛憎は、彼女のような過去を持っている人ならばありがちなのだろう。
恐らく母親にはすでに別の家族がいる。そして、ジェシカ自身も自分が産んだ子どもに対して愛情を抱けないかもしれないといった不安を感じている。そうしたアレコレが母親に対する複雑な感情として発露するというわけで、ジェシカと母親のやり取りは見応えがあった。
それからアリアンヌの選択もわからないでもない。アルコール依存症を抱えた母親のせいで苦労してきたアリアンヌは、自分の子どもにはそんな思いをさせたくない。だから裕福な夫婦に養子に出すことを選択する。そして、この母子の別れはとても印象深かった。
アリアンヌが自分の子どもを車に乗せて養父母のところへ送り出す瞬間、その子どもは何とも無邪気な天使のような笑顔を見せてくれる。母親のアリアンヌが思い悩んでばかりでほとんど笑顔を見せていなかっただけに、余計にそんなことを感じさせるのだ。

©Les Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange
– Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo©Christine Plenus
それでもそれぞれのエピソード間にはほぼつながりというものがないし、それぞれの主人公が別の主人公に対して影響を与えるということもなく、群像劇である必然性みたいなものは感じられなかった。一応、ナイマ(サミア・イルミ)という主人公もいて、彼女はほかの少女たちのおかげで「一人親は恥じゃないと思えた」とは言うけれど、それほど少女たちの連帯感も感じず、取ってつけたような希望にも思えた。
もしかするとほかの監督の作品だったなら、もっと評価したのかもしれないけれど、ほかならぬダルデンヌ兄弟の作品だけに余計に物足りなく感じたということはあるだろう。何度も言っているけれど、『ロゼッタ』がとてもお気に入りの作品なので、どうしてもそんな気持ちになってしまうのだ。
ここまで書いた後に知ったのだけれど、その『ロゼッタ』でタイトルロールを演じたエミリー・ドゥケンヌが2025年に亡くなっていたらしい。『CLOSE/クロース』で久しぶりにその姿を見ることができたわけだけれど、その作品が遺作となってしまったということになる。43歳ということでまだまだ若かったのに……。



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